金融機関や電力、電鉄などの大手企業で「個人向け社債」の発行が相次いでいる。世界的な金融危機で株式市場が低迷し、また企業の業績悪化でこれまで社債を買っていた機関投資家が敬遠するなど、企業の資金調達がむずかしくなっている中で、個人投資家から利回りのよさに注目が集まっている。なかでも、「デフォルトの心配少ない」とメガバンクが人気だ。

株式ほどリスクなく、国債よりも利率がいい

   社債といえば、これまでは機関投資家を対象に、購入単位が1口1億円以上という大口で販売してきた。その購入単位を10万円、100万円と、個人にも手が届くように設定したのが個人向け社債だ。

   株式投資ほど高いリスクを負いたくないが、預金や国債では利率が低くすぎて物足りない。個人向け社債はそんな個人投資家の思いをすくった格好で、たとえば小田急電鉄の社債(償還期間3年)の利率は年1.0%で、個人向け国債(10年もので年0.5%)と比べて利率もいい。

   企業にとっても機関投資家が資金を出してくれない以上、個人投資家から「広く薄く」拠出してもらうしかない。資金の出し手として、いわば「最後の砦」といえなくもない。

   しかし、発行企業が倒産すれば債務不履行(デフォルト)になるリスクがある。2001年には小売業のマイカルが発行した100億円の個人向け社債が、同社の経営破たんとともに債務不履行になった。

   また、社債は流動性に乏しいのが弱点だ。つまり中途解約がむずかしい。社債は償還期日まで保有するケースが多いが、たとえ保有していた社債が売れたとしても、発行企業の業績が悪化していると元本割れの可能性もある。

メガバンクは公的資金が「後ろ盾」に

   ところが、最近の個人向け社債には、こんな例がある。オーストラリア・ニュージーランド銀行が300億円を発行する円建て外国債券(サムライ債)は、仮に同行が破たんした際には豪政府が保証する条項が付いている。

   サムライ債は、08年9月にリーマン・ブラザーズが経営破たんしたことで、同社が発行していたサムライ債がデフォルトしたことは記憶に新しい。豪NZ銀行の場合、万一のデフォルト・リスクを政府が保証することで個人投資家に安心して保有してもらおうというわけだ。

   三井住友銀行や三菱東京UFJ銀行、みずほコーポレート銀行、大和証券グループ本社などの金融機関の資金調達が目立つのも最近の傾向だ。証券界では最大手の野村証券が08年12月12日〜25日に1口100万円で募集し、3000億円を調達。同社は「堅調に集まった」と話している。

   現在募集中の三菱東京UFJは、4500億円もの個人向け社債を発行。期間は8年で、利率は年2.75%に設定。社債の信用度を判断する材料には格付けがあるが、三菱東京UFJの場合、日本格付研究所(JCR)はダブルAマイナス(20段階の上位4番目)と高い評価にある。

   メガバンクでは、みずほコーポレート銀行も1口200万円で1000億円を募集する予定。三井住友銀行は、当初の1000億円の計画から300億円を上乗せし、1口100万円から募集している。

   銀行が発行する社債の共通点は、「劣後債」であること。劣後債は、発行企業が倒産したとき、投資家に元利金が返済される順位が劣後する(後になる)債券だが、その分利率がよいのが特徴。

   とはいえ、一般的にはメガバンクにデフォルト・リスクはほとんどないとみられている。金融危機で公的資金が資本注入された米シティグループのように、メガバンクの場合もおそらく万一のときは公的資金が注入されるのだろうと考える。破たんしなければ、劣後債が紙くずになることはないというわけだ。

   豪NZ銀行のように政府保証とは言わないまでも、銀行には公的資金という「後ろ盾」がある。「いまや外国の国債よりも安心」と苦笑する証券マンもいるほどだ。

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