堺ビッグボーイズの野球体験会で自身の考えを発信した筒香選手(筆者撮影)

1月14日、大阪府堺市の少年野球チーム、堺ビッグボーイズは野球未経験者対象の野球体験会「アグレシーボ」を開催。OBである横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智は、昨年に続き、報道陣にメッセージを発信した。その内容をお届けする。
参考記事:『DeNA筒香「球界の変わらない体質」にモノ申す』

子供ではなく、大人が中心になっているのではないか

昨年、このアグレシーボ体験会でお話ししたことを、いろいろな形で取り上げていただきました。それがきっかけとなり、本を出版することもできました。これも、成果の1つではないかと思います。

本日は、私が感じたことや、もっとこうすればよいのではないかという思いを話します。


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昨年は、スポーツ界で良くないニュースが数多く取りざたされました。皆さんもご存じの通り、アメリカンフットボールの悪質なタックルや、ボクシング界、体操界などで良くないニュースが取り上げられました。

これは偶然ではなく、スポーツ界全体が変わらなければいけないのかなと感じます。

残念ながら、野球界でも全国大会にたくさん出て優勝もしている強豪少年野球チームの監督の暴力、暴言の映像が出てきました。これもたった1つのチームの問題ではなく、今までこういうことが行われてきたんだな、と思っています。

これから子供たちのことについて本当に考えたときに、今行われている指導は正しいのか? なぜこういう問題が起こってしまうのか、みんなが掘り下げて考えていかなければいけないと思います。

私も先日、ある少年野球チームを見学に行きました。そこでは指導者の方が暴言、罵声を浴びせ、事細かい指示が行われていました。子供たちはできないのが当たり前なのに、なぜそれを怒っているのか。大人中心になっているのではないかと感じました。

常に勝つことが優先されることからくる厳しく長い練習時間、過密な試合日程で、子供たちに負担がかかっているという現実をもっと皆さんが知るべきだと思います。

堺ビッグボーイズに子供を通わせている保護者の中にも、他のチームを見に行ってあまりにも指導者が怖いので、入団をためらったという声も聞きます。朝から晩まで長い練習があるので、遊びに行く時間がない、勉強の時間もない。親も付き合うので他のことができないという声も聞かれました。

今、小中学生では大会の数がだんだん増えていると聞きます。企業や新聞社などが主催をしていますが、これはほとんどがトーナメント形式で勝ち進めば進むほど、過密な日程になり、子供たちにはかなりの負担になっていると聞いています。

みなさん「良かれ」と思ってやっていただいていますが、子供たちが犠牲になっているという観点を持つべきだと思います。

プロ野球の11球団も各地で大会を開いていますが、それもトーナメント制で勝ち進めば試合日程が過密になっています。強いチームの子供ほど、肘や肩を壊すというケースが多いです。ひどい場合では小学生なのに、手術をする例もたくさんあります。医師に聞いたところでは、小さいころに肘や肩を痛めた子供は、再度発症する確率が格段に上がると聞いています。

良かれと思ってやっていることが子供たちの逆に負担になっているということがあります。大人の皆さんがもっともっと理解して「子供たちを守る」ということを考えていかないと野球界は変わっていかないと思います。

良い野球界にするにはどうすればいいのか

野球界はこれからもどんどん(野球未経験者)の体験会が増えてくると思います。高野連(公益財団法人日本高等学校野球連盟)も今後の構想として野球普及を挙げています。高校野球の部員たちが、全国の野球をしたことのない子供たちのもとに出向いて野球のすばらしさを教える活動をすると思います。

その活動はすごくいいことだと思いますが、そこで野球の楽しさを知った子供たち、興味を持った子供たちが、入ったときのチームの環境が変わらなければまた同じことの繰り返しになると思います。先ほども言いましたが、野球を楽しむ環境が広がらなければだめだと思います。

子供たちの人生に活かせなければ、本当の意味で野球をする意味はないと思います。ここにいる皆さんのご協力も不可欠だと思いますので、皆さんとも知恵を絞って、よい野球界にしていければと思います。

この後の報道陣との質疑応答でも、筒香は明確な意見を述べた。

――現役の野球選手が声を発するのは勇気がいることだと思うが、危機感があるのか?

筒香(以下略):僕も野球界に育てていただいて、いろんな素晴らしい体験をしてきました。でも、世間では罵声や暴力が当たり前だということを知りました。

過去はそれでよかったかもしれませんが、これからはこれではだめだと思い、堺ビッグボーイズの瀬野竜之介代表と話す中で、できることをやりたいということで発信させていただいています。いちばん大事なのは子供です。でも現実は大人たちの自己満足になっているのではないかという疑問を持っています。

――まもなくシーズンが始まるが、プロ野球選手としてどういう活動をしていきたいか?

プレイヤーとして頑張るのがいちばんですが、スタッフの方々とも話し合って、できるだけのことをやりたいと思います。

――この体験会をきっかけに「野球が楽しい」という子供がたくさん出ているが?

それがすごく大事な要素だと思います。全国の野球チームもそうなれるように、いろいろ発信できたらいいかなと思います。

――野球界が変わっていけば他のスポーツも変わることができるか?

もちろん、変わると思います。新しい時代に対応して変わっているスポーツもありますが、そうでないスポーツもあります。僕は野球をやっているので、その立場から情報発信をしていきたいなと思います。

やはり指導者が変わらないといけない

――野球界の改革に取り組んでいる人にはどんな声をかけたいか

いきなり大きく変わることはできませんが、皆さんが協力し合って、知恵を出し合うことで、変わっていくと思うので、皆さんが協力し合うことが大事だと思います。

――野球界は重い腰で動かないが、少しでも変わったという実感はあるか?

プロ野球界を通じた体験会が増えているのではないかと思います。でも体験会、野球教室は増えたけれど、指導者の方はあまり変わっていないという現実があります。野球を楽しみたいという子が入ったときに「思っていたのと違う」ということになります。やはり指導者の方が変わらなければと思います。

――これからもこういう発信をしていく覚悟はあるか?

はい。

――子供たちは甲子園が目標になっていて、小学校時代から詰め込み式で野球を教えられているが?

甲子園があるために、かなりの数の選手がつぶれていると僕は思っています。でも、甲子園に本当に行きたいのは誰なのかというと、結局、監督や部長ではないかと思います。大人がこうした被害から子供たちを守っていかないと、と思います。アメリカでは球数制限が導入されていますが、日本でも各連盟がルール変更していく必要があると思います。

――今日の体験会でコーチの方がホームランを打とう、と言っていたが野球の楽しさとしてフルスイングは重要か?

強い打球を打つことが楽しさにつながりますし、細かいことを言われずにフルスイングをしていた子供が、のちのちそれが役に立ったというケースがかなり多いと思います。小さいころから細かいことを詰め込みすぎると、小さくまとまってしまいがちだと思います。日本にスーパースターが出ないのはそのためだと思います。

――なぜそうなると思うか?

言い方は悪いですが、いちばん感じるのは指導者の自己満足。ストレスを発散しているのではないかと思うこともあります。勝つことが常に優先されるので、姑息な手を使って勝ちにいったりしても子供たちの将来のためになりません。いちばん勝ちたいと思うのは、選手ではなく監督やコーチだからだと思います。


フルスイングを披露した筒香選手(筆者撮影)

甲子園の投手酷使に驚く外国人選手たち

――甲子園で一人の投手が投げ切ったりするが、そういう姿を見てどう思うか?

いちばん印象的なのは、外国人選手の反応です。ベイスターズのロッカールームでも甲子園のテレビが流れていることがありますが、外国人選手は「こいつら潰れてしまうぞ、クレイジーだ」と驚いています。

――新潟県高野連では「球数制限」を導入しようとしているが?(編集部注『「球数制限」導入する新潟県高野連の思惑は?』)

そうやってルールを変更しないと、みんなやってしまうと思うので、ルールを変えて子供たちの将来を守るのが大事なのかなと思います。

(文中一部敬称略)