東京23区ー。

東京都の中心となる23の「特別地方公共団体」の「特別区」のことを、私たちは東京23区と呼ぶ。

23ある中の、どの区に住んでいるかによって、その人の傾向や特徴は如実に表れるもの。

料理研究家として活動する青柳里香(28歳)が、各区の男たちとデートを重ねることで感じた、それぞれの特徴と生態とは・・・?

前回は、渋谷区スタートアップ系男子、絶対王者港区男子やダークホース品川男子、ベストバランスの目黒男子を見てきた。今週は?




-今日は何を着て行こうかな・・・

鏡の前で、私はさっきから何枚も洋服を取っ替え引っ替えしている。今日のデート相手は、千代田区のいわゆる“番町”と呼ばれるエリアに住む達郎(35歳)。

彼はバツイチだという噂もあるが、独身でいることが不思議なくらい、誠実そうで清潔感がある。

また、何を隠そう彼の父親は有名な政治家だ。

彼は現在、不動産関係の会社に勤めているのだが、どうして私とデートする気になったのか不思議なくらい、素晴らしい経歴の持ち主でもある。

そんな達郎が予約してくれたのは、ニューオータニに入る『トゥールダルジャン 東京』だった。

クラシックで重厚感が素晴らしいウェイティングエリアのソファー席に座って、店内の雰囲気に圧倒されていると、約束の5分遅れで達郎はやってきた。

「ごめんね、待たせちゃって」
「全然待ってないので大丈夫です」

そう笑顔で答えながらも、私は気がついてしまった。店のスタッフの方が全員、彼の名前を知っており、そして挨拶をしに来ることに。

「じゃあ中に入ろうか」

そうして達郎にエスコートされ、奥のダイニングエリアへと移動する。この時、私はまだ緊張していた。

しかし食事が進むにつれ、何故彼が私をデートに誘ったのか、そして彼の本当の目論見が段々と明らかになってきたのだ。


達郎が里香をデートに誘った意外な理由とは?


「あの、ここよく来られるんですか?」

さっきから慣れた様子でワインをオーダーし、親しげにサーバーの方と話す達郎はあまりにもくつろいでおり、“ホーム”感を漂わせている。

「うん、家族でご飯といえばニューオータニが多いから。『なだ万』とかは祖母との思い出が詰まっているしね。ちょうど先週末も、親父とそこでランチしてたけど」

「あれ?今ご実家暮らしでしたっけ?」

「まさかまさか。一応離れて暮らしてはいるけど、実家までは徒歩5分の距離なんだ。親父もお袋も、実家の近くで家を買えってうるさくてさ」

何とも千代田区民らしい優雅な発言に、私は黙って、豪華でエレガントなダイニングルームを見渡す。




-本当に、彼はお育ちが良いんだろうなぁ。

生まれも育ちも番町で、千代田区以外には住んだことがない達郎。生粋の、正真正銘の「千代田区プリンス」だ。

達郎の住む番町は多くの文化人も好んだ高級住宅街で、その格式の高さは都内随一。ゆったりと独自の時間が流れており、千鳥ヶ淵では四季折々の美しいを景色を堪能することができる。

そんな千代田区を体現しているかのように、決して華美ではないものの、気品が溢れる達郎。

一見どこの物か分からないような高級品を好み、解りやすいブランドロゴ入りの物など決して手にしない。女性で言うならば、MIKIMOTOのパールを好むような、そんなタイプだろう。

「この界隈、とっても住みやすそうですよね!」

「さすが里香ちゃん!そうなんだよね、千代田区は皇居も永田町もあるから、本当に良い環境なんだ。ちなみに都内の住宅地の中で、千代田区の六番町は二番目に地価が高いんだよ」

2017年度は一番だったとい聞いて、それはそれで納得する。

またそう言い終えた後に、「ごめん、こんな下品なこと言っちゃって」と慌てる達郎を見て、生粋のお坊っちゃまであることを悟る。

そのピュアでちょっと気高い雰囲気は、この千代田区に流れる空気に似ており、私の心に穏やかな風が吹く。

-本当に、この人は素敵な人だなぁ。

そう思っていた時だった。急に達郎が身を乗り出してきたのだ。

「そういえば、里香ちゃんは雙葉出身だよね?」


里香の出身校に、このデートの秘密が全て隠されていた...!!


「港区なんて、ニセモノの集まり」


「はい、そうですが・・・」

実は私は、千代田区の六番町に校舎を構える雙葉出身だ。

厳正なカトリックの中高一貫女子校として有名な雙葉だが、千代田区には雙葉以外にも女子学院、白百合、暁星など都内屈指の有名私学がある。

そして「千代田区立番町小学校」は公立にも関わらずトップクラスの人気校で、わざわざそのために学区内へ引っ越してくる家族も多い。

そんな中、私の話を覚えていてくれたことが嬉しくて、思わず嬉々とする。しかし、達郎からは想像とは違う一言が飛び出してきた。

「よく覚えてくださっていましたね!」

「うん、僕もそろそろ再婚しないといけないんだけど、親から許してもらうにはある程度の育ちの子じゃないと厳しくてさ...雙葉だったら、親も安心するから」




彼のお眼鏡にかなった理由が自分の出身校であると知った途端に、私は複雑な気持ちになってきた。

彼クラスになると、相手に家柄を求めるのは当然のことだが、段々と達郎の本音が垣間見えてきたのだ。

「育ちは大人になってからお金で買えるものではないし、教育って大事でしょ?港区とかに溢れるニセモノ達には興味ないんだよね。結局、今港区とか渋谷区で台頭してきた奴らって、ニューリッチの成金系が多いし」

-に、ニセモノ・・・成金・・・。

達郎の言っている意味は理解できる。私もギラギラしている人は苦手だし、怖いと思う。

しかしあまりにもバッサリと港区や渋谷区を切り捨てる姿に、少しだけ違和感を覚える。そしてどこか馬鹿にしているようにも聞こえるのは気のせいなのだろうか。

「じゃあ達郎さんが女性に求める条件は、お育ちですか?」

「うん、そうなるかなぁ。育ちの悪い人は、ちょっと苦手なんだよね。だから里香ちゃん、いいなと思ったんだ」

家柄は、お金では買えない。彼の言っていることは正しい。しかし、そこまで排他的にならなくても良い気もする。

-幼い頃から似たような生活環境の人たちに囲まれて過ごして、泥水を飲むような覚悟で仕事を頑張ったことなんて、ないんだろうなぁ。

そんなことを思いながら、私は曖昧な自分の立ち場を考えつつ、複雑な気持ちで達郎の話を黙って聞いていた。

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【千代田区プリンスまとめ】

・昔からのお金持ち層が多い
・給与収入の高さより「資産」の多さを重視する
・二世、三世率高め
・派手なブランド物は好まないが、ブランド物は好き
・“番町”に誇りを持っている
・ニューリッチが嫌い

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23区内で最も幸福度が高いのは〇〇区!?