2022年に第一子を出産した元卓球選手の平野早矢香さん。しかし出産に至るまで想像もしなかった悲しい出来事が起きたと言います。(全4回中の3回)

【画像】悲しい出来事を経て第一子出産 現在子育てに奮闘中の平野早矢香さん(全13枚)

何かカラダに悪いことしたかな


── 2016年に現役を引退されましたが、選手時代は体調について悩みなどはありましたか?

平野さん:生理痛はありましたけど、自分でコントロールできるレベルでした。だから2018年に人間ドックで子宮にポリープが見つかったときはすごく驚きました。

── 判明する以前に体調に異変のようなものはありましたか?

平野さん:私の場合はまったくなかったんです。だから意外過ぎて。先生からは、手術でポリープはとれるけれど、再発することはゼロではないと。恐らく悪性ではないと思うけれどそれもとってみないとわからないと言われ、私の場合はひとまず経過観察として3か月に1回のペースで通院することに。健康を見直すきっかけになりました。

初めてのことでかなり動揺しましたが、可能性とリスクをすべて正直に話してくださる先生だったので落ち着いて判断することができました。

── その後、2021年の1月に結婚、2022年末に娘さんを出産されますがその間に悲しいできごとがあったそうですね。

平野さん:結婚後1年を経たずして子どもを授かりましたが、定期健診の 6週目で心拍が確認できず「2週間後にも心拍確認できなかったら、今回は難しいです」と先生から。聞いた瞬間は「なんかカラダに悪いことしたかな」とか「私になにか問題あったのかな」のような考えが頭を巡りました。ポリープの経過も特に問題はなかったですし、現役の頃からカラダは強い方なのかなと思っていたので、流産するなんて想像したこともありませんでした。

夫には先生から言われたことをそのまま電話で伝えましたが、帰ったときにはもう涙が止まらなくて、ボロボロと。私はすぐ感情的になるタイプなのですが、夫はゆったりのんびり構えるような感じの人で、落ち込むとか動揺とかもせず、「体調は大丈夫?」「できることはある?」と私のことを気づかってくれました。

── 結果を聞くまでの間も、かなりツラい時間だったのではないでしょうか。

平野さん:2週間後に結果を聞いたときは受け止めることができましたが、それまでは精神的にツラかったですね。できることはないかとか考えてしまいました。

その後は、赤ちゃんが自然に外へ出てくるのを待っていましたが、出てくる気配もなく、赤ちゃんは育っていないのにつわりも続いてツラかったので、結局手術をすることに。手術の日は夫が付き添ってくれました。実はそのときが人生で初めての入院だったんです。多分アスリートでは珍しいんですよね、ケガも含めて一度も入院したことないのは。

手術自体はあっという間だったのですが、術前は涙が止まらず、みんなが「大丈夫だよ。すぐ終わるからね」と最後まで声をかけ続けてくれていました。あの涙は手術に対する怖さなのか、なんの涙だったんでしょうね。

── 気持ちをまた前に向けるために支えになったことなどはありますか?

平野さん:私の場合は先生からの言葉ですね。「これは早矢香さんの問題ではなく、赤ちゃん側の問題だから。早矢香さんが何かしたからダメとか、 早矢香さんの体だからダメとかそういうことではないから」と。また、以前このお話をしたときに「実は私も…」という声をいただいて。身近でも実はこんなに流産を経験している方が多いのだなと驚きました。

無痛分娩を希望していましたが


── その後に再びお子さんを授かりましたが、妊娠発表や妊娠期の過ごし方などはいかがでしたか。

平野さん:大変ありがたいことに、術後の回復も順調で、私は自然妊娠でまた授かることができました。でも流産の経験があったので何かあったらどうしようという思いがあり、週に1回レギュラーで出演させていただいている『グッド!モーニング』での発表直前までは、本当に信頼できる方にしかお話ししていませんでした。

ただつわりがひどくて。生放送の前夜はもし放送中に吐き気が来たらどうしようと思うとなかなか寝つけず。放送中も見えない場所にタオルやゴミ袋を忍ばせていて、気が気ではなかったです。

もちろん、つわりがひどくて入院する方もいるそうなので私のツラさはまだまだなのかもしれませんが、出産後のサポートを必要としている人の声も大きいいっぽうでつわりがひどい人など、出産までのサポートやフォローも必要なんじゃないかなと経験から感じています。

── そして2022年末に第一子が無事に誕生しました。出産はなかなか大変だったとSNSで明かしていましたね。

平野さん:無痛分娩を選択し計画出産だったのですが、予定日になっても子宮口がな かなか開いてくれず。前日には子宮口を広げるバルーンも入れ、当日は陣痛促進剤を 打ちましたがうまく進みませんでした。その後、私が発熱しておなかの赤ちゃんも心拍数があがってしまい、帝王切開に切り替えるかどうかというところまで。最終的には先生の判断で一晩待ち、翌朝早朝から頑張ることにしましたが、2日目には無痛分娩の麻酔の効果もあまり感じられず「無痛じゃなかったらどうなってたの?」と思うぐらい痛かったです。

でも、妊娠中のつわりで体重があまり増えなかったのに、赤ちゃんは健康に生まれて来てくれて。育つ力はすごいですよね。無事に健康で産まれてきてくれることは奇跡に近いことで有難いことなんだなという気持ちでいっぱいになりましたね。

PROFILE 平野早矢香さん

1985年生まれ。栃木県鹿沼市出身。5歳で卓球を始め、仙台育英学園秀光中学校・仙台育英学園高等学校に進学。卒業後ミキハウスに入社、オリンピックでは2008年北京にて、団体戦4位。2012年、ロンドンでは福原愛、石川佳純両選手とともに団体戦で銀メダルを獲得。男女通じて日本卓球史上初の五輪メダリストとなった。現在は後進の指導に務めるほか、全国各地にて、講習会、講演会、解説、スポーツキャスターとして広く活動。

取材・文/平岡真汐 写真提供/平野早矢香