セブンが勝てない「最強コンビニ」の秘密
■セブン、ファミマ、ローソンも勝てない
「顧客満足」2年連続業界1位、北海道で店舗数1位のコンビニエンスストア――それが「セイコーマート」だ。
日本生産性本部サービス産業生産性協議会の「日本版顧客満足度指数 コンビニエンスストア部門」(2017年度)で、セイコーマートの「顧客満足」は2年連続1位となっている。なお、15年度こそセブンに譲ったものの、10〜14年度の4年間も1位をキープ。最高の評価を受けるコンビニといっていいだろう。
店舗数の状況はどうだろうか。3月末時点のセイコーマートの国内店舗数は1197店。規模としては、業界1位のセブン(2万286店/18年4月末現在)の5.9%に過ぎない。ファミマ(サークルK・サンクス含む、1万7205店/18年3月末現在)やローソン(1万4083店/18年3月末現在)にも、圧倒的に負けている。
だが、北海道に限ると異なる風景が見えてくる。セブン1000店、ローソン655店、ファミマ236店に対し、セイコーマートは1101店。ここではセブンを上回り、堂々の第1位だ。
■店内併設厨房でできたて料理を提供
セブンイレブンとファミリーマート、ローソンだけでコンビニ市場のシェア9割を占めるなか、セイコーマートの健闘ぶりは注目すべきものだ。とはいえ、北海道以外では茨城県に85店、埼玉県に11店(ともに3月末時点)のみとなっており、北海道以外の読者にはあまり馴染みがないかもしれない。筆者もその一人だった。そこで、どのようなコンビニなのかを確かめるべく、埼玉県さいたま市の「まんだな店」を訪れてみた。
店内に足を踏み入れると、まず店内調理品を展開する「ホットシェフ」コーナーが目に入る。セイコーマートの多くの店舗では、併設の厨房でカツ丼や豚丼、カツカレー、クロワッサン、おにぎりなどを調理し、できたてを販売している。米は厨房で炊き、クロワッサンも厨房のオーブンで焼いているという。これほどの規模で店内調理を行うコンビニチェーンは、ほかにはないだろう。
ホットシェフ以外の売り場構成は、ほかのコンビニとあまり変わりがない。大きく異なるのは品ぞろえだ。セイコーマートでは、地盤である北海道産の食材を使用した食品を多く取りそろえている。店内では、「北海道」と書かれた商品がいたるところに陳列されていた。
たとえば、セイコーマートのプライベートブランド(PB)のヨーグルトは、北海道豊富町産の生乳を使用している。豊富町は夏でも涼しく乳牛が過ごしやすい環境のため、放牧が盛んに行われる土地だという。そこで育った乳牛からしぼった生乳を、町内にあるセイコーマートのヨーグルト工場で加工する。
サンドイッチやサラダ、総菜などに使われる野菜も、北海道産のものを多く使用している。セイコーマートを運営する「セコマ」のグループ会社には、農業生産法人「北栄ファーム」がある。道内の農場で、自社商品用にトマトやキュウリ、ジャガイモなどを育てているのだ。
また、同じくグループ会社の「北嶺」は、道内の複数の漁港のセリ権を持つ。このため、サケやイカ、サンマなどの水産物を、仲卸業者を通さずに直接買い付けることができている。
■規格外メロンから生まれた人気アイス
北海道産のメロンを使ったアイスもある。北海道産赤肉メロンの果肉をジュースにし、前述した道内産の生乳と組み合わせて、道内の工場でアイスに加工している。道内のメロン農家から、キズなどによる規格外メロンの活用について相談を受けたことがきっかけで生まれた商品だという。発売すると一躍人気商品になり、シャーベットやパフェなどのアイスシリーズへと発展。今ではジュース、サワーといった飲み物にもなっている。
いくつか実際に商品を食べてみたが、どれもおいしく、ほかのコンビニでは味わえないものばかりだった。ホットシェフのおにぎりは店舗併設の厨房で炊いたご飯を使用していることもあり、一般的なコンビニのおにぎりと比べて鮮度が高い。北海道産の生乳を使用したアイスは圧倒的な濃厚さで、こちらもおいしかった。
付加価値の高い商品は、価格が高いのが普通だ。だが、セイコーマートはそこも違う。ホットシェフの「大きなおにぎり 和風ツナマヨ」は190円、PBブランドの「北海道とよとみ生乳95%ヨーグルト(80g×3パック)」は150円。いずれも筆者の感覚では割安に思える。
なぜ「高付加価値・低価格」を実現できているのか。その理由は、原材料の調達や製品の製造、物流、販売といった一連の商流の大部分を自社グループで担っていることにある。中間コストを徹底的に削減しているのだ。
セコマは食材や原材料を国内の農家や漁港から直接調達しているほか、ワインやバナナ、パスタソース、雑貨といった商材も、商社を介さずに海外から直接輸入している。バイヤーが現地におもむき、その目で品質を確かめて買い付けを行う。
■PB商品も物流もすべて“自前主義”
PB商品の製造も、自社グループで行なっている。前述の農業生産法人のほか、総菜などを製造する「北燦食品」、牛乳・乳製品などを製造する「豊富牛乳公社」など10を超える食品・飲料製造会社を所有する。食品メーカーとしての顔も持ち合わせていることが強みになり、自由度の高い商品企画や柔軟な管理を実現しているのだ。
物流も自前で構築している。道内の主要都市に配送センターを設け、自社の商品のみならず他社の商品を含めて配送を行う。このためトラックにさまざまな商品や資材を混載でき、柔軟な運用が可能になっている。輸送効率が高まれば、コスト削減につながりやすい。
なお、筆者が訪れた店舗のように、実は北海道以外にもセイコーマートはあり(茨城県86店、埼玉県11店/18年4月末時点)、配送センターは関東圏にも3カ所設けられている。
こうした“自前主義”を早くから採用することで、セイコーマートは高い価格競争力を備えることに成功した。
■「非24時間営業」だから過疎地に出店できる
また、セイコーマートが北海道でナンバーワンの勢力を築けているのは、「地元企業だから」というだけではない。24時間営業の旗を掲げていないことと、大半の店舗が直営店であることも、大きな理由だ。
北海道は広大で、過疎地が少なくない。そうした地域にコンビニを出店するとなると、24時間営業では採算がとれない。だが、来店が見込める時間帯だけ営業するなら、出店が可能になる。また、フランチャイズオーナーの担い手がいない地域でも、直営店ならば本部の意向ひとつで出店できる。
これらの戦略が功を奏し、セイコーマートは北海道民に親しまれるようになった。王者セブン−イレブンを差し置いて、「顧客満足」&北海道店舗数1位というのも、頷けるのではないだろうか。
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)