コンビニ3社「冷しうどん」に力を入れる事情
今、コンビニの「冷しうどん」が急成長している(撮影:今井康一)
気温が1℃上がるごとに、夏仕様になっていくコンビニ。顕著なのが麺売り場だ。電子レンジで調理するレンジ麺は少なくなり、「冷し麺」がズラリと並ぶ。ただ、今年は冷し中華の一人勝ちとは限らない、例年以上にうどんメニューが存在感を増している。今年のコンビニ冷し麺にどんな変化が起きているのだろう。
コンビニの夏の麺と言えば、何を思い出しますか――と、質問されたら、多くの人が「ざるそば」か「冷し中華」と答えるに違いない。
セブン-イレブン(以下セブン)が、一口サイズのそばを容器に並べた初の調理麺「小割けそば」を発売したのは1982年。以来、ブラッシュアップされて業界に定着した「ざるそば」は、30年以上のロングセラーになっている。一方、冷し中華は近年、外側はつるっとした食感、中はもちっとした歯応えを実現した「三層麺」が主流になって、どのチェーンの商品もおいしくなった。多くの商品開発者たちから「麺類でいちばんマーケットが大きいのは中華麺」という話を聞くので、「コンビニ冷し麺=冷し中華」と考える熱烈なファンがついていることは確かだ。
成長する「うどんマーケット」へのコンビニの対応
しかし、今年は麺売り場のレイアウトに変化が起きている。“冷し中華推し”なのは、どのチェーンも大体同じだが、セブンの売り場を見て回ると、「冷しうどん」の陳列面積を昨年の2〜3倍くらいまで広げている店もある。長い取材歴の中で、セブンが夏にうどんをここまで推している光景を見たのは初めてだ。
米飯・麺類開発の責任者である商品本部、笠石吉美シニアマーチャンダイザーに話を聞くと、「うどんを大刷新しました。今年は、セブンにとって『うどん元年』といっていい」と、“冷しうどん推し”を認めた。
「近年、外食のうどんマーケットは成長しています。ニーズがある以上、“近くて便利”を標榜するセブンとして、うどんをもっとおいしくしないといけない。苦節3年、ようやくおいしい麺をお届けできるまでになりました」という。
確かに外食市場に目を向けると、うどん単体の正確な数字は読み取れないが「そば・うどん店」のマーケットは1兆円超えと堅調に成長している(一般社団法人 日本フードサービス協会調べ)。「はなまるうどんや丸亀製麺など、うどん専門店が首都圏や地方でも増えていることが一因では」と見る業界関係者は多い。環境変化に敏感なコンビニが、うどんに注目するのは当然のことなのだ。
うどんの売り上げが前年同期比70%増のセブン
セブンがうどんにこだわった理由は、大きくふたつある。
「専門店が増え、最近のお客様はおいしいうどんを食べ慣れている。また、もっちりとした食感から、うどんは女性の方の支持がとても厚いんです。女性客をより増やすためにも、うどんをもっとおいしくすることが課題でした」(笠石氏)
昨年大刷新して好調なスイーツに続き、うどんで新規の女性客を呼び込もうという狙いが大きい。もっといえば、にぎわう街のうどん専門店から、客を近所のセブンへと振り向かせてみせようと意気込んでいるのだ。
「ツルッともっちり! 冷しぶっかけ温たまうどん」(写真:セブンーイレブン)
そもそも、一般的なおいしいうどんの定義は「つるみ(つるっとしたのどごし)」と「もっちり感」を兼ね備えたものだと聞く。だが、ゆでたてを提供するわけではないコンビニが「おいしさ」を実現するのは相当ハードルが高い。現に、「うどんは麺の中でも水分値が高く、時間とともに乾燥してしまう特性があるので、商品化するのが最も難しい。だから開発に時間がかかってしまったんです」と笠石氏は明かす。
長い年月をかけてリニューアルしたうどんの改良ポイントはどこなのか? 尋ねると、「原材料、製麺方法、ゆで方――全部」と、返ってきた。小麦の中心部だけを従来の約2分の1サイズにまで細かく粉砕した小麦粉を作り、ゆっくりとこねて伸ばす。こうすることで水分を抱きかかえた、もっちりとした麺になるという。
最後のポイントは、大量の水で踊るようにゆでること。こうした手間ひまかけた製法へのチェンジは、大量生産の現場では設備投資を伴う大工事になるが、「セブンオリジナル商品は、全国165拠点ある専用工場で作っているので実現できた」という。
結果、「現在のうどんの販売は、前年同期比7割増の爆発的な伸びになっております」(セブン広報)というから、驚異的だ。
ローソンは「女性向け」、ファミマは「地域別メニュー」
もちろん、セブンだけではない。他チェーンも「女性客に人気がある」ことから、うどんには工夫を凝らしている。
「1食分の野菜が摂れるごまだれのサラダうどん」(写真:ローソン)
「ざるそばが50代以上の方に人気が高いのに比べ、ぶっかけうどんは30〜40代女性に特に人気があります。今年は新たに、がっつり食べたい男性向けとして、ちくわ磯辺天を2つ載せた大盛りタイプのうどんや、1食分の野菜を使った『サラダうどん』(5月22日〜)なども出します」というのはローソン。
冷し麺はどれも老若男女から支持が厚いが、さらにヘルシーな野菜たっぷりメニューを導入したのは、やはり新規の女性客を意識してのことだろう。
ファミリーマート(以下ファミマ)のうどんも、ひと味違う。
九州地方限定の「冷し肉ごぼう天うどん」(写真:ファミリーマート)
「コシのある太麺で、だしに北海道産真昆布を使いました。スッキリとした甘さの加減が絶妙で、暑い中でも食べやすい風味に仕上がっています」(ファミマ広報)
定番の「冷しぶっかけうどん」(380円)をはじめ、地域別メニューを投入した。全国を以下の4エリアに分け、各地域でなじみのある味付けや具材を使用したうどんを販売中だ。出張時には、地元のファミマに立ち寄ってみたくなる。それも狙いだ。
北海道・東北・関東・北陸地方限定・・・冷したぬきうどん(430円)
中部地方限定・・・冷しきしめん(380円)
関西・中国・四国地方限定・・・冷し肉ぶっかけうどん(498円)
九州地方限定・・・冷し肉ごぼう天うどん(430円)
考えてみれば、コンビニが冷しうどんにここまで注力するのは「女性の新規顧客獲得」だけが目的ではないだろう。ドラッグストアや食品スーパーとの中食商戦をにらんでのことだと思う。特に、10兆円超規模になったコンビニ市場を追うドラッグストアの「食」販売へのシフトは目覚ましい。スーパーのように生鮮品を扱ったり、店内にイートインコーナーを設けたりするドラッグストアも出てきた。
だからこそ、弁当・おにぎりや菓子パンなどと比べると、製造・物流・店のオペレーション、すべてのレベルの高さが売り上げやおいしさに反映する「うどん」で、商品開発力を知らしめようというコンビニの狙いが見える。
夏の麺商戦は、例年以上に熱くなりそうだ。