三栄建築設計の会社案内はご覧の通り、QRコードが印刷されているだけだ

写真拡大

 人事評価を廃止した東証一部上場の三栄建築設計(参照:「人事評価をやめた上場企業が目指すもの〜部下をランク付けして裁く上司は不要!」)が、今度は、新卒採用のエントリーシートも廃止したという。

 いったいその意図は何なのか、新卒採用をどのようにするつもりなのか、同社を志望する学生はどのように応募すればよいのか。同社人事総務部長の勝沼等(かつぬまひとし)氏を組織・人事・人材開発コンサルタントの山口博氏が直撃した。

◆詳細なエントリーシートを作成する能力はいらない

山口:定期評価を廃止して、上司が部下の育成にフォーカスする取り組みについて、以前、対談させていただきました。今度は新卒採用で、エントリーシートを廃止したと伺いました。今回はエントリーシートを廃止した理由や、エントリーシートなしでどのように新卒採用を実施していく計画なのか、お聞きしたいと思います。そもそも、なぜ、エントリーシートを廃止したのですか。

勝沼:三栄建築設計は上場企業とはいえ、同業他社に比べて知名度が高いとは言えません。リクナビさんやマイナビさんの合同会社説明会に、同じ料金を支払って参加しても、他の著名企業に比べて、いわゆる割り勘負けしてきたのが実態です。

このまま同じ土俵で戦っても勝機はないと思いましたので、新卒採用をメインで担当している女性リーダーととことん話し合った結果、思い切って、合同会社説明会に参加せずに、独自の手法で学生の方々の興味を持ってもらおうと考えたのです。

山口:合同説明会に参加しないので、共通のそして詳細なエントリーシートを用いなくなったというわけですね。

勝沼:現在一般に使われているエントリーシートは、入力項目が100項目以上にわたるなど、とても詳細なものです。志望する学生は、エントリーシートにきっちりと入力をする、そしてどのように表現するかということに時間と労力をかける。

三栄建築設計は、生真面目にエントリーシートを完備する能力が高い学生が採用したいわけではありません。自分の取り組みをきれいに記述することに長けた学生が欲しいわけではありません。ですから、一般のエントリーシートは、当社の採用にそぐわないということに行き着いたのです。

◆QRコードを読み込み1分足らずでエントリーできる

山口:確かに、現在多くの企業で使用しているエントリーシートは、PC画面で10画面以上の入力が必要で、中には、明らかに学生時代には取得できない資格の有無までチェックしなければならないものまであります。しかし、エントリーシートなしで、学生は御社を志望する際に、どのように応募すればよいのですか。

勝沼:QRコードを読み込み、氏名や所属、連絡先を入力するだけです。1分もかからずに応募できます。

山口:志望動機の入力も不要なのですか。

勝沼:不要です。ただし、一つだけアクションしてもらうことがあります。街を歩いて見つけたり、Googleストリートビューの画面などで見かけた「気に入った家」のスクショ(スクリーン・ショット)を送ってもらうことだけです。

一般のエントリーシートを使わない、志望動機も入力不要……こんな会社に応募するかどうかで、他と同じことをやらない会社に興味を持つかどうかということがわかります。気に入った家のスクショを送ってくれるかどうかで、家が好きかどうかということわかります。

他と同じことをしない、家が好きだ……これさえ満たしていれば、当社が求める人材の要件はクリアしているのです。

山口:エントリーは簡単になったとしても、応募した後の選考段階で、個別候補者の資質や能力などを見極めるために、労力の負荷は高まりませんか。採用プロセスは、どのように展開するのでしょうか。

◆採用選考は家の模型を造るだけ

勝沼:通常の面接は一切しません。「My設計図採用」をするだけです。My設計図採用とは、家の模型を作成するだけです。1回目は土台をつくる、2回目は柱をつくる、3回目は屋根をつくる…それだけです。

山口:それで何を見極めようとしているのですか。

勝沼:家づくりが好きか、前例や既成概念にとらわれないか、発想が自由か…似たようなありきたりな人材は不要なので、その点を見極めるだけなのです。

山口:会社の説明はしないのですか。

勝沼:限られた説明をするのみです。長々と説明をする代わりに、入社してからの大仕事である、家を建てるということを体験してもらうことこそが、会社の説明をすること以上に意味があると思うのです。

山口:設計士や技術者だけでなく、営業部門や管理部門の採用もするのですよね。すべての職種の人に家の模型を作成してもらうのですか。

勝沼:同じです。営業担当者も管理部門のスタッフも、どんな職種でも、家づくりが好きかどうかという点が、最も重要な判断基準ですから、My設計図採用を全職種で行います。

山口:独創性があるか、家づくりが好きかという点をプロセスで見極めて、潜在的な能力があるかどうかで選考する方法のように思えます。入社後の研修でカバーするという考え方ですか。

勝沼:新入社員研修は、マナー研修など基本ビジネススキルの研修も行いますが、叩き込むべきことは、基本動作だけであって、それを実際に展開したり応用したりする能力は、ひとりひとりの新入社員の潜在的な能力にかかっていると思うのです。

従って、文書の書き方から話法の一言一句まで手取り足取りを教えるのではなく、センスを磨くということにフォーカスしているのです。新入社員研修では、美術館に行き、芸術性を磨くのも、そのためなのです。

◆<対談を終えて>
 志望動機欄に美辞麗句を何百行連ねるよりも、スクショを送るというひとつの行動の方が、家づくりが好きな人を集めることに効果があり、会社概要や会社説明の数十頁費やすよりも、家の模型をつくるだけの選考の方が、独創性を図ることに意味があるということを示す実例のように思います。

百行の文字よりもひとつ行動の方に意味がある、理屈や理論や解説よりもひとつの行動ができるかどうかで人材を見極めるモデル的な取り組みとして、目が離せません。(モチベーションファクター株式会社 山口博)

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第74回】
<文/山口博>

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。