『レッドタートル ある島の物語』より

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 17日に公開されるスタジオジブリ最新作『レッドタートル ある島の物語』は劇中、セリフが一切出てこない。「絵に力があれば言葉はいらない」と主張する鈴木敏夫プロデューサーと、「初めは観客に受け入れられるか不安だった」というマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が、人間と自然が織り成す壮大なる“無言劇”について思いを語った。

 本作は、『岸辺のふたり』で第73回アカデミー賞短編アニメ映画賞を受賞したヴィット監督が、鈴木の熱烈なラブコールに応えて初挑戦した長編アニメーション映画。見知らぬ無人島に流れ着いた男が、自然の美しさ、優しさ、厳しさに触れながら、その後の人生を紡いでいく姿を描く。なお、『かぐや姫の物語』などの高畑勲監督もアーティスティック・プロデューサーとして参加し、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門特別賞を受賞した。

 スタジオジブリにとって本作は、まさにチャレンジ精神の塊。海外監督との初タッグ、10年間にわたる妥協なき映画づくり、さらには苦渋の末に決断した津波シーンの挿入など、数え出したらキリがないほど。中でも81分間、一切のセリフをなくした斬新な演出スタイルは、度肝を抜くチャレンジといえるだろう。

 当初、わずかながらセリフがあったというヴィット監督は「物語や主人公の人間性を出すために、ある程度は必要だと考えていましたが、『思い切って全部削ってみては?』と高畑さんからアドバイスをいただいて。観客に受け入れられるかどうか、怖い部分もあったのですが、アニメーションの完成度にとても満足していたので、その言葉で不安が一気に吹き飛びました」と述懐。

 これに対して鈴木は「実は日本のスタッフの中で、セリフをなくすことを一番主張していたのは僕なんですよ。高畑さんは監督であり作家でしょ? 同じクリエイターとしてマイケルのやることを邪魔しちゃいけないというスタンス。だから、一歩引いたところで慎重に助言を出すんですね。ところが、僕はプロデューサーだから『話題にもなる!』とか露骨に言っちゃう」と苦笑い。

 さらに、もともとセリフのない映画をつくってみたかったという鈴木は、「絵に力があったら、言葉はいらないんじゃないかと僕は思っているんですよ。しかも、今回は才能あふれるマイケルがやるわけでしょ? 当然、絵に力があるわけだから、こんなチャンスはないじゃないですか。まさに夢のプランですよ」と語気を強める。するとヴィット監督は「鈴木さんがそこまでセリフなしを推していたとは……今、初めて知りましたよ!」とそのチャレンジャーぶりに驚きの表情を見せていた。(取材・文・写真:坂田正樹)

映画『レッドタートル ある島の物語』は9月17日より全国公開