定価25万円がバカ売れ! 死なないペット「AIBO」が辿った顛末

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神が万物の創造主であるという神話が、前提としてあるからでしょうか。人はいつの時代も、自らが神にならんとするかのように、生殖活動以外の方法による、生命の創造を夢想してきました。世界各国の寓話の中に、人造人間・ホムンクルスなる「人ならぬもの」が頻繁に登場するのは、人間が根本的に命を生み出したいと希求する生き物であることを証明しているかのようです。
生命創造は人類の悲願であり、そのために人工知能は生み出され、クローン技術は発展してきました。多くのSF作家がその先にある「破滅」を示唆しているにも関わらず、その可能性を突き詰めてしまうあたり、人間の業の深さを感じずにはいられません。

革新的なロボットペット登場 未来世紀の到来を予感


さて、遡ること17年前の1999年。世紀末を迎えた世の中はこのニュースに、来るべき新世紀が一足飛びでやってきたかのような錯覚を覚えたものです。何かといえば、日本が誇る世界的電機メーカー『ソニー』が、人工知能を搭載した小型犬ロボット「AIBO」を発売したのです。全長約30cm。硬質感のあるボティでありながら、四足歩行で身軽にヒョコヒョコと歩く姿は、実際の小型犬より多少ぎこちなさがあったものの、愛くるしさ抜群でした。

「機嫌」「性格」が存在したAIBO


「AIBO」が革新的だった点は、ユーザーとのコミュニケーションを通して成長するようにプログラミングされていたことです。「成長機能」であれば前年の1998年にアメリカで大ヒットし、1999年に日本上陸を果たしたファービーにも搭載されていたのですが、この2種を明確に分けるのは、ファービーが受身なのに対してAIBOが自律型であるということ。
つまり、話しかけたりしなければ反応しないファービーとは違い、AIBOは何もしなくても、こちらに寄ってきたりジャれたりするのです。さらに、「機嫌」「性格」が存在するという、より本物のペットに近いロボットだったのです。

販売開始から20分で3,000台が完売!


こうした今までに例がない、本当に生きているかのような機械仕掛けの命の誕生に、世間は沸き立ちました。特に一部ペット好きからは熱烈な歓迎を受けます。「これでもう、愛犬の死を経験しなくて済む」。動物を飼育していると不可避にやってくる別離。そのときに感じる悲しい想いも、永遠の命を携えたAIBOの登場によって解消できる……。そんな、未来世界から届いた贈り物のような夢の子犬を求めて注文が殺到。定価25万円にもかかわらず、1999年6月1日の販売開始から僅か20分で日本向け3,000台の受注を締め切るという人気ぶりを博し、累計で15万台も売れたそうです。

ソニーの修理対応打ち切りによる「死」


しかし、そんな「死なないペット」にも突然の死がやってきます。2005年に製造中止。2014年3月末には「クリニック」と呼ばれていたソニーによるAIBOの修理対応が打ち切られたのです。
終了したサービスのサポートを製造元企業が10年以上続けるというのは、かなり異例のことなのですが、「死なない」と銘打ったソニー自身がAIBOを殺してしまうとは何とも皮肉。これを受けて、千葉県いすみ市の光福寺では2015年にAIBOの合同葬儀が行われ、飼い主たちは神妙な面持ちで手を合わせていたそうです。

こうして「永遠の命をもったペット」という夢は、企業サポートというかなり卑近な理由で成しえませんでした。あれから17年。この課題を解決する完全無欠の愛玩動物は今後現れるのでしょうか。見果てぬ科学の挑戦に、興味は尽きません。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりSONY AIBO アイボ ERS-7 マインド2