「叱らない子育て」は将来の成功に結びつくのか。親にとって都合のいい“子育て論”の落とし穴
皆さん、こんにちは。
『グローバル社会に生きる子どものための-6歳までに身に付けさせたい-しつけと習慣』の著者で、日本と欧米の優れた点を取り入れたしつけを提唱している幼児教育研究家平川裕貴です。
子育て論は、提唱する人の職業や経験などで、全然違いますね。
例えば、お医者さんやカウンセラー、保育士や子育て経験者が書いた本など。
それぞれ接してきた子ども達が違いますから、子育て論が違っても不思議ではありませんが、総体的に『叱らない子育て』論が多いような気がして筆者は不安を感じています。
『叱らない子育て』と同じ危険をはらんだ、かつての子育て論
実は30年程前、「子どもを自由にのびのび育てよう!」という、アメリカで提唱された育児法が日本に入ってきました。
今の「叱らない子育て」も、同じ危険性をはらんでいると思うのでご紹介します。
アメリカでは「しつけは親の役目」という考え方がはっきりしていて、学校の先生はしつけには口を出しません。
多民族国家であるアメリカでは、それぞれの文化によってしつけに対する考え方も様々。ですから学校の先生がしつけに口を出すと、「うちではそんな育て方はしていません!」と親から苦情が来るのです。
そのかわり、もし、子どもが学校で問題を起こすと、すぐに親が呼び出されて注意を受けますから、親は家で子どもをとても厳しくしつけていました。
ところが、親があまりに厳しく子どもをしつけたために、自分に自信のない子どもが多いということが当時のアメリカで問題になり、「自由にのびのび育てよう!」という育児論が提唱されたのでした。
でもその頃の日本は、社会全体で子どもを育てている、という意識の方が強かったように思います。まだまだ3世代で同居している家庭も多く、子どもは親だけでなく祖父母からもしつけられましたし、学校の先生はもちろん、近所のおじさんやおばさんに叱られたりすることも多々ありました。
親が子どもを厳しく縛りつけているという状況ではなかったのです。
「自由にのびのび育てよう!」が日本の母親に与えた大義名分
このように、日本とアメリカでは、子どもを取り巻く社会環境がまったく違っていたにもかかわらず、「自由にのびのび育てよう!」という育児論が日本でも提唱され、その目新しい海外の教育法に飛びついてしまった母親達がたくさんいたのです。
当時、筆者は子どものための英会話スクールを大阪と神戸で経営していました。
ある日、4歳の男の子とその母親が体験レッスンを受けにやってきました。
カウンターのある受付ロビーと広い教室。教室にはカーペットが敷いてあり、子ども達は靴を脱いで入ることになっていて、教材用のプラモデルやカードや本も備え付けてありました。
初めてやってきた親子、さぞや緊張していることだろうと思いましたが、その男の子は、入ってくるなり土足のまま教室に入り、フルーツのプラモデルを投げ、さらに本棚の本も乱暴に放り投げています。
あっけにとられている私の横で、その子の母親はニコニコと笑いながら、こう言い放ちました。
「うちの子は自由にのびのび育てているんです!」
子どもが悪いことをしてもニコニコ笑って見ているだけでいい。多くの母親がこの育児法を都合のいいように解釈して飛びついてしまったのです。
“叱られない”という事が、子どもにもたらすもの
この4歳の男の子の行く末と、「自由にのびのび育てよう」という育児法がもたらす社会を、当時筆者は心底心配しました。
なぜなら、していいことや悪いこと、社会のルールやマナーなどを、まったく教えられないまま大きくなる子どもが増えるかもしれないということでしたから。
挨拶もできない、人の家に平気で上がり込む、人のものを盗ったり乱暴に扱う、言葉使いを知らない、他の子に手を出す、周りに気を配らない、などなど。
それで、大人になってから社会や人とうまくかかわっていけるでしょうか?
いえ、大人になる前にすでに周りから相手にされなくなってしまうでしょう。
乱暴者のレッテルを貼られ、周りから疎外されたら、行きつく先は目に見えています。
「叱らない子育て」は、放任主義のススメではない!
勘違いを生みがちですが、「叱らない子育て」論が伝えるべきことの本質は、決して「叱らない」ことでも、「子どもが何をしても許す」と言った放任主義を勧めているわけでもありません。
耳触りのいいキャッチフレーズを、親の都合のいいように解釈してしまうのは、とても危険なことだと思います。
子どもを叱るのはとてもエネルギーの要ることです。ですからできるだけ叱りたくないと言う気持ちもわかります。
でも、かけたエネルギーは必ず子どもにとってプラスになってかえってきます。
親が真剣に叱ってくれたことを感謝する日が必ずくるでしょう。
いかがですか?
子どもを叱るというのは、教えることだと筆者は考えています。
「褒める」のも「叱る」のも、子どもが社会に出た時に困らないようにルールやマナーを教え、身に付けさせるための手段なのです。
本来なら幼児期に身に付けておくべきことが、まったく身に付いていないとすれば、子どもは将来どれだけ苦労することになるでしょうか?
必要な時には、どうか手を抜かずにしっかり叱って、大切なことを教えてあげてください。
リサーチ:子育てママたち、「叱らない子育て」実践してる?