黒田博樹が魅せる投球術 魔球「フロントドア」とは

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今季、ヤンキースでも活躍した黒田博樹が日本球界に復帰して大きな話題となっている。年俸約20億円ともいわれたオファーを蹴っての広島復帰という「男気」もさることながら、メジャーの地で進化した投球もまた、大きな話題を呼んでいる。そんな黒田の投球術を本人自ら余すことなく語っている「クオリティピッチング」(著:黒田博樹/ベストセラーズ)から読み解いていこう。

【魔球「フロントドア」とは】


メジャーから帰ってきた黒田が投げる"魔球"が今大きな話題になっている。球種自体はツーシーム(ほぼシュートに近い軌道の球)が中心だが、投げられる軌道から一部のボールが「フロントドア」と呼ばれ"魔球"と恐れられている。さて、このフロントドアとはいったいどんな球なのか。

フロントドアとは
フロントドアを直訳すると「玄関」という意味になる。ホームベースを家、打者を正面玄関とすると、玄関に入っていくような球であるからこう名付けられた。
この説明だけだとイメージしにくいだろう。簡単に説明すると、フロントドアとは打者にとってインコースのボールゾーンに見える(場合によっては体に当たるように見える)球が急激に変化してストライクゾーンに入る球のことである。つまり打者が「危ない」と思って避けた球が、直前で曲がってストライクになることが多々ある。

投げる上での工夫
黒田はこのフロントドアを投げる上でさまざまな工夫をしている。ここでは黒田がよく使う左打者に対するツーシームでのフロントドアを前提に説明していこう。
まず、黒田は投げる位置をメジャー移籍後、プレートの三塁側から一塁側に変えた。その理由はフロントドアがより効果的になるから。一塁側から投げた方が左打者の体のより近い位置から変化するストライクになりやすい。黒田の言葉を借りれば「横の角度」をつけることができるのだ。

また、フロントドアを最大限に生かすために投げる球種もある。フロントドアは打者の体の近くを通るため、打者の目線は自身の近く高めに目付けされる。その一方で落ちる変化をするフォークを投げると逆に目線は落ちて前傾になる。そのため、黒田はフォークとフロントドアを「表裏の関係」と考えてセットで投げることが多い。
フォーク以外ではスライダーを組み合わせて投げることもある。スライダーは曲がる方向はツーシームと真逆だが、軌道は途中までほぼツーシームと同じ。そのため、打者はセットで投げられると直前までどちらのボールがくるか判断できず困惑するのだ。

どんな打者に効果的か
また、本書内で黒田は「どんな打者にフロントドアが効果的か」についても語っている。
そこでは、ベール寄りに立っている、肩が内側に入る癖がある、手を伸ばして打ちたがる、コンタクトヒッターの4つのタイプを挙げている。
黒田はフロントドアが効きやすい打者の癖や仕草をマウンド上や試合前に見る映像から見抜くという。

【日本スタイルからの脱却】


ところで、今でこそ黒田はフロントドアなどの「動く球」を武器に打者を打ち取っているが、メジャー移籍前の黒田は「速球投手」だった。つまり小細工なしの真っ向勝負。フォーシーム(全く変化をしない純粋なストレート)で三振を狙っていくスタイルであった。しかし、メジャー移籍後にはフォーシームを投げることはほとんどなくなり、メジャーの試合ではフォーシームは投げても1試合で5球程度だった。
黒田はこの理由について「日本でのストレートが通用しなかったから」と語っている。日本では通用していたストレートがメジャーでは通用しない。そこで黒田は日本時代のスタイルを脱却し、駆け引きで打ち取るスタイルへと変貌したのだ。
具体的に打者との駆け引きの一部を紹介すると、打者の体に近い球をあえて投げることでアウトコースの球をより遠くに感じさせる、決め球を生かすためにその反対の軌道で変化する球を一回はさむなどだ。
また、ツーシームを多投して打ち取るスタイルは別の面でも良い影響を与えている。それは肘や肩の消耗が最小限で済むという点だ。メジャーは日本と比べて移動距離が長い上に登板間隔が中4日と短い。そのため、先発投手にとってかなり過酷であり、ダルビッシュら多くの投手が離脱している。だが、黒田はメジャーを通して肘や肩の故障がない。このことは球数を必要とする三振を狙わず、最小限の球数で打者を打ち取る黒田のスタイルが大きく影響していることが明らかだ。黒田は本書内で「少ない球数で長いイニングを投げ、1年間を怪我することなくローテーションを守り続けることが大事」と語っている。

さて、広島カープに復帰した黒田は自身が活躍してチームに貢献することはもちろん、周りの選手に対しても良い影響を与えている。実際にチームメイトである大瀬良は、黒田からツーシームを直伝されて実際の試合でも使用するようになった。
ここまでの広島は大きく負け越し、スタートダッシュに失敗した感が否めないが、黒田とマエケンを中心に駒揃いの先発陣と打線陣が噛み合うようになれば、必ずや順位は上向いていくだろう。今年のセリーグも最後まで目が離せないこと間違いなしだ。