「マジメで素直」自衛隊OBを採用するブラック企業が急増中
「真面目で素直、上の言うことは聞く。自分にプライドを持っている――そういう人材が弊社の求める社員像や! 元自衛官とか誇りがある者は多少の無茶も厭わへんさかいの」
関西で産業廃棄物関連などいくつかの事業を営む友成寛氏(仮名・51歳)は陸自OBだ。高卒後、一般隊員として入隊した彼は1任期・2年間を勤め上げて任期満了退職。その後、数々の職業を経験して30歳で起業、現在、事業は年商2億円程度だという。
自衛隊OBの友成氏が契約社員、アルバイトとして雇うのは?自衛隊OB、?国公立や有名私学の学生、?借金を抱えている者と、異なる3つの背景を持つ人たちだ。だが経営者である友成社長にとって3者は皆、同じ“範疇”に属する人たちだという。
「上からの指示にはきっちり従う。多少の理不尽ちゅうか問題や困難があっても耐え抜く根性を持っとる。うちの仕事は“危険”“きつい”“汚い”の3拍子揃ったほんまの3K職場や。加えて給料も決して高こうない。それでも働いてくれる者となるとこの3つやな」(友成氏)
契約社員の毎月の給与は、年齢によって異なるが月25万円が基本だ。ボーナスは年間、月収4カ月分を支給する。ただし勤務時間は朝7時始業、退勤時間は繁忙期でないときは21時、繁忙期だと23時を超えることもしばしばだ。
「この条件でも文句言わず働いてくれる者となると、元自衛官か借金持ちしかおらんのよ。元自衛官は、営業とかそんな人を相手にする仕事は苦手なのが多い。その代わり力仕事やったら根性みせてくれる。借金持ちもそうやな。だから俺は社員採用時、面接では『正直に言え、借金あるかないか』は聞くよ。元自衛官でパチンコや風俗狂いで借金持ちなら大金星、その場で採用や」(同)
こうした典型的なガテン系社員の下に国公立や有名私学の学生アルバイトをつける。ここにも友成氏なりの計算がある。
「高学歴で勉強のできる彼らの仕事のやり方はものすごう効率がええんや。そんな連中と、社会と折り合いのつかんかった元自衛官が触れ合うことで互いにいい刺激になるんよ。飲み会もしょっちゅうするし、休憩時間の缶ジュース代やおやつ代も俺が出す。職場で社員同士のコミュニケーションを取りやすいようにしてるんや」(同)
自分の頭でモノを考えない人間はカモにされるギャンブル、風俗に狂っていた元自衛官は、高学歴の学生バイトから「頭で考える」ことを学ぶ。高学歴学生は、社会と折り合えなかった社員と接することで「広い世の中、社会の現実」を目の当たりにするのだ。
「元自衛官とか制服系職業やったヤツほどブラック企業に嵌りやすいわな。そういうのにつけ込む経営者はほんま多いんや。企業側からみたら、素直に命令に従う“使い勝手のええ人間”やから」(同)
自衛隊の教育・訓練そのものは素晴らしい。だが「自分の頭」でモノを考えなければ、単なる使い勝手のいい人間として本物のブラック企業のカモにされる危険性も孕んでいる。
(取材・文/秋山謙一郎 Photo by 陸上自衛隊HP)