初勝利に向けて、ゴールを意識して臨むという川澄。チームリーダーのひとりとしても存在感を放つ。(C) SOCCER DIGEST

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 中国とのグループリーグ初戦、日本はボールを支配し、終始相手を押し込んだものの、フィニッシュワークでの精度とアイデアを欠き、スコアレスドローに終わった。
 
 左MFでフル出場した川澄奈穂美は、「課題は本当にたくさんある」と前置きしたうえで、「監督からは『シュートを打て』とよく言われているんですけど、中国戦は相手がすごく(守備を)固めてきていた。そこをどう崩すのかをチームとしてやってきているけど、まだ少し難しさがありますね」と試合を振り返った。
 
 川澄自身、効果的なクロスを供給し、前線に飛び出してスルーパスを引き出す場面も見られたが、いつもよりオフ・ザ・ボールでの動きが少なく、サイドに張りついたままプレーに絡めない時間帯もあった。もっとも、そうした振る舞いは現在のチーム状況をよく考えたうえでのことでもあったようだ。
 
「何度か中に入ってプレーしたと思いますけど、なんでもかんでも中に入っても、2トップとの関係性もありますし。例えば、自分が中に入って、SBがすごくいい位置をとって攻撃参加できるのであれば、それはそれでいいんでしょうけど、そういう形は、少ない準備期間のなかでまだできていない。そこでバランスを崩して、カウンター一発でやられてももったいないですし、そこはバランスを見ながら、というのはありました」
 
「バランス」という意味では、有望な若手が招集されている今大会のメンバー構成と、チームとしての戦い方についても、川澄はいろいろと思うところがあるようだ。
 
 基本的に日本は「チームとして」いかにゴールを奪うかを重視している。ただ、代表定着を狙う若手からすれば、今大会はある意味、オーディションの場でもある。
「個というのはすごく大事。でもやっぱり、上で戦っていくには、1対1で勝ち切れない部分は組織で崩すしかない。ただ、若い選手も多いなかで、自分のプレーをアピールするのももちろん必要なわけで……難しいですね、いろいろと(笑)」
 
 今や川澄も実績十分の中堅選手として、代表でも確固たる地位を築いている。平均年齢の下がったチームの雰囲気をポジティブに受け止めている一方で、「伸び伸びやるだけが日本代表ではない」と厳しさも見せる。
 
 驕りではない。先輩風を吹かしているわけでもない。
「代表としての自覚を強く持ってピッチに立ってほしい」
 
 かつて日本女子代表は世界でまったく勝てない時代があった。男子とは異なり、女子は世界で勝てなければ、スポットライトを浴びることはない。川澄も失意のどん底を経験した先輩たちの苦労があってこそ、「今があると思っている」。そうした時代を考えれば、格段に注目度の上がった今、「どんな試合でも負けてはいけない」と思う。
 
 代表とはそういう場である――先人たちから脈々と受け継がれてきたものを伝えるべき立場に自分がなったことを理解したうえでの厳しさだ。
 
「中国戦で感じてくれたんじゃないかと信じています。球際の強さだったり、アジアもそんなに簡単ではないってことも含めて」
 
 そして、若い後輩たちの成長を願っているからこその厳しさでもある。
「お膳立てしてあげようとか、全然思っていません。でも、彼女たちがボールを持って、行ける場面で遠慮していれば、声をかけて行かせてあげたい」
 
 ヨルダン戦に向けては「たぶん、ボールは保持できると予想されるので、そういう相手をいかに崩して、ゴールを決めるか。そこを意識して戦いたい」と意気込みを語る。
 
 決定的な仕事をこなすだけでなく、代表としての自覚や責任を体現する気持ちのこもった川澄のプレーから目が離せない。
 
取材・文:広島由寛(週刊サッカーダイジェスト)