甲子園ベスト4投手のPAP（投手酷使度）をチェック、三重高の今井投手はいつ故障してもおかしくないレベルに
今年は各校の投手の個性と起用法が際立っている。これをデータで見てみよう。まずはベスト4の投手一覧。
ベスト4投手
4校の内3校が、実質的にエース1人が投げる形。日本文理の飯塚悟史は、1人で投げ抜いたし、三重の今井重太朗 、敦賀気比の平沼翔太もほとんどのイニングを投げた。
これは準決勝、決勝と連戦が続く中、非常に有利だと思われる。二人とも防御率は平凡。そこそこ打たれるが、敦賀気比とともに双璧と言われる打線が厚い援護をしてくれる。これは本当に心強い。
ところで、甲子園の大会はこのところ、アメリカのメディアからも注目されている。ダルビッシュ有や田中将大などが大活躍したからだが、同時に十代の投手が、アメリカでは考えられないほど多くの球数を投げていることを問題視しているのだ。
昨年の選抜大会で、愛媛済美の安楽智大投手が甲子園で772球を投げてESPNなどアメリカのメディアが「考えられない」と書き立てたのは記憶に新しい。
今年のベスト4に残った投手はどうなのだろうか。
大リーグにはPAP（Pitcher Abuse Points）というデータがある。投手の酷使度を見る指標。数式は簡単。（投球数−100）の3乗 ※100球未満の場合は0ポイント。この数字を累積していく。
PAPがシーズンで10万ポイントを超えると危険水域、20万ポイントを超えると、いつ故障してもおかしくないと言われる。
ベスト4に残った学校の投手のPAPランキング
三重の今井重太朗は、43万ポイント、日本文理の飯塚悟史は、22.2万ポイント。この二人はすでに、いつ故障してもおかしくない。
今井重太朗（三重高）
球数が32球しか違わないのに、今井のポイントが飯塚よりも倍近く多いのは、大垣日大戦で163球も投げているのが大きい。飯塚は大分戦の145球が最高。
飯塚悟志（日本文理高）
大阪桐蔭の福島孝輔も16万ポイントまで来ている。しかし大阪桐蔭にはもう1人田中と言う投手がいる。彼はまだ6000ポイント。酷使されていない。
福島孝輔（大阪桐蔭高）
敦賀気比の平沼翔太も4試合を一人で投げているのだが、PAPは、5.5万ポイントと安全圏。投球数が少なく、効率の良い投球をしているのだ。
平沼翔太（敦賀気比高）
準決勝の三重と日本文理の対戦は、PAPが限界点を超えている二人の対戦。球数もかさみそうだし、決勝に進出したとしてもコンディションはさらに悪くなりそう。下手をすると故障する可能性もありそうだ。
対照的に大阪桐蔭、敦賀気比の対戦は、どちらの投手も余力がある。決勝戦はこの対戦の勝者が有利だろう。
もちろん、PAPは万全ではない。「日本の投手は怪我をしない投法を教え込まれているし、下半身を鍛えているからアメリカの投手の基準は通用しない」という説もある。しかし疲労度が高まれば、投手のパフォーマンスは落ち、故障の危険性が増すのは常識だ。
この数値を頭に入れて準決勝を見ると、いろいろなことが見えてくるのではないか。
【執筆：広尾晃】
1959年大阪市生まれ。日米の野球記録を専門に取り上げるブログサイト「野球の記録で話したい」でライブドアブログ奨学金受賞。著書に「プロ野球なんでもランキング」（イーストプレス刊）。
