回転率の違いでお店の売上高は大違い

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「100円マック」の大ヒットなどでデフレの“勝ち組”と見られてきたマクドナルド。しかし、昨年度に110店、そして今年度も74店もの閉鎖をすることを明らかにし、飲食業界の厳しさを改めて教えてくれた。しかし、そうしたなかにあって、いつも不思議に思っていたのが立ち食いそば屋の存在なのだ。

主要な駅や繁華街に必ずある立ち食いそば屋だが、なかにはわずか10メートルくらいしか離れていないところに、ライバル店が軒を連ねているようなところもある。当然、競争が厳しいように思えるのだが、閉店したところを見た経験があまりない。

確かに立ち食いそば屋はワンコインでお釣りがくるくらいリーズナブルであるし、ぱっと食事を済ませられ、毎日忙しいビジネスマンにとっては強い味方である。しかし、どうして厳しい世間の荒波をかいくぐることができるのだろう。

まず考えられるのは、「回転率」のよさだ。これは一定の時間にどれだけのお客が来店するかを表す数字で、お客1人が平均で6分在店したとすると、1時間当たりの回転率は「60÷6」で10回転となる。もし15人入れるお店なら、「10×15」で1時間当たりの総客数は150人と弾き出される。

「60÷6」という計算式を見ておわかりのように、回転率は客の在店時間によって大きく異なる。券売機で食券を買って、カウンターでそばを受け取り、素早くかきこむ。立ち食いそば屋とはそういうものだが、定食屋だとそうはいかない。

定食が出てくるまで多少の待ち時間があるし、食べるのにもそれなりの時間がかかる。どんなに急いでも20分くらいはかかる。すると回転率は「60÷20」で3回転。同じ15人のキャパシティのお店なら、1時間当たりの総客数は「3×15」で45人にすぎない。

「そもそも立ち食いそば屋と定食屋では客単価が違うだろう」と思う人がいるかもしれない。では、立ち食いそば屋が400円、定食屋が800円だったとする。おのおの1時間当たりの売上高を計算して比較すると、「150×400=6万円」「45×800=3万6000円」となり、立ち食いそば屋に軍配があがる。この勝因はひとえに回転率のよさにある。

ついでに、このケースをもとに月商を計算してみよう。朝8時から夜8時までの12時間お店を開けて、ウイークデーのみの営業だったとする。暇な時間もあるので、時間当たり売り上げは6万円の半分としても「3万×12×5×4=720万円」。この通りいけば、よい商売だ。

そして、もう一つ立ち食いそば屋の強みがあると私は見ている。それは食材のロス率の低さだ。実は私は公認会計士として独立する際、商売を学びたいと考えてタイ焼き屋を開いたことがある。そこでわかったのは、原材料となる食材を無駄にすることがほとんどなかったことによるメリットだった。

餡子は冷凍しておけば日持ちがするし、玉子もそうそう腐るものではない。それに湿気さえ気を付けておけば、小麦粉がダメになるということもない。だからせっかく仕入れたものを無駄にすることがなく、あとは客足に応じてタイ焼きを焼いていくだけで済んだ。

立ち食いそば屋の食材というと、そばにうどん、てんぷらのネタに使うエビや野菜、それとワカメにネギといったところだろう。生ものを扱う定食屋と違って、どれも日持ちがして、仕入れた食材を無駄にすることが少ないはずだ。

1杯300円、400円という小さな商いのように思える立ち食いそば屋だが、実はその裏側ではきちんと“儲けのシステム”が確立されているのだ。こう見ていくと商売って本当に面白いものだと思う。

(公認会計士・税理士 柴山政行 構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)