【地域活性化のススメ】地方より東京のほうが疲弊している/小槻 博文
全国各地で地域おこしや地域活性化に向けて取り組んでいる企業・団体を紹介する「地域活性化のススメ」。
今回は四国や瀬戸内海の島々の地域おこしに奮闘する地域活性ベンチャー・株式会社459の取り組みについて紹介しよう。

 「地域活性化のススメ」http://www.pr-startup.com/?cat=20

地方より東京のほうがよほど疲弊している

同社代表の真鍋邦大氏は生まれも育ちも高松だが、大学進学をきっかけに上京し、卒業後はそのまま東京に残って外資系金融機関に就職した。新卒当時は地域おこしどころか、地元に戻る気も全くなかったと言うが、転機は2008年だった。

当時からメディアでは地方はダメだ、地方は疲弊しているなどと散々言われており、東京にいる頃は真鍋氏もそれを疑わなかった。しかし半年ほど米国に滞在することになり、渡米までの間東京の家を引き払って1か月ほど実家で過ごすうちに、よほど東京より地方のほうが元気なことに気づく。

「東京では毎日通勤に何時間も費やし、満員電車に詰め込まれ、表情もしかめっ面ばかり。マクロで見れば確かに地方は疲弊しているかも知れませんが、一人ひとりを見てみれば東京の人たちのほうがよほど疲弊していると、そのとき思ったのです。」(真鍋氏)

一方地方の人たちは日常が当たり前になっていて、地元の良さに気付いていない。ならば都会と田舎の両方を知る自分が地域の良いところを発信することで、地域の人たちがその土地に誇りを持てるようなことを出来ないだろうかと考えたのがそもそもの始まりだった。



パラダイムシフトの予感

とは言えすぐに行動に移したわけではなかった。予定通り渡米し、帰国してからもしばらくは東京で働いていたが、間もなくして東日本大震災が発生した。

「東日本大震災は太平洋戦争以来の有事といっても過言ではなく、そのとき私は震災を境にパラダイムシフトが起きると直感しました。パラダイムシフトにはさまざまな定義があると思いますが、私は『優先順位の変更』であると考えており、従来の“貨幣”から“安全・安心”に対する価値観へと優先順位が変更していくに違いないと思ったのです。」(同)

確かにすぐに行動に移せる人は少ないかもしれない。しかし例えば子どもが就学したタイミングだとか定年退職のタイミングで移住を検討するなど、数年から十数年の単位で見た時には必ず地方志向が高まると真鍋氏は考えた。

そのようななかで課題先進地域とも言われる、自分が生まれ育った四国を舞台に新しいライフスタイルやビジネススタイルを発信していこうと考えて、株式会社459を設立するに至った。

地元経済に資する活動であれば何でもやってみる

しかし真鍋氏は、地元高松ではなくあえて小豆島を拠点とすることにした。



「取り組みを始めるにあたって、何か象徴的な存在を軸にするのが分かりやすいと考えました。香川と言えば“うどん”が真っ先に思い浮かぶと思いますが、既に『うどん県』などの取り組みが行われています。では次に代表的なものは何かと考えると瀬戸内海の島々であり、その中でも象徴的存在と言えるのが小豆島でした。」(同)

「小豆島と言えばオリーブが有名ですが、実は他にも素麺や醤油などさまざまな名産があり、これらは有力なコンテンツだと言えますが、まだまだ一部の人にしか知られていません。また小豆島は香川県のなかでも高齢化や少子化などが進んでいる、まさに社会問題の縮図といえる地域でもあります。そこでこのような二面性を持った小豆島を拠点にしようと考えました。」(同)

そして459では島のさまざまな食材を使ったお菓子をつくるとともに、それらにまつわるさまざまな物語を交えながら販売する「ポン菓子」や、地元の生産者と産品が描かれた12枚のカードの中から野菜や果物、加工品などお好みの商品を選んで申し込むと、旬の時期に地元の生産者から直接送られてくる「小豆島のギフト」などを始め、小物やTシャツなどの物産を生産したりするなど、地元経済に資する活動であれば分野を問わず積極的に手掛けていくという。



またこの5月からは新たに「四国食べる通信」を始めた。これは一言でいうと“食べる情報誌”で、隔月で四国の食材と情報誌を一緒にして消費者に届けられる。ちなみに創刊号では高知のカツオと有機しょうが、天日塩が同梱された。



生産者と消費者を真の意味でつなぐために

その「四国食べる通信」のお披露目会は東京で開催されたが、その狙いを次のように語る。



「別に10,000件売る必要はなく、1,000件で良いと思っています。また仮に10,000件受注したとしても、10,000個も作物をつくれるわけでもなければ、10,000匹も魚を釣れるわけでもありません。地場の食材は大量生産・大量消費のモデルではないのです。」(同)

「その代わり1,000人の“仲間”をつくる、つまり本当の意味で生産者と消費者をつなぎたいと思っています。私たちの取り組みは生産者と消費者の距離を近づけることであり、消費者の多くは都会の人たちです。そこで東京でお披露目会を開催することにした次第です。」(同)

また日常的にも、生産者と消費者を近づけるために積極的にSNSを活用して情報発信を進めている。

「情報発信には幾つかやり方があると思いますが、“メディアに載る”ことは自らコントロールするのは難しく、“メディアをつくる”ことは労力や費用がかかります。」(同)

そのような中で今はSNSが発達しているので“自分がメディアになる”ことも可能な時代だ。そこで真鍋氏は3つ目の選択肢として“自分がメディアになる”を選び、自分が本当に良いと思えるものを直接伝えるとともに、さらには「あいつがやることならば面白いに違いない」などと思ってもらえるように個人ブランディングを図っている。そしてそのためには毎日欠かさずに情報発信することが重要だという。

「新聞は毎日届きますし、テレビも電源を入れたらいつでも流れているように、私も毎日SNSにて取り組みや想いについて投稿するようにしています。また毎日欠かさず情報発信することで、逆に『真鍋にこの情報を教えてあげよう』『真鍋に相談してみよう』と情報が入ってくることにもつながっています。情報は発信する人のところに集まってくるのだと思います。」(同)



とは言え459はメディアにて報道されることも多い。それはきっと“自分がメディアになる”べく常に情報発信しているからこそメディアの目にも留まるのだろう。

田舎で最も必要なのは“パワーポイント”なんかではなく“パワー”!

今後の抱負について最後に聞くと、「田舎で最も必要ないものは“パワーポイント”であり、最も必要なものは“パワー”」という言葉が返ってきた。人は論理では決して動かず、どれだけ想いを伝えられるかに全てがかかっている。特に地方に行けば行くほどその傾向は顕著だ。したがって企画書などは一切つくらず、思いついたらまずやってみる、そしてやりながら形にしていく、そんなスタイルで今までもやってきたし、これからも続けていきたいと力強く語ってくれた。

「5年後、10年後云々ではなく、目にしたこと、肌で感じたことを大切にしながら、目の前のことを一つひとつ形にしていきたいと思います。」