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前々回のコラムでは"視聴率が伸び悩んでいる理由"を、前回のコラムでは"ハマる人が多い理由"を挙げたが、今回のテーマは『半沢直樹』との違い。『ルーズヴェルト・ゲーム』は、制作スタッフや多くのキャストが同じことから「二番煎じ!」と揶揄されていたが、第5話の視聴率は過去最高の16.0%を記録。全く別物のドラマであることが、浸透しはじめたのではないか。

○"悪から正義になる"ヒーロー

両ドラマ最大の違いは、主人公である細川充(唐沢寿明)と半沢直樹(堺雅人)の立場。上司に立ち向かう半沢に対し、細川はスタート時点から社長に君臨している。社員に偉そうな物言いをする細川は、確かに半沢よりも共感しにくい。しかし実は、「ビジネス上の人間関係をより深く掘り下げている」とも言える。

日ごろ細川は、社員や野球部に厳しい言葉を放つ一方、他社や経営陣からは攻められっぱなし。「常に仲間がいない」孤独な姿は実在する社長そのもので、そのためか第5話では、奮闘する野球部に自分の姿を重ね、思わず応援してしまうシーンがあった。今後、細川はこのような"正義キャラ"としてのシーンが増えるだろう。つまり、"正義であり続ける時代劇的なヒーロー"の半沢に対して、細川は"悪から正義に生まれ変わる不良ドラマ的なヒーロー"なのかもしれない。

ちなみに、もう1人の主役・沖原投手(工藤阿須加)も、周囲の人と野球を遠ざけ、悪を受け入れていたところから抜け出し、正義のヒーローとして野球部を救うなど、人の気持ちや立場が変わっていく過程が丁寧に描かれている。

○カッコ悪い姿こそがカッコイイ

細川や野球部が敵にやられまくるシーンが多いのは、『半沢直樹』と同じ展開。ただ半沢は、さっそうと走り、竹刀で相手を撃ち、悔しがる表情も含めてカッコ良く勇ましい姿ばかり。一方、細川や野球部は、悩み苦しむシーンが大半を占める。

第5話でも、細川は「もしうまくいかなかったらそのときは潔く身を引く覚悟だ」と追い込まれたあげく、商談に負けてしまう。沖原も折れたバットが直撃しながら熱投したが、延長戦で負けてしまうなど、救いのない終わり方で、どちらかと言えばカッコ悪い姿だった。

ただ、そのカッコ悪い姿こそがこのドラマの魅力。青島会長(山崎努)の「(沖原は)最初からずっと全力投球だ。でもなぜかな、それだけのことなのに、熱くなるのは」というセリフが物語るように、細川には神山開発部長(山本亨)とTOYOカメラ尾藤社長(坂東三津五郎)が救いの手を差し伸べ、沖原には大道監督(手塚とおる)や三上野球部部長(石丸幹二)らが優しい目を向けるなど、感動させられるシーンが多い。

○パーツのアップと淡い恋愛模様

半沢直樹』と言えば、"顔芸"と言われたほど、真正面からの顔面アップが多かったが、『ルーズヴェルト・ゲーム』は、もうひと工夫アリ。アップを多用した臨場感あるカメラワークはそのままで、さらにバリエーションが豊富になっているのだ。ビジネスパートでは『半沢直樹』同様に顔面アップで胸から下が映ることはほぼないが、野球パートでは引いた映像で全身を映しつつ、選手の腕、大腿、尻などたくましいパーツのアップを絡めている。

また、「『半沢直樹』の夫婦パートがなくなって残念」という声もあるが、その代わりに沖原と同僚・美里(広瀬アリス)との淡い恋愛模様がしっかり。第5話でも「沖原くん、明日頑張ってね」「絶対勝つから」なんて中高生のようなやり取りが、何とも甘酸っぱかった。さらに、「事務的で冷たいように見えて、実は穏やかに細川を見守り、スイーツで癒す」社長秘書・仲本(檀れい)とのコンビもジワジワ効きつつある。

○心がつながりはじめた社長と野球部

第5話のラストで細川は野球部の奮闘に感動し、部の存続を認めた。これはそれまで冷徹なイメージを貫いていた細川が変わる象徴的なシーンなのかもしれない。頭と言葉を使って頑張る社長と、全身を使って頑張る野球部員。第一章で水と油状態だった両者が、第二章ではどのような過程を経て心のつながりを育んでいくのか? 次回はさらなる敵のバッシングや、ジャイアンツの出演もあり、物語はますますヒートアップしていく。

最後に。『半沢直樹』は、"大和田常務(香川照之)への復讐"という分かりやすいゴールが見えていたが、『ルーズヴェルト・ゲーム』は、いまだゴールのイメージが見えてこない。細川を待っているのは、会社の存続か、それとも、さらなる成功か。野球部に待っているのは、部の存続か、それとも、都市対抗野球大会の優勝か。そして、『半沢直樹』のような視聴者の予想を裏切るショッキングなラストシーンはあるのか。ラスト1カ月間、目が離せない。

■木村隆志コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。

(木村隆志)