あざといは漢字では“小聡明い”。合コンで若手女子が全員カシオレを頼む中、中生を飲んでしまう独身OL。肝心なところであざとくなれない彼女たちをどうかかわいいと思ってあげてください(懇願)。
また、コミックス初刷の帯には、《生きとし生けるすべての独身OLに捧ぐ鎮魂歌(レクイエム)》とあるので、読めば荒ぶる魂を鎮まるかもしれません。

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『独身OLのすべて』(まずりん著/講談社刊)の1巻が発売された。2012年10月、「オモコロ」に掲載されるやアクセスが集中し、サイトがダウン。2013年5月からは「モアイ」に場をうつし、ひと月で1,000万PVを達成した。独女を題材にしたマンガは数あれど、この作品ほどあざとい女であることをはばからない人物たちはめずらしい。

ノブ子、タマ子、マユ子は横浜の会社につとめる30代の独身OL。後輩(ゆとり世代)のつぶやきをチェックして毒を吐き、同僚の彼氏自慢に毒を吐く。クリスマスには、みなとみらいのカップル全員がベッドで励む姿を想像してゲロを吐く。そうかと思えば管理職のおじさん用にゴルフネタを用意し、イケメンが入社すればあからさまに身だしなみに気合いを入れ始める。

女同士の会話は実にスリリングだ。
「アタシどんだけ食べても太らないんだー」と言って、炭水化物をほおばるユミ(おそらく20代)。
それに対して「えースゴーイ…」とほほえみながら、(でも食べた分は出すだろ☆)とトイレネタをかぶせるノブ子。
小食を気取るのも、“もりもり食べる私”も、戦術という意味では同じだ。
そしてノブ子のセリフ。一撃でエモノをしとめる後半の鋭さもさることながら、前半の絶対零度感。脊髄反射のようにこのフレーズが出るのは、女子としての経験がなせるわざだろうか(ちなみに「すごい」は男をいい気分にさせる《合コンさしすせそ》の一つ)。

『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(滝波ユカリ・犬山紙子著/筑摩書房刊)で、自分の方が女として上であることを顕示する女のことを “マウンティング女子” として話題になっているそう。もともとは動物の社会的な序列を決めるため行為だが、女のマウンティングは上下がころころいれかわる。
ダイエットにいそしむタマ子とマユ子に、爆弾を投下する後輩・村田(CanCam時代のエビちゃんスタイルのゆとりOL)。
「わ〜 アタシもやろっかな〜 でも太っても結構すぐ元に戻るんですけどね〜」
「おとなの階段のぼる君はまだシンデレラさってか」
「女の体型は28から急激にダダ崩れするのよ 今は余裕こいてるけど絶対そうなるから」
「いい? これはマジだから なぜならアタシ達も昔アンタと全く同じこと言ってたから!!!」
知らぬ間にのぼっていた階段は一方通行だったらしい。

また、女の諸問題は後輩や同僚だけが相手ではないのもリアルなところだ。友だちだって例外ではない。
温泉にいけば、相手の体を横目でチェック。下腹部についた肉や過大報告された胸を見て、密かに気分をよくする。
結婚式に参列すれば、ご祝儀分を取り返せないのではと独身同士で嘆きつつ、心の中で(私は関係ないけどね☆)と思っているのだ。
登場する女たちは、決して仲が悪いわけではない。誰かが落ち込めばそっと飲みに誘い、赤提灯のもつ焼屋でともに中生を流し込む(これやってるのはアラサーOLたちだけだけど)。世代は違えど、ゆとり・アラサーかかわらず共通しているのは《OLは適度な距離感と腹八分目の友情が大切だよネ☆》というスタンスだ。連載の途中までOLをしながら執筆していたという作者ならではの生々しさがある。

『独身OLのすべて』をさらに楽しみたい場合は、アラサーたちの言動に注目してみて欲しい。
梅沢富美男の「夢芝居」をBGMにブーケトスに臨み、天耳通を駆使して不倫カップル(予想)の会話を盗み聞きし、イージー・ドゥ・ダンササイズでダイエットに励む。
最新トレンドにおもねったりしない、「昭和生まれですが、女ですが、何か?」という潔さ。
彼女達に迷いはない。人間関係のしがらみを感じている人は、はばからなさに笑った後、すこしばかり強さをもらえるかもしれない。

ちなみに作中で元ネタについての説明は一切ないので、わかんない人は自分でググりましょう。でないと早朝バズーカくらうかもよ?

まずりん『独身OLのすべて』
第1話はコチラ。

(松澤夏織)