困難を克服し、9人で戦った都立大島の健闘 

3回、昭和一学園・渡部のホームイン

 0対6、3安打完封で負けたチームに健闘という言葉を使うのは、失礼かもしれない。けれども都立大島は、賞賛するに値する戦いをして、明治神宮第二球場を去った。

 昨年の夏は15人で戦った都立大島は、3年生が抜けると10人になった。それでも都立大島はブロック予選を勝ち抜き、都大会に進出。

 10月14日に日大三と対戦し、0対18で敗れた翌日のことだった。台風26号によって伊豆大島には土石流が発生。死者36人、行方不明者3人という大惨事になった。学校は避難所となり、野球部員はボランティア活動を行い、2か月は練習ができなかった。

 その後も学校のグラウンドは使えず、5キロほど離れた軟式野球のグラウンドで練習。しかも部員は10人。「実戦練習はできません。せいぜい外野ノックの時に、内野がランナーになるくらいです」と、都立大島の天野 一道監督は語る。さらには、大会直前になって選手の一人が体調不良でベンチを外れ、交代が許されない9人で試合をしなければならなかった。 そうした困難を克服し、近年力をつけている昭和一学園との対戦。

 昭和一学園は長打力こそさほどないものの、昭和一学園の多田 倫明監督が、「足から攻めるのが、うちの野球です」と言うように、この日3安打の1番花村 将臣、それぞれ2盗塁を決めた2番谷田部 唯、3番渡部 健太といった俊足の選手が、攻撃を引っ張っている。

 試合は1回裏、昭和一学園が3連続四球による一死満塁のチャンスに、5番田中脩がライト前にヒットを打ちまず1点。続く大久間 貴史がライトへの犠飛を打ってこの回2点目。3回は相手遊撃手の野選で1点を追加した後、一死一、三塁の場面で一塁走者田中が盗塁。送球の間に三塁走者渡部がホームに突っ込むという、得意の足技で追加点。さらに2点を加えて、4回を終えた時点で、昭和一学園が6対0と大量リードを奪った。

 

大島のエース・浜部

 一方都立大島は、4回表に4番前田 海夏、5番星 凌太朗の連打に、浜部 航史郎の死球で無死満塁のチャンスをつかんだが、続く打者が併殺打と三振に倒れ、無得点に終わった。6回にも二四死球と1失策で二死満塁のチャンスをつかんだが、三振に倒れた。

 昭和一学園は、背番号11の山内 章仁が先発。背番号1の齋藤 純、18の當間 裕太とつないだ。山内と齋藤は左腕の技巧派。當間は右腕の本格派で、球に力があった。「ケガもあって18番になっていますが、本当のエースは當間です。でも左の二人も伸びてきている」と、昭和一学園の多田監督は期待を寄せる。

 都立大島のエース・浜部は、序盤コールド負けのペースであったが、スリークォーター気味のフォームからコーナーを突いて、5回以降は点を許さなかった。守備も華やかさこそないものの、エラーはなかった。ただ、実戦練習ができない分、前半昭和一学園の足を絡めての攻撃に対応できなかったことが惜しまれる。それでも都立大島には、点差に関係なく、一生懸命やろうとする姿勢が伝わってくる好チームだった。

 都立大島には、もうすぐ新入部員も入ってくる。「少しでも、競争が生まれてくれれば」と、都立大島の天野監督は期待する。今年の選抜大会は、都立小山台と、鹿児島県の大島高校、海南高校が21世紀枠で出場している。中でも都立小山台に関しては、「都立小山台も困難な状況で頑張っているから、刺激になります」と天野監督は語る。

 全国レベルの強豪校もいれば、練習場所に困る都会の学校、離島や山間部の学校もいるといったように、多様性のある東京の高校野球は、全国の高校野球の縮図でもある。それぞれの困難を克服しようという姿に、エールを送りたい。

(文=大島 裕史)