『ニュースルーム』WOWOW 4/10(木)〜12(土)でシーズン1を一挙放送。

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『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial 2013夏号』のお宝DVDには、海外ドラマ1話が8本入っていた。
そのうちのひとつが『ニュースルーム』で、これが最高。
興奮! こりゃDVD出たら買うぞと決意するが、出ないんでやんの。
なんで? なんで? なんで?
WOWOWでやるからいいけどさ。なんで、出さないの?
いや、ともかく、めちゃくちゃハマった海外ドラマだ(1話、5回観た)。

脚本は、『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキン。
超速いテンポで会話がやりとりされる。

エクゼクティブプロデューサーのマックと、キャスターのウィル・マカヴォイが再会して(以前、つきあってたけど、あれこれあって別れたのだ)、言い合いしている間に、速報が入ってきたシーン。
ドンは、自己中のウィルについていけずスタッフをごっそり引き抜いて他の番組に行こうとしている。
ドンの恋人、マギーは残ると決めたアシスタント。
ジムは、マックの部下として働いていて、やって来たばかり。

ドン「君はまだスタッフではない。いいから落ち着け」(ジムの肩を叩き、離れ)
ドン「ほかには」(画面外で)
スタッフA「ありません」(近づいてきて)
ジム「あるかも」(振り返る)
ドン「いや、ないだろ」(移動)
ジム「石油掘削施設の爆発だぞ」
スタッフB「ペルシャ湾?」
ドン「いや、違うメキシコ湾」(手をあげながら)
ドン「ケンドラ」
ケンドラ「BP社のディープウォーターホライズン、ルイジアナ州…」
この間、ほんの10秒だ。
複数の人間が慌ただしく移動しながらの台詞の応酬。
この調子で、ぐんぐん物事が進展していく。
プロジェクトが、恐ろしい勢いで進んでいくさまは爽快だ。
会話と仕事の激しいダンスだ。

そのすぐ後。

ジム「マーガレット」
マギー「はい」
ジム「たのめるかな。MMUって政府機関があるんだ。鉱物管理局。海洋掘削を監督しているところらしいが、よく知らないんだ。リサーチしてくれる?」
ドン「ぼくがやる」
マギー「わたしできる」
ドン「忠誠心があるのはきみだけじゃない。ぼくも力になる」
マギー「ちゃんとやれる」
ジム「できるかい」
ドン「ウィキペディアをみるだけじゃダメだ」
ジム「そのとおり」
マギー「そんなことしません」
ドン「彼女はアシスタントだ」
マギー「アソシエイトプロデューサーよ」
ドン「いつから」
マギー「2時間前から」
ジム「それはすごい」
マギー「ふたりとも邪魔しないで。ボスが誰かなんてどうでもいい。わたしはちゃんとやりたいの」
ドン「お手並み拝見」
マック「地質学者を。ドン、うちがたよってる地質学者は?」
ドン「たよってる地質学者……。地質学の緊急ニュースはあんりないから」
ニール「MITのジェームズモリス博士か、スタンフォードのマーヴィンハズブルック博士」
マック「先に電話に出た方を」

これで、40秒。
すごい密度でしょ?
カメラもガンガン動き、人もガンガン動く。
台詞だけじゃなく、画面情報密度も濃密で高速に展開。
背景の人も、慌ただしく動いている。
わー、わー、わー、わー。
観ているこちらは、ハイになってくる。
テニスのすごいラリー、しかも複数人がやってるテニスのラリーを観てる感じだ。
気持ちいい。

と、思うと、長台詞でぐぐぐぐぐぐと盛り上げるシーンもある。
第1話、はじまってすぐ。
タイトルが出る前の超長台詞。
しかも、作品のテーマを、ここまでストレートに語ってしまう。

場所は大学。
討論会が終わって、学生から質問がでる。
「なぜアメリカは世界で一番偉大なんでしょうか?」
ウィル・マカヴォイが答える。

全部引用してたらめちゃめちゃ長くなるので、部分的に引用しよう。

「そこのノー天気女子。
まちがって君が投票所に迷い込んだときのために知っておくべきことがいくつかある。

一つにはこの国が世界で1番だという根拠は何もないということ。
読み書きは世界7位、数学は27位、科学は22位、平均寿命は49位、乳児死亡率は178位、平均世帯所得は3位、労働人口は4位、輸出は4位。1番なのは3つの分野だけ。
それは全国民に占める投獄者数の割合、天使の存在を信じている大人の数、それと国防費。
2位以下の26ヶ国の合計より多く、うち25ヶ国は同盟国。

これは君みたいな二十の学生のせいではない。
にもかかわらず、君はまちがいなくこれまでで最悪な世代の一員。
なのに、この国が世界で偉大な国だなんて。
君は一体何の話をしている。大丈夫か?

……かつてはそうだった。
正義のために戦い、法律の制定や廃止をモラルに基づいて行い、貧しい人々とではなく貧困と戦った。
己を犠牲にし、隣人を気にかけ、口先だけではなく行動し、常に理性的だった。
巨大なものを作り上げ、飛躍的な技術の進歩をとげ、宇宙を探検し、病気を治して世界一の芸術家や世界一の経済を育てた。
より高みをめざし、人間味があった。知性を求めることはけして恥ずかしいことではなかった。
選挙で誰に投票したかで自分を分類したりせず、たやすく動じなかった。

それができたのは我々が情報を与えられていたからだ。尊敬できる者たちによって。
問題解決への第一歩は問題を認識すること。
アメリカはもはや世界一偉大な国ではない。
いいかな」

超長台詞。
まだはじまって5分ちょいで(しかも1話目だよ)、3分にもわたる超長台詞がスタートだ。
しかも、数々の伏線をここに仕込んでいるのだ。

いやぁ、騙されたと思って、タイトルがでるまでの8分、観て。
したら、もうトリコだから。

扱われるのは、実際の出来事。
第6話は、福島第一原子力発電所事故だ。
アメリカでは、日本がどのように見えていたのか伝わってくるエピソードになっている。
他のエピソードは、こんな感じ。

EPISODE1 2010年メキシコ湾原油流出事故
EPISODE2 アリゾナ州反移民法“SB1070”
EPISODE3 ティーパーティー運動
EPISODE4 2011年ツーソン銃撃事件
EPISODE5 エジプト革命
EPISODE6 福島第一原子力発電所事故
EPISODE7 ウサマ・ビンラディン殺害
EPISODE8 米国債務上限問題
EPISODE9 民主党下院議員アンソニー・ウェイナー
EPISODE10 投票時ID提示法

「アメリカ政治をよく知らないから、なんかむずかしそー」
まてまてまってー。
がってーーーーーーーーむ! くまきるずゆーーーー! がおがお!
だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。
なにしろ、おれだって、まったく知らない、わかってません。
でも、めちゃめちゃおもしろかったからだいじょうぶ。
ティーパーティーって、なに? お茶会? なんでそんなに報道したがるの? と思ったぐらいだ。
いや、いまでも、よくわかってない。
わからなくても、だいじょうぶ。
これは、報道する現場の物語で、報道される政治や事件は、知らなくても、なんとなくわかってくるし、物語のぐっとくるところには影響ない。
いや、知ってたらもっとおもしろいんだろうなと思うと、どれだけおもしろいんだ、おもしろ死にさせる気かって、想像してさらにおもしろくなる。
根性と情緒で突破しない報道版『プロジェクトX』だし、倍返しじゃなく倍速度の報道版『半沢直樹』だ。

ああーーー、そして、案外、ラブコメ要素が強い。マックとウィル、ジムとマギーとドンとリサのダブル三角関係。ラブコメ要素あるけど、物語を邪魔しない。
『Sex and the City』ファンは、シーズン1の最終話まで観ると、もうたまんないだろう。

というわけで必見必見また必見。
とくに「報道ステーション」の古舘伊知郎さんは観て、たのむから観て。小川彩佳さんも観て。長野智子さんは観てるよね、観てるの希望。

あ、『ニュースルーム』観て、アメリカの政治に興味が出てきたから、あれこれ探って読んでみているんだけど、今のところオススメは、以下の二冊。

町山智浩『99%対1%アメリカ格差ウォーズ』
ティーパーティー、Fグレン・ベッグ、ギフォーズ議員銃撃、ジャスミン革命、コーク兄弟、オバマケアなど、『ニュースルーム』の副読本として書かれたのか!と叫びたくなるほど、ぴったりな本。いや、マジで、町山さん監修の『ニュースルーム攻略副読本』を出してほしいです。ひとりで5冊買うからプリーズ。
渡辺将人『見えないアメリカ』
読みはじめたところだけど、アメリカにおける保守とリベラルがどういったものかイメージが伝わってくる本。おもしろいです。

『ニュースルーム』観るべし!
WOWOW 4/10(木)〜12(土)でシーズン1を一挙放送。
シーズン2は、4/7(月)スタートです。
・ニュースルームWOWOW公式
・『ニュースルーム』の見どころ。
お見逃しなく! マジで!
(米光一成)