ハンガリー、ルーマニア、旧チェコスロバキアの雑貨で知る『共産主婦』の24時間
僕の性格が、あれだからっていう話なんですが、「チェブラーシカ」とか、かわいいキャラクターのチェコアニメみたいなのを見てると、「いま僕、貧しく崩壊していった国の、良かったとこだけ抽出して見てる。」「そして、悲惨だったであろう部分には、あんまり興味ない」って気分になる時がある。
気分っていうか、実際そういうものだし、特に気にすることでもない。だから別に、そういうことが頭に浮かんでも、それについて何か言ったり書いたりすることもない。
だけどやっぱり、すこしそれは寂しいと思うことがある。人が作った物に触れるんだから、「深く」ってわけじゃないけど、その単独キャラクターだけではなく、時にはその背景とか周辺も知ったり楽しんだりしたい。
つい最近出たばかりの『共産主婦』という本には、「東側諸国のレトロ家庭用品と女性たちの一日」という副題がついている。
朱色、水色、やまぶき色。シンプルだったりヘンテコだったり、雑貨写真に満ちた本だ。ハンガリー、ルーマニア、旧チェコスロバキアなどの国から集められた雑貨が、主婦の生活に沿った物語風に紹介されている。
食器、家電、包装紙といったお決まりのレトログッズはもちろん、自動車や缶詰や生理用品、観光地や国営工場といった、「雑貨屋に並びにくいもの」も色々載っていて、それについてコラムのような文章が毎ページ入っている。
たとえば、文房具。ペン立て1つでも、写真の横に、「自動車ディーラー・モトコフ社製、この会社は国家分裂後海外資本企業となった」という感じで書かれている。
これがコーラとかになると、さらにちょっと共産圏らしくなる。「1970年代の経済自由化によりハンガリーに登場したペプシコーラが非常に高価だったために一時期トロピコーラという自国生産品もあった。」というような感じだ。
だけど、データが多いだけじゃない。むしろ、点数豊富な写真が全ページフルカラー、デザインもしっかりしてるって所がまずベースになっている。難しいこと一切無視したい場合にも楽しい出来になってて、そこのバランスは書籍ならではかもしれない。
「主婦の生活」をテーマに作られた本だから、当時の住居やスーパーマーケット、観光旅行などについても写真付きで紹介されている。どういう仕事をして、家族とどうやって暮らしていたのか、姿が浮かんでくる。
実際こんな素敵な家具や雑貨に囲まれて、休暇も楽しめた理想的なファミリーが、当時どれぐらいの率でいたのかは、正直わからない。むしろ、少なかったんじゃないかなんて暗い想像ももちろん可能だ。でも、何も知らないきゃ、それすらできない。
この本に出てくる「かわいくて素敵な物たち」は、みんなその背景から断絶されず、それぞれの生い立ちや存在した景色をたどれるように紹介されている。
飲み物や砂糖の包み紙の色鮮やかな印刷を眺めても楽しいし、遠慮なく「インクの出が著しく悪い」と紹介されるボールペンに同情するも良し、ふんだんに書かれた共産豆知識に好奇心をかき立てられるのも良し、色んな楽しみ方ができる。それはやっぱり、「よくこれだけ集めにくそうなものまで揃えたなあ」っていう、手間暇と情熱が根底でしっかり支えてくれてるからだろうな、と思った。
『共産主婦』(イスクラ著)、社会評論社より。(香山哲)
気分っていうか、実際そういうものだし、特に気にすることでもない。だから別に、そういうことが頭に浮かんでも、それについて何か言ったり書いたりすることもない。
つい最近出たばかりの『共産主婦』という本には、「東側諸国のレトロ家庭用品と女性たちの一日」という副題がついている。
朱色、水色、やまぶき色。シンプルだったりヘンテコだったり、雑貨写真に満ちた本だ。ハンガリー、ルーマニア、旧チェコスロバキアなどの国から集められた雑貨が、主婦の生活に沿った物語風に紹介されている。
食器、家電、包装紙といったお決まりのレトログッズはもちろん、自動車や缶詰や生理用品、観光地や国営工場といった、「雑貨屋に並びにくいもの」も色々載っていて、それについてコラムのような文章が毎ページ入っている。
たとえば、文房具。ペン立て1つでも、写真の横に、「自動車ディーラー・モトコフ社製、この会社は国家分裂後海外資本企業となった」という感じで書かれている。
これがコーラとかになると、さらにちょっと共産圏らしくなる。「1970年代の経済自由化によりハンガリーに登場したペプシコーラが非常に高価だったために一時期トロピコーラという自国生産品もあった。」というような感じだ。
だけど、データが多いだけじゃない。むしろ、点数豊富な写真が全ページフルカラー、デザインもしっかりしてるって所がまずベースになっている。難しいこと一切無視したい場合にも楽しい出来になってて、そこのバランスは書籍ならではかもしれない。
「主婦の生活」をテーマに作られた本だから、当時の住居やスーパーマーケット、観光旅行などについても写真付きで紹介されている。どういう仕事をして、家族とどうやって暮らしていたのか、姿が浮かんでくる。
実際こんな素敵な家具や雑貨に囲まれて、休暇も楽しめた理想的なファミリーが、当時どれぐらいの率でいたのかは、正直わからない。むしろ、少なかったんじゃないかなんて暗い想像ももちろん可能だ。でも、何も知らないきゃ、それすらできない。
この本に出てくる「かわいくて素敵な物たち」は、みんなその背景から断絶されず、それぞれの生い立ちや存在した景色をたどれるように紹介されている。
飲み物や砂糖の包み紙の色鮮やかな印刷を眺めても楽しいし、遠慮なく「インクの出が著しく悪い」と紹介されるボールペンに同情するも良し、ふんだんに書かれた共産豆知識に好奇心をかき立てられるのも良し、色んな楽しみ方ができる。それはやっぱり、「よくこれだけ集めにくそうなものまで揃えたなあ」っていう、手間暇と情熱が根底でしっかり支えてくれてるからだろうな、と思った。
『共産主婦』(イスクラ著)、社会評論社より。(香山哲)