ゲーム論、クリエイター論で沸いた「大東京ノーコンナイトグルーヴ」。(写真右から)『ノーコン・キッド』の原案・シリーズ構成を務めた佐藤大、『東京トイボックス』の原作うめ・妹尾朝子と小沢高広、司会の稲田豊史。

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小沢 「ゼビウス」で始まって「ゼビウス」で終わる……このドラマを先に見なくて良かった。トイボ完結前にもしこのドラマがあったら、僕らも最後に「セビウス」を出しちゃっていたかも。

佐藤 ドラマの制作途中に『大東京トイボックス』の存在を教えてもらったんです。それで、パラパラっと見たんですけど、「ヤバい! これは終わるまで見ちゃダメだ!」と。それで、ドラマの制作が終わった後にちゃんと読み始めたんです。本当に……終わってから読んで良かったぁ。なんなら、ドラマで「ゼビウス」出すのを止めていたかもしれない。

12月29日、阿佐ヶ谷ロフトで開催された「大東京ノーコンナイトグルーヴ」で、二組のクリエイターは同じ考えを抱いていたことを吐露した。
この日のイベントに登壇したのは、テレビ東京系ドラマ『ノーコン・キッド〜ぼくらのゲーム史〜』で原案・シリーズ構成も務めた脚本家の佐藤大。そして、こちらも原作の漫画『東京トイボックス』がテレビ東京でドラマ化され、さらには今月から続編『大東京トイボックス』も引き続きドラマ化されている漫画家「うめ」こと、小沢高広(脚本・演出担当)と妹尾朝子(作画担当)の二人だ。

ゲームセンターを舞台にした友情を描いた『ノーコン・キッド〜ぼくらのゲーム史〜』は、「ゼビウス」や「ドラクエ」「スーパーマリオ」など実在するゲームは全て実名で登場。さらには「ゼビウス」のゲームデザインを手がけた遠藤雅伸や「ドラクエ」の生みの親である堀井雄二などがゲスト出演したことでも、ゲームファンを中心に支持を集めた。
一方の『東京トイボックス』は、ゲーム制作の舞台裏を描いたゲームクリエイターたちの群像劇。現在も前日譚である『東京トイボックス0』が「コミックバーズ」誌上とAmazonの「Kindle連載」で短期連載され、Kindle連載陣の中で売上げ上位を常にキープしている。
奇しくも同時期に「ゲーム」についての作品が映像化された脚本家と漫画家が、創作論とゲームカルチャー論、そしてドラマ化の裏側を語り尽くそうと企画されたこのイベント。司会を務めた編集者の稲田豊史がお互いの作品の印象を聞くと、トイボの天川太陽よろしくジャージ姿で臨んだ佐藤大が語り出した。

《納期ってこんなにエンターテイメントだったんだ!》

佐藤 とにかく僕はゲームが大好きなんです。今でも毎日、すっごい時間やってるんです。忙しいんですけど……それは全然別腹なんですよ! 今だって「アサシン クリード4」がもう大変なんですよ。そのくらいゲームが好きな僕が、「架空のゲームクリエイターの話らしいぞ」とこのトイボの存在を聞いた時、正直言っちゃうと「おいおいおい。じゃあ、ちょっと読んでみるかぁ?」というスタンスでした。それが読んでみたら、突然、権利の問題とか、納期の話とか……納期ってこんなにエンターテイメントだったんだ! と。

「納期ってエンターテイメント」に会場と、そして小沢も爆笑する。

佐藤 だって、決め台詞が「仕様を一部変更する!」ってどういうこと? こんな前代未聞の台詞が、8巻の段階では泣ける台詞になってるんですよ。

妹尾 でも、名台詞のように扱うかどうかは、私たちの間でも一悶着あったんですよ。

小沢 いろんなディレクターの方とか、現場の方の話を聞くと、ゲーム制作で良くも悪くも一番心が動くのが「仕様変更」の時なんですよ。天を仰いだり頭にきたり。でも、結果的には仕様変更して良かったよね、という具合に。火事と喧嘩は江戸の華、じゃないですけど、仕様変更が良くないよっていうのは、喧嘩良くないよ、と言ってるのと同じ。結局のところ、ゲーム開発の華は仕様変更なんです。だって、仕様変更が一回もなかったゲームなんて信用できます?

妹尾 これ、酷い台詞だなぁとずっと思っていたんです。でも、漫画『スティーブズ』(※電子書籍サイト「パブー」で公開している、若き日のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの物語)を描き始めて、ジョブズの存在を知って、『もっと酷い人が現実にいた!』と(笑)。それでずいぶん割り切れましたね。

《俺はゲームで友達ができたんだ!》

「仕様を変更する」という意味では、『ノーコン・キッド』も、実際には数々の「仕様変更」があったという。たとえば第1話は10回以上脚本を書き直した、というエピソードから、予算や時間の都合から様々な制約があったことが明かされていく。

佐藤 当初は、木戸が主人公だったんです。タイトルが『ノーコン・キッド』っていうくらいだから、そりゃそうだろう、とも思うんですけど。そこからどんどん二転三転して、今の形になりました。第1話は結局、ほぼゲームセンター内の話になったんですが、当初は学校とかスーパーの前とか、いろんなシーンや柱(場面転換)があったんです。でも、どんどん削られていくんです。

結果、主人公たちの設定を説明するシーンすら削除しても、ゲーム画面、ゲーム機本体、店内ポスターなど、ゲーム周りの描写だけは譲らなかったという。

佐藤 「わかりました。この柱は削ってもいいけど、ゲーム機は純正じゃなきゃ嫌だ!」とか、「この設定の話は削ってもいいけど、光速船は絶対に出す!」という具合に(笑)。だって「光速船」が出せれば、「アレを持ってる家は金持ち」というのを一発で表現できるから。(※「光速船」=1982年に発売された、テレビに接続しなくても遊べるという謳い文句のコンシューマーゲーム機、54,800円。ちなみに翌83年にファミコンが14,800円で発売される)

司会から、「そんなに佐藤さんのこだわりを通すと、現場と揉めませんでした?」という質問が挙がる。

佐藤 メイン監督の鈴村(展弘)さんは、僕も大好きだった「アキバレンジャー」とか「平成ライダーシリーズ」を手がけた方でした。その鈴村さんが、「ワンコイン入れる、っていうのは、『変身する』ということですよね?」「ゲーム画面は、特撮でいう『バトルシーン』ですよね?」と聞いてきてくれたんです。「そうです」と答えたら、「じゃあ、ここ大事ですよね」と監督が味方になってくれて、以降は監督にお任せすることができました。

とにかく周りに恵まれた、と何度も繰り返す。

佐藤 音楽にしても監督にしても、それは、以前脚本を担当した「カウボーイビバップ」や「交響詩篇エウレカセブン」なんかでもそうで、すごく気を使ってくださる人とチームを組むことが多くて、運がいいなぁと。

そして、周囲の心を動かしたコミュニケーション術も披露する。

佐藤 あとは、時間も予算も限られていたからこそ、「ドラクエがいじれますよ。しかも本気で」とか「マリオが動かせますよ。パロディじゃなくて」といったささやきで(笑)。 音楽をまりん(砂原良徳)にお願いする時も、「『ゼビウス』は使うよ。『スーパーゼビウス』かけられるよ」と。だから『ノーコン・キッド』って、もう愛でしかできてないんです。

佐藤が本作で描きたかったことも、ゲームを通したコミュニケーションだ。

佐藤 このドラマの主役はゲームセンターなんです。二人の友情の話が、本当にゲームから始まって、ゲームで終わる。ゲームって、人とのコミュ二ケーションなんだよね、と落ちる流れにどうしてもしたかった。

小沢 トイボでも攻略ノートの話が出てくるんですけど、当時から、ゲームにはソーシャルな要素があるんですよ。ゲームは基本的にソーシャルだという。そこが、『トイボ』と『ノーコン・キッド』は同じなんです。むしろ、「お前ら、同じテキストで本書いてんじゃねーの、と疑われるレベル(笑)

佐藤 「ゼビウス」の一番凄かったところはそこですよね。結局、ゲームは人とやってるんだという。「ゲームをやっていると、人と関わり合いがなくなる」とかってよく言われることですが、ずっと忸怩たる思いを抱いていました。だって、俺はゲームで友達ができたんだ! じゃあ、俺の友達の作り方は間違ってんのか? って。

小沢 ね。何か、すぐに「キャッチボールやろう」っていう話になりがちだけど、

佐藤 親父と「ファンタジーゾーン」でコミュニケーション取ったっていいじゃねーか、と。

《ニッチになって、上等じゃねーか》

イベントの最後に司会から、電子出版で揺れマーケットも縮小傾向の漫画業界、そしてDVDの売り上げが右肩下がりのアニメ業界の今後どうなるのか、作り手側はどうしていくのか、という質問が投げかけられた。

佐藤 「物語を見る」という行為は絶対になくならないと思っているんですよ。人間が人間である以上、ドラマがあって、そこに感動したり怒ったりする行為っていうのはなくならない。だから、自分自身が飽きない限り、続けるしかない。『トイボ』でも、「諦めたら負ける」みたいなフレーズが出てくると思うんですけど、外圧的に諦めさせようとしている感じの「数字」とか「売り上げ」に答えはないんじゃないかなって思うんですよね。

小沢 僕もまるっきり同じ考えなんですけど、その中で漫画が有利な部分があって、紙とペンさえあればできる。というローコスト性。極端な話、紙をワンクリックで黒く塗って、フィルターで白い点を散らせば「宇宙」ってできちゃうけど、映画でやろうと思えば莫大な費用がかかる。

佐藤 それって、僕であればラジオドラマ。「ゴワーッ」ていう音で戦争も描ければ、宇宙船の中も描ける。その中で、物語をどうやってミニマムで提供して、聞いてる人たちと共有していこうかと、というのを考えています。

小沢 漫画でも今後、縦スクロールで読むといった変化はあるかもしれないけど、少なくても絵に吹き出しみたいな形で台詞をつけてストーリーを語る、というのはなくならない。ローコストで派手な話が描ける、という表現が無くなる理由はないので、右肩下がりになろうが何も心配していないですね。

佐藤 どんな業界も栄枯盛衰は必ずあって、組織を守ろうとした瞬間に衰退がはじまる。その意味で言えば、僕らクリエイターは最小単位じゃないですか。僕なら、文字さえ書ければ生きていける。だから、基本的に琵琶法師までいける! ギター1本ならぬ、琵琶1本あればやれることがある。

「琵琶法師」の単語に沸く会場をよそに、佐藤は続ける。

佐藤 アニメでも今、絵を動けかせない、という場合があるんですよ。「動かざること山の如し」みたいな作品が結構ある。でも、画が動かない、となった瞬間から、止めのレイアウトセンスを磨き上げて新しい作品ができるんです。「エヴァンゲリオン」だってモブシーンが描けなかったから、世界が終わったんですよ。季節の背景が作れないから、

小沢 「永遠の夏だ!」と(笑)。

佐藤 その爽やかさたるやもう! だからこそ、ニッチになって、上等じゃねーかって。だって、80年代に自分たちが好きだったものって、滅茶苦茶ニッチなんですよ。好きな本は、本屋に1冊しかないんです。それを、取り合ってるような感じだった。結局、いつの時代も基本的には変わってないと思うんです。テレビがつまんないんだったらニコニコがあるじゃん。このトークイベントだってスーパーニッチじゃないですか。そもそも、この二組が作ったドラマのニッチっぷり(笑)。ゲームがテーマなんですよ。だから、今、焼け野原の分野がこれから面白くなりますよ。面白い物はある。それを探すシステムは変わっていきますけど。だから、割と僕は楽観視してますね。
(オグマナオト)

<佐藤大プロフィール>
ゲーム業界、音楽業界での活動を経て、現在はアニメーションの脚本執筆を中心に企画、脚本などを手がけている。主な脚本作に、TVアニメ『カウボーイビバップ』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『ウルフズレイン』、『交響詩篇エウレカセブン』、『東のエデン』、『LUPIN the Third -峰不二子という女-』、『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』など。テレビ東京系ドラマ『ノーコン・キッド〜ぼくらのゲーム史〜』では原案・シリーズ構成も務めた。現在絶賛放送中の『スペース☆ダンディ』でも脚本として参加。

<うめプロフィール>
シナリオ演出担当の小沢高広と作画担当の妹尾朝子の2人組漫画家。『ちゃぶだい』で第39回ちばてつや賞大賞を受賞。『東京トイボックス』に続き、昨年完結した『大東京トイボックス』が、テレビ東京系で連続ドラマとして放映中(毎週土曜毎週土曜 よる11:55〜)。現在、『東京トイボックス』の前日譚である『東京トイボックス0』が「コミックバーズ」とAmazonの「Kindle連載」で短期連載中。また、「@バンチ」では『南国トムソーヤ』を連載中(既刊2巻)。