もともとEカップの胸をHカップにしても止まらない。ヴァニラ『超整形美人』
「生けるフランス人形になりたい」
額300万円、鼻450万、目200万、歯350万、輪郭80万、アゴ60万、胸200万、腕60万、腹部250万、美肌50万。
総額2000万円以上、30回以上の整形を繰り返した女性、ヴァニラ。今回発売された自伝的エッセイ『超整形美人』で、彼女はこう自己紹介している。
名前:vanillaちゃむ
出身地:ヴェルサイユ宮殿
年齢:ルイ17世
身長:152cm(今後医療技術の発展次第で身長を伸ばす予定)
血液型:B型
整形のきっかけ:父親の言葉「不細工なんだから我慢しろ」
小学生の時のあだ名:鉄仮面
小学生時代、ヴァニラは「いじめ」を受けていた。
「ねえねえ、なんでそんなブスなのー?」
「ブスって、生きてる価値なくない?」
ブスの烙印は小学校二年生の二学期に押された。中学卒業までブス扱いされ続け、父親にも「不細工」と言われた彼女。心が癒されるのは優しい祖母の家にいるときだけ。その祖母の家にあったフランス人形を見て、「こんなふうに美しくなりたい」と憧れた。
高校進学を機に、ヴァニラはいじめから開放された。メイクに没頭するが、それもコンプレックスを強める結果になってしまった。
「メイクをすることで、ちょっとはマシになった私の顔。でも、ブスはがんばってもブスだった」
「高校を卒業したら、整形しよう!」
そこから「カスタム」人生が始まった。ヴァニラは美容整形のことを「カスタム」と呼ぶ。服や靴や家具を特注するように、顔をカスタムメイドする。
二重矯正の手術を皮切りに、次から次へとカスタムしていく。もともとEカップあった胸をHカップに。それも彼女にとっては満足いくものではなかった。目標はMカップだったが、それほどの豊胸は、皮膚が伸びきらず破れてしまう可能性があった。
「見れば見るほど人間らしいバストでしかなかった。生けるフランス人形の胸はこんな程度じゃない」
再度手術を行い、Jカップに。手術の際、ヴァニラはうわごとのように呟いていた。「先生、私、きれい? きれいなバストになってる……?」
2013年現在、ヴァニラの理想は満たされていない。技術には限界がある。それでも彼女は「いつか私にとっての『不可能』を一気に解決してくれる技術が出てくるかもしれない」と諦めていない。
『超整形美人』には、ちぐはぐに感じるエピソードがある。
吹奏楽部に入ってクラリネットを吹いたこと。中学校三年生でベースを手に入れ音楽活動に憧れたこと。中学校二年生のとき、三年生の野球部の先輩二人に告白されたこと。
どれも、「ブス」といじめられている最中の出来事らしくない。「ブスだからいじめられて、人生に絶望して、整形に目覚めた」という構図を強調したいのなら、このエピソードは掲載しない方がすっきりする。しかしこのちぐはぐさが、ヴァニラをよく表している。
ヴァニラは「内面に自信がある」と語る。自分の内面にきちんと魅力があることを読者にもわかってほしいから、好きなものがあったこと、いろんなことにチャレンジしたこと、恋だってできたこと(しかも相手から恋してもらい、選ぶ立場になれること)を語る。そこに彼女の強いプライドを感じる。
しかし、そのプライドは「ブス」の一言でかんたんに傷付く。外見を評価する無神経な言葉は、人の内面に大きな影響を与える。外見を低く評価されれば、他人と接するのに物怖じするようになったり、引け目を感じるようになることだってある。自己評価も低くなっていく。
ヴァニラは幼い頃から人見知りが激しく、初対面の人と話すのが苦手。一人で生きていくのが嫌で、男性に依存してしまう。ダメな人に対して「私が治してあげないと、この人の悪は治らない」と思いこみ、尽くしてしまう。現在は忙しくて恋愛している時間がないから、ペットのヘビとコウモリを可愛がっている。
ヴァニラの昔の写真を見て、「じゅうぶんかわいいじゃん、整形なんてしなくてもいいのにね」と言う人もいるだろう。けれど、そんな上から目線の言葉は慰めにならない。ヴァニラの持っているプライドは、外見とはアンバランスなものだった。これ以上傷つけられないためには、プライドを捨てるか、外見を変えるしかない。彼女はカスタムを選ぶ。
「私は、美しくなるために生まれてきた」
(青柳美帆子)
額300万円、鼻450万、目200万、歯350万、輪郭80万、アゴ60万、胸200万、腕60万、腹部250万、美肌50万。
総額2000万円以上、30回以上の整形を繰り返した女性、ヴァニラ。今回発売された自伝的エッセイ『超整形美人』で、彼女はこう自己紹介している。
名前:vanillaちゃむ
出身地:ヴェルサイユ宮殿
年齢:ルイ17世
身長:152cm(今後医療技術の発展次第で身長を伸ばす予定)
血液型:B型
整形のきっかけ:父親の言葉「不細工なんだから我慢しろ」
小学生の時のあだ名:鉄仮面
「ねえねえ、なんでそんなブスなのー?」
「ブスって、生きてる価値なくない?」
ブスの烙印は小学校二年生の二学期に押された。中学卒業までブス扱いされ続け、父親にも「不細工」と言われた彼女。心が癒されるのは優しい祖母の家にいるときだけ。その祖母の家にあったフランス人形を見て、「こんなふうに美しくなりたい」と憧れた。
高校進学を機に、ヴァニラはいじめから開放された。メイクに没頭するが、それもコンプレックスを強める結果になってしまった。
「メイクをすることで、ちょっとはマシになった私の顔。でも、ブスはがんばってもブスだった」
「高校を卒業したら、整形しよう!」
そこから「カスタム」人生が始まった。ヴァニラは美容整形のことを「カスタム」と呼ぶ。服や靴や家具を特注するように、顔をカスタムメイドする。
二重矯正の手術を皮切りに、次から次へとカスタムしていく。もともとEカップあった胸をHカップに。それも彼女にとっては満足いくものではなかった。目標はMカップだったが、それほどの豊胸は、皮膚が伸びきらず破れてしまう可能性があった。
「見れば見るほど人間らしいバストでしかなかった。生けるフランス人形の胸はこんな程度じゃない」
再度手術を行い、Jカップに。手術の際、ヴァニラはうわごとのように呟いていた。「先生、私、きれい? きれいなバストになってる……?」
2013年現在、ヴァニラの理想は満たされていない。技術には限界がある。それでも彼女は「いつか私にとっての『不可能』を一気に解決してくれる技術が出てくるかもしれない」と諦めていない。
『超整形美人』には、ちぐはぐに感じるエピソードがある。
吹奏楽部に入ってクラリネットを吹いたこと。中学校三年生でベースを手に入れ音楽活動に憧れたこと。中学校二年生のとき、三年生の野球部の先輩二人に告白されたこと。
どれも、「ブス」といじめられている最中の出来事らしくない。「ブスだからいじめられて、人生に絶望して、整形に目覚めた」という構図を強調したいのなら、このエピソードは掲載しない方がすっきりする。しかしこのちぐはぐさが、ヴァニラをよく表している。
ヴァニラは「内面に自信がある」と語る。自分の内面にきちんと魅力があることを読者にもわかってほしいから、好きなものがあったこと、いろんなことにチャレンジしたこと、恋だってできたこと(しかも相手から恋してもらい、選ぶ立場になれること)を語る。そこに彼女の強いプライドを感じる。
しかし、そのプライドは「ブス」の一言でかんたんに傷付く。外見を評価する無神経な言葉は、人の内面に大きな影響を与える。外見を低く評価されれば、他人と接するのに物怖じするようになったり、引け目を感じるようになることだってある。自己評価も低くなっていく。
ヴァニラは幼い頃から人見知りが激しく、初対面の人と話すのが苦手。一人で生きていくのが嫌で、男性に依存してしまう。ダメな人に対して「私が治してあげないと、この人の悪は治らない」と思いこみ、尽くしてしまう。現在は忙しくて恋愛している時間がないから、ペットのヘビとコウモリを可愛がっている。
ヴァニラの昔の写真を見て、「じゅうぶんかわいいじゃん、整形なんてしなくてもいいのにね」と言う人もいるだろう。けれど、そんな上から目線の言葉は慰めにならない。ヴァニラの持っているプライドは、外見とはアンバランスなものだった。これ以上傷つけられないためには、プライドを捨てるか、外見を変えるしかない。彼女はカスタムを選ぶ。
「私は、美しくなるために生まれてきた」
(青柳美帆子)