赤字拡大する一方のJR北海道 それでも「倒産」しないカラクリ
JR北海道が基準を超えた幅のレールを放置してきた問題で、2013年9月25日、新たに170か所で異常が放置されていたことが明らかになった。すでに97か所で異常が判明しており、合計で異常は267か所に膨らんだ。
異常が放置されていた原因について「作業を失念していたケースもある」とのにわかには信じがたい言葉も同社から飛び出した。
この信じられない体質の背景には、慢性的な赤字体質で人員が足らないことなどが指摘されているが、それでも今のところ「倒産リスク」は聞こえてこない。どんなカラクリになっているのか。
社長は「必要な人員を配置している」と人員不足を否定
JR北海道は、相次ぐ炎上事故を受け、9月4日に11月のダイヤ改正で札幌と主要都市を結ぶ特急や快速の最高速度を落とし、運行本数も減らすと発表したばかり。その矢先のトラブル発覚で、まさに満身創痍だ。
9月22日の記者会見で、トラブルの背景として人手や予算不足を指摘されたJR北海道の野島誠社長は、
「必要な人員を配置している」
「予算が足りないとの声も今のところ聞いていない」
と否定してみせた。だが、この発言を信用する人は多くないようで、9月24日の例えば「しんぶん赤旗」では
「1987年の分割民営化後の採用抑制が世代の断絶を招き、技術の伝承を阻害しています。そのためJR北海道の社員は40歳代の労働者が極端に少ない、いびつな世代構成になっています。分割民営化当時1万4000人いた社員は、現在7100人とほぼ半減。その一方で特急列車の運転数は民営化当初の約2倍になりました」
と民営化後の合理化を批判した。
いわば「人減らし」がトラブルの遠因だとの指摘だが、同社は新たな設備投資や人員増が難しい「手詰まり状態」なのも事実だ。
基金の運用益で本業の赤字を穴埋め
全長2500キロあるJR北海道の営業路線のうち、約半分の約1170キロが幹線ではないローカル線にあたる「地方交通線」。過疎にともなう慢性的な赤字体質に悩まされており、13年3月期の鉄道事業での売上高は777億円だったが、営業費用は1112億円。335億円の営業赤字を計上している。10年3月期の営業赤字が275億円、11年3月期が285億円、12年3月期が334億円と、赤字幅は拡大する一方だ。
もっとも、13年3月期の単体決算では9億8600万円の経常黒字を計上している。だが、これには大きなカラクリがある。1987年の民営化時、北海道、四国、九州の、いわゆる「三島(さんとう)会社」は大幅な赤字が見込まれたことから、政府はこの3社に「経営安定基金」(3社で1兆2700億円)を持たせて、運用益で赤字を埋めさせる仕掛けにしたためだ。実際、JR北海道の13年3月期の決算に計上された「経営安定基金資産」は7327億円で、その運用益は254億円にのぼる。約3.5%という異様な高利回りだ。
100%株主の独法に高利で貸し付ける
ここにも、さらにカラクリがある。独立行政法人の「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」が公表している「助成勘定」(12年4月1日〜25年3月31日)によると、JR北海道は同機構に、この経営安定基金の多くを貸し付けている。この公表資料から読み取れる限りでは、残高は12年4月1日時点で2415億円。平均利率は3.73%にのぼる。同機構が民間から借り入ている利率は1.38%〜1.5%なので、明らかな特別待遇だ。事実上の国庫負担だとも言える。また、同機構はJR北海道の株式を100%保有している。
JR北海道の13年度の事業計画を見ると、「鉄道輸送に関する計画」の「基本的方針」は、
「道内人口の減少や高速道路の延伸などにより都市間輸送は減少傾向にあるものの、お客様のご利用が好調な札幌都市圏を中心に利便性・快適性の向上の取り組むこととする」
とある。都市圏に経営資源を投入したい考えだが、札幌都市圏も人口の伸びはほぼ頭打ちで、成長を見込むのは難しい。
そうなると、航空業界と同様に視野に入ってくるのが不採算路線の廃止だ。例えば江差線木古内〜江差間(42.1キロ)は14年5月の廃止が決まっている。