『全国飲食チェーン 本店巡礼 ルーツをめぐる旅/BUBBLE-B』(2013年/大和書房)
誰から頼まれたわけでもないのに、全国48店舗を勝手にめぐった粋人の記録。ワタクシ、まったく他人のような気がしません!

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「キノコハンバーグと……ライスと……セットでドリンクバー!」

ファミレス好きですか? おれはね、そんなに好きじゃないの。いきなりこのレビューの主題を否定するようで申し訳ないけど、大資本が経営するチェーン店って、どの店に行っても同じだからつまんないんだよねー。

でも、そうじゃないんだってことが、この本を読んでわかった。『全国飲食チェーン 本店巡礼 ルーツをめぐる旅』。書いたのはBUBBLE-B(バブルビー)。変わった著者名ですね。それもそのはず、この方ミュージシャンなの。テクノというか、ナードコアというか、HIP-HOPというか、どういうジャンルとはひと言で表せない音楽活動を続ける一方で、外食チェーンの本店を訪ねて日本全国を旅している。その成果をまとめたのがこの本だ。

「本店」とは言っても、ここには3つの意味がある。まずは【1号店】。どんな巨大チェーンでも、最初は一軒の店からスタートしている。それが1号店だ。次に【本店】。これは1号店のことを本店と呼んでいる場合もあれば、経営戦略の都合で1号店でない店を本店としている場合もある。そして【ルーツ店】。創業者が最初に店を始めた場所のことで、チェーン展開後に名前が変わったり、店舗営業はしておらず博物館化している場合もある。

ともかく、これらを総称してこの本では「本店」と呼んでいる。BUBBLE-B氏がこうした本店の魅力に目覚めたのは、こってりスープでお馴染みのラーメンチェーン「天下一品」の京都・白川総本店に行ったのがきっかけだという。

ワタシも誤解していたように、普通、チェーン店の味なんてどこの支店も同じもんだと思われている。ところが、白川総本店で天下一品ラーメンを食べたBUBBLE-B氏は、スープに味の違いを感じ取り、身体に電流が走るほどの衝撃を受けたという。

「何かが違う! スープの味が違うではないか! それはなぜだ? しばらく毎晩寝る前に天下一品の総本店のことを考える日々が続いた。本店とは何なのか。そこにどういう想いがあるのか。他のチェーンも、本店だけは違うということなのか──」

ラーメンひとつで大袈裟な! と、思われるだろうか。

でも、これを大袈裟だと思わずに、素直な感動として受け止めたことで、BUBBLE-B氏は新しい遊びを発見した。旅のテーマを見つけ出した。自分だけの喜びは、どうでもいいことに感動するところから始まるのだ。

本書には、巡礼のきっかけとなった「天下一品」をはじめ、「吉野家」「マクドナルド」などのファーストフード、「ガスト」「ジョナサン」「びっくりドンキー」などのファミレス、さらに麺類、洋食・和食、焼き肉、回転寿司、中華、カフェといったチェーンが、北は札幌から南は長崎まで48店舗収録されている。いや〜、めぐったな〜。

それだけ足を運んだ熱意もすごいが、チェーン店、そしてその本店にかけるBUBBLE-B氏の愛情の深さは、本書の中でそれぞれの店に掲げられたキャッチコピーにも表れている。

築地の男に育てられた/牛丼界の首領(吉野家

渋谷とイタリアを箸渡し/食べた貴方の心を盗む(洋麺屋五右衛門

渋谷109まで鳴り響く/観客5人の歌謡ショー(名代富士そば

眠らない街の中華そば/スープに溶ける人間模様(日高屋

見事なリズムとライム。もはや見出しではなくリリックだ。いわゆるグルメライターではこうはいかない。いかにもミュージシャンらしい言葉の操り方で、本文中にも「サグい」「レペゼン」「コール&レスポンス」なんて用語がサラリと出てきて楽しい。この本を読んで、いままでとは全国チェーン店の見方が少し変わった──。

……ということで、やっとこの原稿を「サイゼリヤ神保町店」で書き上げた。自分にお疲れ様。このまま晩ごはん、というか少しだけ飲んじゃおうかな。

「生ハムのプロシュートに……赤ワインを……大きい方のデキャンタで!」

(とみさわ昭仁)