2013年4月の消費税率引き上げに伴う鉄道運賃の改定をめぐり、JR東日本が、現行の10円刻みの鉄道運賃をカード型IC乗車券「Suica(スイカ)」の場合は1円刻みにする計画を打ち出し、波紋が広がっている。

首都圏の私鉄や東京メトロの「PASMO(パスモ)」カードを運営するパスモ協議会も同様の検討を進めている。しかし、自動券売機は従来通り10円刻みのままになるため、事実上の「二重運賃」になり、利用者の理解を得られるか、疑問視する声も強い。

同一区間でも二種類の運賃

この構想は5月8日、JR東日本の冨田哲郎社長が定例記者会見で明らかにした。「増税分をきめ細かく運賃に転嫁し公平感を高める」(広報部)というのが目的だ。その後の一段の税率引き上げにも対応しやすくなるという狙いもある。国土交通省が運賃改定のガイドラインとなる「処理方針」で1円単位の値上げを認める方向とされ、理論的には実施可能になる見通しだ。

1989年に消費税が3%で導入された時と、1997年に5%に上がった時は、1円の位を四捨五入して10円単位にしたので、区間によって消費税分以上に値上がりになるところと、据え置かれるところが出た。

理由は券売機の能力。1円玉や5円玉を使えないから、10円単位の運賃しか対応できないのだ。券売機を1円単位で使えるようにするには莫大の費用が掛かって、不可能。

一方、スイカやパスモは現在も、運賃以外の買い物では1円単位で使われているので、運賃も簡単なシステムの手直しで1円単位の利用が可能。このため、スイカなどと券売機により、同一区間で二重運賃となりかねないのだ。

券売機とスイカで損得バラバラ

実際にどのような運賃になりそうか。日経新聞(6月17日)の試算(現行運賃に105分の108をかけた)によると、現行190円の東京―新宿、同―渋谷は、スイカでは195円、券売機では四捨五入して200円になる一方、現行160円の東京―品川間は、スイカが165円になる一方、券売機は切り捨てになって160円のまま、東京―横浜(現行450円)も、スイカ463円、」券売機は460円になるといった具合だ。

公共料金の二重料金は高速料金で、ETC搭載車と非搭載車で差をつけているが、こちらは基本的にETC優遇と分かりやすい。これに対し、今回の鉄道運賃はIC乗車券が必ずしも有利ではないという違いもあり、利害が一段と複雑といえる。

このためもあって、鉄道会社の対応は全国では分裂している。JR西日本の真鍋精志社長は5月22日の会見で、「これまで(消費税対応は)10円刻みでやってきた。今回も関西は従来のやり方になると思う」と述べ、二重運賃にはしない方針を明言。関西の大手私鉄も1円刻みの運賃には消極的だ。JR東海など他のJR各社も10円単位の方向が多く、JR九州は未定といったところ。首都圏のパスモ陣営でも、1円単位の方針を明言しているのはごく一部にとどまり、議論がまだ生煮えであることを示している。

運賃改定は鉄道各社が今秋に申請する見通しだが、運賃の違いを分かりやすく示すなど丁寧な説明が不可欠だが、それでも利用者の理解を得るのは簡単ではない。