ブルガリア戦からオーストラリア戦へ続くトレーニングで、ザックことアルベルト・ザッケローニ監督の表情が厳しい。オンとオフのメリハリを感じさせつつ、いつも以上の緊張感を漂わせている。
　
　イタリア人指揮官が発する空気は、チームの周辺を意識したものだ。「現時点でチームに対する期待や雰囲気として、すでにワールドカップ出場が決まったかのようなムードがあるかもしれないが、実際はそんなことはない」とザックは強調する。『インテンシティ』という言葉を持ち出したのも、緊張感を高めたいとの働きかけと理解できる。
　
　記者会見などで初めて持ち出した『インテンシティ』について、ザックは「オンでもオフでも活動的になるという意味。活動的な準備をするということ」と説明している。さらに具体化すると、ふたつのワードが浮上する。集中力と警戒心である。
　
　１対２で敗れた３月のヨルダン戦を振り返ると、技術や戦術ではない部分の甘さが浮かび上がる。アウェイの雰囲気は確かにゲームを難しくしたが、スタジアムのサイズは西が丘サッカー場ほどである。埼玉スタジアムへやってくるアウェイチームに比べれば、はるかにプレーしやすい。ヨーロッパを主戦場とする海外組はもちろん、国内組にしてもメンタルを揺さぶられるような環境ではなかった。
　
　だとすれば、敗因は何だったのか。
「インテンシティを出すためには、集中力と気迫が必要だ。日本の技術力はアジアでナンバー１だと自負しているが、インテンシティが欠けるといい方向には進まない」とザックは言う。ヨルダン戦を改めて分析すると、個人の集中力の欠如とチームとしての警戒心の希薄さに、彼は物足りなさを感じたのだろう。
　
　６月４日の対戦へ向けて、オーストラリアはすでに来日している。時差調整や気候への順応に不安のない状態で、埼玉スタジアムのピッチに立つ。「引き分けでも納得できる」と話す選手がいる一方で、ホルガー・オジェック監督は「もちろん観光に行くわけではない。勝点３を取りにいく」と意欲を隠さない。
　
　どちらのチームにとっても、疑いのない大一番だ。
　オーストラリアを上回るメンタリティを植えつけることは、来るべきコンフェデ杯での戦いぶりに直結する。攻守にわたって全員が集中力を研ぎ澄まし、様々なシチュエーションを想定しながら対処する──警戒心を鋭敏にする結果として、一歩先、二歩先を想定したプレーが連結していく。
　
「欧州のサッカーを見ても、いくら個の力が強くてもインテンシティが低いチームは結果を出せない」ともザックは話す。そして、イタリア人指揮官が求めるインテンシティには、チームを取り囲む我々も含まれている。日本はまだ、何も手にしていないのだ。