Ｊリーグのスタジアムには、できるだけ歩いて行くようにしている。3月2日のＮＡＣＫ５も3日の柏サッカー場も、9日の埼スタも10日の三ツ沢も、最寄り駅から歩いた。三ツ沢への行きだけは、時間に余裕がなかったのではバスを使ったが。

　理由はいくつかある。

　スタジアムへ車で行き、記者席で試合を観る。自宅を出てから帰宅するまで、関係者としか話していないのに気づく。

　最寄り駅から歩いたところで、こちらからサポーターに声をかけるわけではない。声をかけられることもない。ただ、スタジアム周りの空気に触れないのは、何となくもったいない気がするのだ。

　スタジアムへ向かう人の波に混じると、聞き耳を立てなくても会話がこぼれてくる。レプリカユニホームを見れば、どの選手の人気が高いのかが透けて見える。古いユニホームを着ている方もいる。「ＨＡＳＥＢＥ」とプリントされたレッズのユニホームは、クラブの歴史が感じさせてくれた。

「クラブって選手のものじゃないし、関係者のものでもない。色々な思いを持った人たちが、色々な形で関わっているもの。サポーターの人たちにとっては、クラブがあることが日常なんだよね」

　過日取材をした横浜ＦＣの山口素弘監督が、こんな話をしていたことを思いだす。横浜フリューゲルスについてのインタビューが進むうちに、かつての名ボランチにして現在は監督として評価を高める彼が、「日常」という二文字を持ち出したのだった。

「サポーターの方々は、今週はどんな試合になるのかなって考えながら過ごすわけでしょう。試合が終われば、今日の試合はこうだった、あの選手が良かったという話も当然出るだろうし。負けた試合のあとだったら、監督の采配が悪かったとかもね（笑）。そういう日常を送っている人たちがチームを支えてくれているのは、忘れちゃいけないと思うんだ」

　僕が歩いた４つのスタジアムへの道のりでは、幅広い年齢層のサポーターに出会った。子どもたちを、カップルを、自分と同じぐらいの中年男性を、白髪混じりの御夫婦を、見つけることができた。

　Ｊリーグの観客は高齢化していると聞くが、僕自身の肌触りはもっと幅広い。１９９３年の開幕から20年が経過して、サッカーがより多くの人の日常へ溶け込んでいるな、と実感する。

　実際に高齢化しているとしても、それはもう日本社会そのものである。避けようのないことだ。そうした方々に楽しんでもらえる仕掛けを考えていくことも、見落とすべきでないと思う。

　Ｊ１第３節もまた、最寄り駅から歩いていく。日頃の運動不足を少しでも解消するために。こちらの理由も実は大切なのだ。