シャワーを浴びて着替えた選手たちは、申し合わせたかのように同じような表情を浮かべていた。取材エリアの空気をひと言で表現すれば、「淡々と」といった感じだ。勝利した試合後に漂う高揚感や安堵感は、ほとんど感じられない。公式戦ではなくフレンドリーマッチだからというのが主な理由であり、自分たちのプレーに課題を残したからである。２月6日に行なわれたラトビア戦だ。

　この時期に来日してくる──と言うよりも、来日してくれる──ヨーロッパ勢は、日本と同等か格下に限られる。トップクラスとの顔合わせをのぞむのであれば、ロンドンでクロアチアと対戦した韓国のようなスケジュールを組まなければならない。

　ラトビアのスタルコフス監督は、「大半の選手がシーズン前の準備段階だった」と試合後に明かした。国内リーグは開幕前で、先発の４人はウインターブレイク中のロシアでプレーしている。さらに加えて、来日スケジュールは慌ただしい。地元メディアが大挙して帯同するわけでもないから、ゲームに注がれる熱量はいまひとつになる。

　日本の海外組は、ラトビアより上質な代表クラスと日常的にマッチアップしている。昨年10月の対戦したフランス、ブラジルとの肌触りも残る。３対０という結果が、満足感を運んでくるはずもない。

　神戸で行なわれたこの一戦は、３月のヨルダン戦へ向けたリスタートの第一歩である。強行日程のなかで海外組を招集したのも、トレーニングを含めて「代表のやり方を復習するため」とザッケローニ監督は話している。負ける相手ではないものの、内容を伴った快勝を期待するのはそもそも試合の位置づけにそぐわない。過去の国際試合を振り返っても、１、２月の試合はこれぐらいの出来になる。

　予想外だったのは、ザックの選手起用だ。継続性を重視する指揮官にしては珍しく、この日は変化に富んだ選手起用を見せた。

　最初の驚きは、岡崎の１トップだろう。岡崎、本田、香川、清武の４人がＦＷ登録で並ぶスタートリストは、本田の１トップを予想させるものだった。しかし、最前線を任されたのは岡崎なのである。

　初招集の大津も起用された。改めて控え選手の顔ぶれを確認すれば、彼が国際Aマッチデビューを飾ったのは必然に映る。ただ、ニューカマーの出場はグループに溶け込んでから、というこれまでの基本方針を覆す起用だったのも確かである。

　昨年のオマーン戦で左サイドバックを務めた酒井高が、内田に代わって右サイドバックでピッチに立った。シュツットガルト所属の21歳は左右両サイドでプレーできるが、右は内田と酒井宏で、左は長友と酒井高という認識が、固まりつつあったなかでの右サイドである。これもまた、小さな驚きをもたらした。

　もっとも、酒井宏は所属クラブでコンスタントに出場できずにいる。そうした状況を踏まえれば、酒井高を右サイドへまわす必要が生じるかもしれない。ヴォルフスブルクでの長谷部やＪ２で戦う遠藤の新シーズンを考えると、細貝もテストをしておきたい。

　昨年後半は前田と本田が担った１トップにしても、李忠成や森本の復調を待つばかりでいいのか。ハーフナーマイクが離脱した今回は新たなオプションを捜す好機で、だからこその岡崎だったのだろう。

　ラトビア戦で様々なテストが行なわれたのは、公式戦ではなくフレンドリーマッチだからであり、60分過ぎでセーフティリードの

　３点差となったことが大きい。ただ、「せっかく呼んだのに使わないなんて…」というストレスを与えなかったザックの選手起用は、これまでと違う”観戦後感“をもたらした。

　今回のラトビア戦がヨルダン戦にどのように結びつくかと言えば、オマーン戦後の空白期間を埋める程度の効果にとどまる。だが、悲観すべき要素はひとつもない。香川に90分プレーさせたのも、彼自身の今後につながるだろう。「快勝」とか「手ごたえあり」といった表現を使うことに抵抗はあるものの、国内のフレンドリーマッチとしては申し分のない一戦である。