タイで開催中のフットサルW杯に出場している日本代表が、グループステージ突破を果たした。４度目の挑戦で初の快挙となった。

　グループ３位での16強進出だが、日本のグループは組み合わせが厳しい。３連敗で大会を終えたリビアにしても、アフリカ王者である。間違いなく”死のグループ“だった。

　そのなかで勝点４を獲得したのである。4年前は1対12で負けたブラジルには、1対４と食い下がった。ポルトガルには５対５で引き分けた。パワープレーを生かして猛追した。そして、リビアを４対２で退けた。

「ものすごく価値があることだと思う」とカズが話すのも納得できるし、「歴史を一歩前へ進めることができた」という小宮山のコメントも頷ける。

　２００８年の北京五輪で過去最高の４強入り（当時）を果たしたなでしこジャパンも、グループステージは3位で通過している。歴史に残るのは、人々の記憶にとどまるのは結果であり、結果があとに続く者に勇気を与え、責任感をもたらす。2位か３位かといった順位に関係なく、ここまでの戦いぶりには胸を張っていい。

　カズはチームに貢献できているのか。
　W杯開幕前から付きまとっていた疑問に、明確な答えが出ている。史上初のグループステージ突破に、彼は間違いなく貢献した。

　日本が試合をした会場は、どこもホームのような雰囲気が作り上げられた。バンコクから２４０キロあるナコーンラーチャシーマーのアリーナにも、数多くの日本人が駆け付けた。フル代表のゲームでもおなじみと言っていい光景で、日本のサポーターのバイタリティと情熱には、素直に頭が下がる。

　日本を応援する観戦者のなかに、古い代表ユニフォームを着た人を見かけた。90年代前半から２０００年あたりのデザインで、背番号は11、その上に「ＫＡＺＵ」とプリントされた一枚を着ている人が多い。

　カズがコートに立つと、ひと際大きな声援が上がる。空調がキツくて肌寒いアリーナの温度が、瞬間的に上がるような錯覚を抱く。スタンドが放射する熱は、日本のマイボールに沸き立つ。ＧＫのビッグセーブに盛り上がる。

　カズがいなくても、ホームさながらの雰囲気は生まれていたか。ここまで大きなうねりにはならなかった、と僕は思う。カズ効果ははかりしれない。代表入りに様々な意見があったとしても、衰え知らずの吸引力が観衆を集め、チームを後押ししたのは間違いない。

　プレーヤーとしてはどうか。
「細かいところはなかなかね、やっぱり複雑で難しい。セットプレーはちょっと、頭に入りきらないですね。あまりにも多過ぎて」とカズ自身が話しているように、戦略的要素が強まると存在感は薄れる。リビア戦の後半にも、ＦＫを獲得した途端に交代した。

　ただ、練習でも試合でも、カズの声は絶えず響いている。練習の合間に手を叩くのも、最初に声を上げるのも、チーム最年長のこの男である。

　タイムアウトで円陣を組むときも、カズは近くにいる選手の肩を抱く。ピッチから戻ってきた選手を、ハイタッチで迎える。それで何が変わるのかと言われれば、答えを用意するのは難しい。たた、カズと触れ合う選手たちの表情には、いつも落ち着きが浮かぶのだ。

「食事会場やバスの中での雰囲気作りなんかも、ミゲル監督は良く見てくれている。僕が笑顔になるだけで、みんなの緊張が解けてほっとする、と言ってくれるんだ。僕は無意識のうちにやっているんだけど、ミゲルは予想以上にチームが助かっていると。まあ、僕を盛り上げるために、そういう話をしてくれてるんだろうけどね」
　
　リビアに勝利した試合後、カズはこんな話をしている。グループの一員としてできることを力まず、それでいて丹念に進めていくのが、カズという選手である。彼だからできること、彼にしかできないことを、カズは自然体でこなしている。ミゲル・ロドリゴ監督率いるチームに欠かせないピースとして、背番号11は存在しているのだ。