■9試合で6失点 固い守備が好調の要因

第15節を終えて、5勝2分2敗で3位につけている鳥栖。近年では見ることができなかった開幕ダッシュを見せている。

リーグ開幕前の評価は決して高いとは言えず、担当している筆者でさえ開幕戦からの対戦カードを見たときに、下位になっているかもしれない・・・と不安を隠しきれなかった。そんな中でも、尹晶煥監督は「どこが相手でも怖くない」と言っていたのは、嘘ではなかった。

軒並み、“昇格候補”といわれているチームが苦戦している状況も背景にはあるだろう。しかし、鳥栖が上位に位置している理由はそれだけではない。

今季の鳥栖は、『失点が少ない』のである。
近年の鳥栖を表現すると、『点は取るけど、失点もする』試合を行うこともあれば、『失点はしなかったが、得点もあげることができなかった』試合も多かった。大量得点で勝つかと思えば、複数失点で敗れることもあり、いわゆる得失点差がプラスマイナス0に近い状況だったのである。

上位に位置するチームは、得失点差が大きくプラスになる事が多い。今季の鳥栖は、まさに得失点差で大きくプラスになっているから、開幕ダッシュと言われる戦績を残しているともいえる。

■失点が少ない要因と、特徴的なプレー

第15節を終えて失点は6。その内訳は、9試合中無失点試合が3試合、1失点の試合が6試合と複数失点の試合がない。言い換えると2得点以上をあげれば、勝てることになる。事実、複数得点をあげた4試合は全て勝利している。
今季の鳥栖は、ここまでは「しっかりとした守備から入り、チャンスにしっかりと決める」(尹晶煥監督)サッカーができているのである。これが、5勝2分2敗で3位につけている要因なのである。

その要因を構成している要素も今季の鳥栖では色々とあげることができる。
開幕戦となったFC東京戦の前半に見せた『前線からの早いプレス』は、いまや鳥栖の代名詞となりつつある。
ボールを奪うためだけでなく、相手の自由を奪うことができているので、主導権を長くは握らせてはいない。高い位置でボールを奪えば、それだけ相手のゴールに近いから得点のチャンスは生まれやすい。その象徴的なシーンは、第9節東京Vの86分に生まれた豊田陽平のゴールではないだろうか。

残り時間も少なく、2−1とリードしていた中での東京Vのスローインである。位置は東京Vサイドの奥深いところである。状況を考えると無理してボールを奪いに行かなくても良い状況だった。
それでも、豊田はインプレーとなった直後に猛然とボールを追った。GK位置まで流れたボールに果敢に突っ込んで行き、右足でゴールを奪ったのである。このゴールで東京Vの戦意を喪失させ、鳥栖の勝利を決定つけることができた。

■ポジションにとらわれない柔軟なシステム

『前線からの早いプレス』に続いて、『変幻自在のシステム変更』も今季の鳥栖の大きな特徴である。
鳥栖の基本システムは4−4−2である。しかし、この4枚のDF以外のポジションは、誰がどこに入ってもOKなのである。

“勝手に動いてよい”のではない。“バランスを見ながら、チャンスには誰かが行く”のである。
第14節の水戸戦の55分。呂成海からの長いロビングボールに抜け出したのは池田圭だった。ワンタッチでコースを変えたシュートはポストに弾かれてゴール正面にこぼれた。そこに詰めていたのが右サイドの早坂良太だった。素早く反応し、落ち着いて右足で押し込んで2点目を奪った。

DFからの長いパスに対して、FWだけでなくサイドからでも詰める意識を、早坂だけでなくピッチ上の選手は誰でも持っているから鳥栖の攻撃は分厚い。ポジションにとらわれずに、連動して動くことで好守にバランスが取れている。