長友と内田がチャンピオンズリーグの舞台で見せた収穫と課題
[写真]=足立雅史
観客のいないスタジアムに、肉体の軋む音が響いた。
ダブルボックスよりひと回りほど大きなサイズで、6対6のツータッチゲームが繰り広げられている。内田と長友の激しさは目を引いた。彼らのぶつかり合いは取材陣を沸かせた。
南アフリカ・ワールドカップ後にヨーロッパへ渡ったふたりが、初めて帰国した昨年9月のことである。二日後のパラグアイ戦に向けたトレーニングが、三ツ沢球技場で公開された。
練習後に足を止めた内田は、サラリとした口調で話す。「1対1でガツガツいっていたのでは」という問い掛けに答えたものだ。
変化の兆しはあったと思う。ただ、シャルケへの移籍から2カ月ほどで、そこまでプレーが劇的に変わるわけではない。マスコミは分かりやすさを求めがちだが、それにしても少し急ぎ過ぎている気がした。
ディフェンス面での逞しさは、もちろん身につけてほしいと思う。ただ、その代償としてシャルケが彼を獲得した理由を、つまり自分の強みを封印してしまったら、収支はプラスにならない。内田の魅力が攻撃力にあるのは間違いないのだ。
日本人対決が注目を集めたチャンピオンズリーグ準々決勝では、2試合を通じてエトーとマッチアップする時間帯が長かった。スピーディーでパワフルなカメルーン代表が目の前にいる以上、敵陣への飛び出しはある程度制限されてしまう。
それでも、ホーム、アウェイを通じて攻撃に参加する姿勢を見せつけた。チャンピオンズリーグの準々決勝という大舞台で、いつもと変わらぬ自分を表現したことは、改めて評価されるべきだろう。
特徴が際立ったのは、第1戦の4点目だろう。センターバックのマティプから自陣でパスを受けた内田は、ワントラップ後の2タッチ目でラウールへクサビを打ち込んだ。ラウールがダイレクトで落とすと、サポートしたフラドが右サイドを一気に抜け出す。グラウンダーのクロスは、相手CBのオウンゴールへ結びついたのだった。
内田がファーストタッチでボールを収められずにいたら、ラウールの動き出しとパスのタイミングはズレていたかもしれない。時間にすればほんのわずかだが、そのわずかが相手DFに攻撃の芽を摘み取る余裕を与えてしまうのだ。
スムーズに攻撃へ持ち込める彼の長所は、先週末のブンデスリーガでもしっかりと発揮されていた。4月15日のブレーメン戦で決めたアシストは、ファーストタッチで勝負ありだった。トラップからクロスまでの流れに無駄がないから、エドゥは勢いを持ってゴール前へ飛び込んでいくことができたのだ。
長友佑都はどうだろう。
内田と同サイドでマッチアップしたチャンピオンズリーグ準々決勝第2戦では、同大会初先発でフル出場を果たした。ホームで2−5の大敗を喫していたことを踏まえれば、右サイドバックのマイコンとともに積極的な攻撃参加が求められた。
しかし、1トップのミリートが相手センターバックとのマッチアップで劣勢を強いられ、前線でボールが落ち着かない。これでは、サイドバックが飛び出すのは難しい。マイコンとのバランスを考える必要もある。
チグハグな攻撃も、長友の攻撃性を削いだ。同サイドのエトーやトップ下のスナイデルが、せっかく走り込んだ彼を使わないのだ。長友のパス受け回数はマイコンの3分の2弱にとどまるが、フリーランニングの本数では明らかに上回る。長友が使われたことで得点の可能性が拡がるシーンもあっただけに、インテルの攻撃は客観的に見ても非効率だった。
続くセリエAでも、長友は先発フル出場した。前半は右サイドで起用され、後半は左サイドへまわるが、チームは0−2でパルマに敗れてしまう。
負のサイクルに陥っているチームで、サイドバックが活躍するのは難しい。1月のアジアカップまでは、チェゼーナに所属していたことも忘れてはいけない。あえて注文をつけるなら、アタッキングサードではもっともっと貪欲にプレーしてほしい、ということか。
個人的にもリズムをつかみにくいゲームが続いている。先制点は与えたくない。そのためにもミスは避けたい。現在のチーム状況はそうした心理を誘いがちだが、だからこそ積極性を押し出していってほしいと思う。苦しい時間帯でもチームに貢献できる強みを、いまこそ発揮してほしいのである。
【関連記事・リンク】
五輪アジア2次予選の組み合わせが決定。継続的な強化にはアジアでの敗北は許されない
U−22日本代表、永井の決勝ゴールでウズベキスタンにリベンジ果たす
ウズベキスタンに勝利も宇佐美貴史は「自分の力を十分に発揮できなかった」
ウズベキスタンに勝利の関塚監督「良い知らせを日本に届けられる」
日本サッカーの方向性が映し出されたJ開幕戦のゴール傾向
【戸塚啓 @kei166】1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の 国際Aマッチは91年から取材し、2000年3月から189試合連続で取材中。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。著書には 『マリーシア(駆け引き)が日本のサッカーを強くする(光文社新書)』、『世界に一つだけの日本サッカー──日本サッカー改造論』(出版芸術社)、『新・ サッカー戦術論』(成美堂出版)、『覚醒せよ、日本人ストライカーたち』(朝日新聞出版)などがある。昨年12月に最新著書『世界基準サッカーの戦術と技術』(新星出版社)が発売。