脱ヒルズ IT起業家に第3の波
「投資して欲しいという話はたくさん来るんですけれど、基本は軸をぶらさずに『ものづくり』という路線をまっすぐ進もうと考えている」。
茶髪にタイトなスーツを身にまとったドリコムの内藤裕紀社長(28)は、東京・大手町で100人近くの機関投資家を前に自社の方針についてこう淡々と語った。法人向けブログ事業を手掛ける同社は創業からわずか4年、ライブドア事件直後の2月に東証マザーズに上場。ネット関連株が軒並み暴落する中、買い注文が殺到し、上場から3営業日目にようやく初値を付けた。
内藤社長やミクシィの笠原健治社長ら1976年前後に生まれた「ナナロク世代」と呼ばれる起業家は、ユーザー目線のサービスや技術を追求する姿勢を特徴とし、ビジネス界に新風を吹き込んでいる。急成長を続け、今夏には創業地の京都から東京・恵比寿への本社移転を果たした内藤社長に、ポスト「ヒルズ族」のベンチャー社長像を探ってみた。
◆ ◆ ◆
── 創業4年、20代で東証マザーズに上場。公開価格の3.6倍という超割高の初値がついた。
社内の雰囲気は上場前も後も何も変わらない。マラソンで言うと、給水地点を通過したようなもの。他のIT会社が上場したときの状況も知っていたので、初値は「水もの」だと思った。適正な価格に早く落ち着いてほしいと願っていた。
── なぜ上場したか。
もともとは、ある程度の数字を達成すれば上場はいつでもできると思っていた。だけど、タイミングを逸して上場が出来ないと、今後の事業の進展の足かせになるということを社長仲間から教えられた。上場のタイミングは業績の状況や成長からみてもベストだと思っていた。
── 上場して変わったことは。
毎日取材攻勢で、必要以上に祭り上げられていたような。ライブドア事件直後だったこともあり、ボクが学生起業家で京大中退して、27歳で上場したってことで堀江貴文さんと並べて報道されることが多かった。
結果として会社の知名度は上がったし、年配の方からも、こんな茶髪だけどちゃんと経営をやっている人間として見られるようになった。営業に出てばかりだったが、来られる側になったのも上場してから。「上場企業だからお金を持っているだろう」と思われているからなのか。
「株主は会社のファン」
── ベンチャーは財務面が弱いという見方もある。企業会計の信頼性も求められているが。
もともと万全ではなかったが、上場会社で経験のある財務チームがそのままウチに加わってくれた。自分自身の財務的な知識については会計士などプロには劣るけど、周りから勉強してかなり詳しくなったとは思う。
── 株主はどんな存在だと認識しているか。
株主は会社のファン。誰でも株主にしてしまったら、説明しても理解してくれない人や、そもそもウチの方針と合わない人も入ってきてしまう。ライブドアのように分割、分割で間口を広げていくのとは、考え方が違う。
「ヤフーみたいな会社」と思って買われると困るので、小規模の説明会を何度も開催して弊社の事業を伝える努力をしている。これだけ株価の変動率が高くても、機関投資家は計画通りだと理解をしてくれている。
── どんな会社にしていきたいか。
ネット企業ってサービス業というイメージが強いが、メーカーに近づきたいと思う。株主には、いい商品が出すのを支えられて「うれしい」という気持ちを共有してもらいたい。
── 金融には興味ない?
儲かることが最優先ではないし、基本的に「ものづくり」会社なので、純投資はしないと決めている。
時価総額よりものづくり重視
── 「ミクシィ」など個人向けサービスが脚光を浴びる中で、なぜあえて法人向けの事業展開をしたのか。
個人向けはユーザーが集まればビジネスは大きくなるけど、弱小会社のウチが1番になれる可能性は低いと思った。米国のゴールドラッシュ時代に例えれば、スコップで掘っていても大きな機械を持っている者には勝てない。
それならば、金を掘らずに、開拓者にジーンズを売ったリーバイスがビジネスとして最も成功したように、ブログそのものではなく、それを使いたい企業にOEMするようなシステムを作ろうと思った。
── 「ネット第3世代」「ナナロク世代」と注目されている。孫=ソフトバンクの第1世代、三木谷=楽天の第2世代との違いは。
上の世代は上場企業が多いし、規模やシェアを重視していた。ネットバブルを知らない点と、基本的に技術重視で一点突破型のものづくり企業が多い点が違いかな。競合企業に対しても業績や時価総額よりも、「何を作っているか」に興味が向く。
── 若手起業家は経済界の“大御所”と対立するイメージもあるが、圧力を感じるか。
むしろ、上場してから先輩の経営者と会う機会は多くなった。最近ではオリックスの宮内義彦会長とか、松井証券の松井道夫社長とかとお会いした。日本の今後を見据える立場として、ビジネスというよりも道徳的な面で若手をきちんと育てようとする思いがすごく伝わってくる。
「社長が目立って得はない」
── この数年で、世の中のカネに対する感覚はどう変わったのか。
必要以上に格差を感じさせた1、2年じゃないのかな、金持ちは今も昔もいるのに。一方で、普通の人が急に簡単に大金持ちになれるような「飛び級階段」があるような幻想を持っている人も多いなと感じる。
── 会社も大きくなったし、上場で創業者利益も得た。暮らしぶりは変わったか。
儲かるとクルマ、馬、時計とかにお金を使う経営者がいるけど、特に興味ない。(最近、自宅を引っ越したが)「ヒルズ族がまた増えた」とか言われるので六本木ヒルズは避けた(笑)。
社長が目立つことで会社が得することはあまりない。見かけが軽そうだからか、バラエティ番組に出てくれという依頼もたくさん来るけど、ビジネス誌や経済関連のものに限っている。
── 「カネで買えないものはない」と豪語した若手社長もいた。
ある程度の満足はお金で買えるんだと思う。おいしい物食べるとか、いいクルマ乗るとか。ただ、満たされた後どうするかだ。ビル・ゲイツ氏が社会貢献をするように、お金だけでは得られない何かをするのが豊かさじゃないのかな。
たった4年前までは家賃8万円の借家に3人で住んで、ユニクロの洋服を買えるのがぜいたくと思っていた(笑)。カネで何を手に入れたかより、今でも仕事して徹夜しちゃったとか言っている方が楽しい。がむしゃらになれる何かがあれば、そういう生活でも満足できる。
◆ないとう・ゆうき 1979年東京都生まれ。2001年京都大学経済学部在学中にドリコム設立、05年同大中退。06年2月9日にマザーズに上場。主力の法人向け社内ブログは200社以上で導入、個人向けブログの会員数は21万人を誇る。07年3月通期の業績予想は売上高15億円(前期の2.1 倍)、経常利益4億円(同78%増)。
【了】
■徹底総括 マネー不信をこえて
第1回 作家・田中康夫さん 「小泉後」のニッポン考現学(12月27日)
第3回 さわかみ投信・澤上篤人社長 “宴のあと”の投資ファンド原論(12月29日)
第4回 三井法律事務所・熊谷真喜弁護士 「会社の品格」 存在感増す指南役(12月30日)
最終回 ライブドア・平松庚三社長 ライブドア再建 社長が聞く除夜の鐘(12月31日)
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ポスト116 若き起業家の第二幕(全2回)
■関連リンク
ドリコム
内藤裕紀のBlog 「Number7110」
茶髪にタイトなスーツを身にまとったドリコムの内藤裕紀社長(28)は、東京・大手町で100人近くの機関投資家を前に自社の方針についてこう淡々と語った。法人向けブログ事業を手掛ける同社は創業からわずか4年、ライブドア事件直後の2月に東証マザーズに上場。ネット関連株が軒並み暴落する中、買い注文が殺到し、上場から3営業日目にようやく初値を付けた。
◆ ◆ ◆
── 創業4年、20代で東証マザーズに上場。公開価格の3.6倍という超割高の初値がついた。
社内の雰囲気は上場前も後も何も変わらない。マラソンで言うと、給水地点を通過したようなもの。他のIT会社が上場したときの状況も知っていたので、初値は「水もの」だと思った。適正な価格に早く落ち着いてほしいと願っていた。
── なぜ上場したか。
もともとは、ある程度の数字を達成すれば上場はいつでもできると思っていた。だけど、タイミングを逸して上場が出来ないと、今後の事業の進展の足かせになるということを社長仲間から教えられた。上場のタイミングは業績の状況や成長からみてもベストだと思っていた。
── 上場して変わったことは。
毎日取材攻勢で、必要以上に祭り上げられていたような。ライブドア事件直後だったこともあり、ボクが学生起業家で京大中退して、27歳で上場したってことで堀江貴文さんと並べて報道されることが多かった。
結果として会社の知名度は上がったし、年配の方からも、こんな茶髪だけどちゃんと経営をやっている人間として見られるようになった。営業に出てばかりだったが、来られる側になったのも上場してから。「上場企業だからお金を持っているだろう」と思われているからなのか。
「株主は会社のファン」
── ベンチャーは財務面が弱いという見方もある。企業会計の信頼性も求められているが。
もともと万全ではなかったが、上場会社で経験のある財務チームがそのままウチに加わってくれた。自分自身の財務的な知識については会計士などプロには劣るけど、周りから勉強してかなり詳しくなったとは思う。
── 株主はどんな存在だと認識しているか。
株主は会社のファン。誰でも株主にしてしまったら、説明しても理解してくれない人や、そもそもウチの方針と合わない人も入ってきてしまう。ライブドアのように分割、分割で間口を広げていくのとは、考え方が違う。
「ヤフーみたいな会社」と思って買われると困るので、小規模の説明会を何度も開催して弊社の事業を伝える努力をしている。これだけ株価の変動率が高くても、機関投資家は計画通りだと理解をしてくれている。
── どんな会社にしていきたいか。
ネット企業ってサービス業というイメージが強いが、メーカーに近づきたいと思う。株主には、いい商品が出すのを支えられて「うれしい」という気持ちを共有してもらいたい。
── 金融には興味ない?
儲かることが最優先ではないし、基本的に「ものづくり」会社なので、純投資はしないと決めている。
時価総額よりものづくり重視
── 「ミクシィ」など個人向けサービスが脚光を浴びる中で、なぜあえて法人向けの事業展開をしたのか。
個人向けはユーザーが集まればビジネスは大きくなるけど、弱小会社のウチが1番になれる可能性は低いと思った。米国のゴールドラッシュ時代に例えれば、スコップで掘っていても大きな機械を持っている者には勝てない。
それならば、金を掘らずに、開拓者にジーンズを売ったリーバイスがビジネスとして最も成功したように、ブログそのものではなく、それを使いたい企業にOEMするようなシステムを作ろうと思った。
── 「ネット第3世代」「ナナロク世代」と注目されている。孫=ソフトバンクの第1世代、三木谷=楽天の第2世代との違いは。
上の世代は上場企業が多いし、規模やシェアを重視していた。ネットバブルを知らない点と、基本的に技術重視で一点突破型のものづくり企業が多い点が違いかな。競合企業に対しても業績や時価総額よりも、「何を作っているか」に興味が向く。
── 若手起業家は経済界の“大御所”と対立するイメージもあるが、圧力を感じるか。
むしろ、上場してから先輩の経営者と会う機会は多くなった。最近ではオリックスの宮内義彦会長とか、松井証券の松井道夫社長とかとお会いした。日本の今後を見据える立場として、ビジネスというよりも道徳的な面で若手をきちんと育てようとする思いがすごく伝わってくる。
「社長が目立って得はない」
── この数年で、世の中のカネに対する感覚はどう変わったのか。
必要以上に格差を感じさせた1、2年じゃないのかな、金持ちは今も昔もいるのに。一方で、普通の人が急に簡単に大金持ちになれるような「飛び級階段」があるような幻想を持っている人も多いなと感じる。
── 会社も大きくなったし、上場で創業者利益も得た。暮らしぶりは変わったか。
儲かるとクルマ、馬、時計とかにお金を使う経営者がいるけど、特に興味ない。(最近、自宅を引っ越したが)「ヒルズ族がまた増えた」とか言われるので六本木ヒルズは避けた(笑)。
社長が目立つことで会社が得することはあまりない。見かけが軽そうだからか、バラエティ番組に出てくれという依頼もたくさん来るけど、ビジネス誌や経済関連のものに限っている。
── 「カネで買えないものはない」と豪語した若手社長もいた。
ある程度の満足はお金で買えるんだと思う。おいしい物食べるとか、いいクルマ乗るとか。ただ、満たされた後どうするかだ。ビル・ゲイツ氏が社会貢献をするように、お金だけでは得られない何かをするのが豊かさじゃないのかな。
たった4年前までは家賃8万円の借家に3人で住んで、ユニクロの洋服を買えるのがぜいたくと思っていた(笑)。カネで何を手に入れたかより、今でも仕事して徹夜しちゃったとか言っている方が楽しい。がむしゃらになれる何かがあれば、そういう生活でも満足できる。
◆ないとう・ゆうき 1979年東京都生まれ。2001年京都大学経済学部在学中にドリコム設立、05年同大中退。06年2月9日にマザーズに上場。主力の法人向け社内ブログは200社以上で導入、個人向けブログの会員数は21万人を誇る。07年3月通期の業績予想は売上高15億円(前期の2.1 倍)、経常利益4億円(同78%増)。
【了】
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