追い上げる斎藤側を猛批判「謎の立憲新人議員」はダイヤモンド社社員と二刀流…「前知事は自己保身に走った」指摘にN党立花が激怒
11月17日投開票の兵庫県知事選がアツい。県議会による不信任決議で斎藤元彦知事が失職したことに伴うこの選挙では、前職の斎藤氏のほか、前参院議員の清水貴之氏、元尼崎市長の稲村和美氏、医師の大沢芳清氏、レコード会社社長の福本繁幸氏、政治団体代表の立花孝志氏、ニュース分析会社社長の木島洋嗣氏が立候補している。当初は大バッシングの中失職した斎藤氏にとって不利な選挙になるとみられていたが、情勢調査によれば斎藤氏が稲村氏を追う展開となっている。参戦した立花氏も斎藤氏の擁護をしており、自分への投票ではなく斎藤氏への投票を県民に訴えている。作家で元経済誌プレジデント編集長の小倉健一氏が解説するーー。
わずかにリード元尼崎市長稲村和美氏を追う斎藤氏
11月17日投開票の斎藤元彦前知事の失職に伴う兵庫県知事選挙がとんでもない展開になっている。
共同通信社の情勢調査(11月8、9日)では、<無所属新人の元尼崎市長稲村和美氏がわずかにリードし、再選を目指す斎藤氏が激しく追う展開となっている>という。
読売新聞の調査(11月7~9日)においては<新人で前同県尼崎市長の稲村和美氏がややリードし、前知事の斎藤元彦氏が追う展開となっている>という。
はじまりは異様なまでの斎藤前知事バッシングであった。まったく証拠がないにも関わらず、一方的なアンケートで、斎藤前知事のパワハラ疑惑は「疑惑」のまま、大手メディアで繰り返し報道されることになった。筆者は東京にいて、在阪メディアの報道を逐一知ることはないが、関西在住の人が聞いても、ワイドショーなどを通して、連日連夜の大バッシングがあったという。
悪いヤツなんだか悪いことをしたに決まっている。それだけの思い込みで、追い詰められる政治家というのは因果な商売だとは思うが、政治家としては斎藤前知事は「情報戦」に負けていたということだ。本件、何一つパワハラの証拠でてこず、唯一出てきたのが「強い思いを抱いて付箋を投げた」ことだけだった。「エレベーターに乗り損ねて県職員を怒鳴りつけた」「自身が出席するイベントにマスコミが来ていないと怒る」などというが、これほどのスマホ時代に、パワハラを続ける知事に対して周囲が録音を一度していないなどにわかに信じられない。もちろん違法行為も見当たらない。
現時点で「クロ」という認定をするにはまだ早い
それでも明確に悪いことを指摘しないと、批判することができないので、斎藤前知事バッシング派がワラをも掴む思いでたどり着いたのが「公益通報制度」だ。
パワハラ疑惑などを文書で告発した職員の行為が、勤務先での不正を告発する正当な「公益通報」に当たるかどうかということなのだが、法律の専門家の間でも意見は分かれていて、やはり現時点で「クロ」という認定をするにはまだ早い。
NHK党党首の立花孝志氏は、今回、斎藤前知事の擁護活動を行っているが、その中で、斎藤前知事の対立候補者を支援する立憲民主党議員とのこんなやりとり(11月6日)が、X上であった。
岡田悟衆議院議員(立民)
<斎藤前知事が告発者の人権を蹂躙してひたすら自己保身に走った挙げ句の出直し立候補。百条委員会で告発者のプライバシー情報の提出を執拗に求めた維新の増山誠県議@masuyama_makotoのような人物にエクストリーム擁護されながらの決断であることを有権者のみなさんにはどうか忘れないでいただきたい>
県知事選挙で争点とすべきものでもありません
この投稿に対し、立花党首はこう呼びかけている。
<岡田先生!/あなたが指摘している告発者【自●者】は、名誉毀損という犯罪をした!/だから当時の斎藤元彦知事は、それを調査した!/そしたら、告発者が使っていた公用パソコンやUSBから、複数の不倫関係にある兵庫県女性職員の氏名が出て来た!/告発者は、強力な人事権を持っていた、だから、単純な不倫ではなく、不同意性交等罪の可能性が強く疑われている!/しかし、岡田先生が在籍されていた毎日新聞をはじめ、大手マスコミが、百条委員会の奥谷委員長と結託して、告発者の公用パソコンの中身を隠している。/兵庫県の有権者は、告発者の公用パソコンの中身を知ってから、知事選挙の投票先を決めるべきだと思いますが、岡田先生の見解をお聞かせ願いたいです!>
すると、岡田議員は<立花さん、こんにちは。/公益通報は、犯罪では断じてありません。また、告発者の公有PCの利用の仕方に問題があったとしても、それは公益通報の内容の真偽や是非とは全く別の問題として対処すべきものであり、みだりに公開すべきでも、県知事選挙で争点とすべきものでもありません>と返信をしている。
県民が知りたいのは「斎藤元知事が本当に悪者か否か」
この立民議員の主張には違和感がある。ありとあらゆるものを机の上に出して議論をするのが民主主義である。県知事選の争点として俎上に載せるべきものだろう。斎藤元知事に対して批判的な立場をとる議員や識者たちが、立花氏の過去の罪状やお行儀の悪さを責め続けているが(筆者も、立花氏の行動についてどうかと思うことは多々あるが)、兵庫県知事選挙において県民が知りたいのは、立花氏の話ではなく、斎藤元知事が本当に悪者か否かなのである。きちんとした証拠もなく印象でバッシングしていたのかどうかが、重大な関心事項であろう。上記の岡田議員の投稿に対して立花氏はこう返信している。
立花党首
<もちろん公益通報は、犯罪ではありません。/しかし、今回の3月12日付で作成された文章を、お亡くなりになられた元県民局長がマスメディアと県議と警察の10か所に、ばら撒いた行為は、公益通報の要件を満たしていないので、名誉毀損罪という犯罪に該当します。/元県民局長も、それを納得したから、3か月の停職処分を、不服申し立てをせず受け入れたのです。/しかし、法律を正しく理解できない人たちが、元県民局長の意に反して、あの文章は公益通報に該当すると言って、元県民局長が嫌がる百条委員会に出席させようとしたから、自ら命を絶った可能性が極めて高いのです>
立花氏の主張が正しいかは別にして、やはり元局長の行動については兵庫県知事選挙の重大な争点であり、論点を隠してしまうのは民主主義の在り方が問われよう。そもそも、こんなクロという証拠もない状態で、知事に不信任案をぶつけ、全会一致で可決、選挙にしてしまったのは県議会である。選挙の結果がどうあれ、すべての県議会議員こそ、この責任を問われるべきだ。
会社から給料をもらいながら議員を続けているという稀有な存在
余談ではあるが、この岡田議員の過去発言などを調べていたら、会社を休職しながら議員を続けているという稀有な存在であることがわかった。現代ビジネスに掲載された岡田氏についての記事(11月30日)には、こう書いてある。
<岡田氏は今後1年、勤務先のダイヤモンド社を「休職」して選挙戦に臨むという。だが、実は彼は、立憲民主党の公募に応募した時点で、完全に退路を断ち、すなわち、会社を退職した上で、それに臨む覚悟でいたという>
<岡田さんは最終的に、会社を1年『休職』して選挙に出るという形にはなりましたが、これは事後的にそうなっただけのことで、ご本人は公募に応じられた時点で既に、『会社を辞めることになっても出る』という決断をされていました>
退路を断つ覚悟でいたが、退路は断たないと決断
退路を断つ覚悟でいたが、断たない決断をしたらしい。今回の衆院選で比例賦活当選を果たしたが、ダイヤモンド社によると岡田氏は休職扱いで、まだ退路は断たずに議員を続けている。ダイヤモンド社は私の古巣プレジデント社の長年のライバルであるが、プレジデント社にはこうした規定はなかった。
こうした社内規定は、非常に面白いと思うし、社員が議員になれば、事業にとってもプラスになることもあるだろうから、一般企業も規定に取り入れてもいいかもしれない。ただし、岡田議員自身は退路断つと言っておいて断たなかったわけで、これは「自己保身」であろう。斎藤前知事を「自己保身」に走ったと糾弾できる立場にはない。
ちなみに岡田氏はみんかぶ編集部の取材に「当選後に会社側から、公職に就いた社員が休職できる『公務休職』という制度があるとの提案があり、これに従って届け出をしました。なお給与・賞与の支払いの一切ない制度となるよう調整してもらっています」と回答している。
しかしダイヤモンド社社員は匿名で首をかしげる。
「この制度の存在をほとんどの社員が知らなかったので、会社を辞めない岡田氏に驚いている人が多いです。当然、当選したら辞めると思っていたので……。今も社内規定上、給与も賞与も100%支払われることになっているのですが、さすがに社内からも『おかしい』と反発が出ており変更の方向で進んでいます。もともとあってもなかったような規定ですが、それを変えるのにも会社が労働組合と協議するなどの適切なステップを踏まなくてはいけません。ますます社内では『規定変更までさせるのだったら潔く会社辞めろよ』という声が強まってきています」
岡田氏は「退社も考えましたが、世襲や資金力のない社会人でも選挙や政治に挑戦し、落選しても、元の勤務先などに戻りやすい習慣が広く社会に定着することで、政治参加のハードルを下げる一助となり、政界の人材の流動化につながればと考え、公務休職を届け出ることとしました。『退路を断っていない』といった批判があることは承知していますが、今後の活動を通じて有権者のみなさまの期待に応えていきたいと考えています」とも述べる。
黒とも白ともつかない人間を犯人扱いしていいのか
それにしても「クロ」ではない斎藤前知事に対して、なぜ議会は全会一致で不信任案を可決させたのかという話になるのだが、その理由が「県政に深刻な停滞と混乱をもたらした政治的責任は免れない」(不信任案に賛成した議員の言葉)というものであった。何も言っていないに等しいが、県政の混乱を招いたのは二元代表制を敷く以上議会にも責任があるし、メディアにもある。黒とも白ともつかない人間を犯人扱いするのは、やはりよくないだろう。
日に日に勢いを増す斎藤前知事は、演説会場も異様な熱気であふれている。奇跡の大逆転は実現するのだろうか。