待ちわびた方も多い左手デバイスが、LogicoolのMX CREATIVE CONSOLE。このジャンルでは後発のメリットを生かして、幅広いユーザーの作業環境に馴染みやすい分離スタイルで登場した。

有名・無名を問わず左手デバイスはたくさんあるけれど、その中からMX CREATIVE CONSOLEを選ぶメリットはどこにあるのか。写真愛好家の視点で検証してみたいと思う。

機能分離型は好みのレイアウトが探しやすい

「左手デバイス」について簡単に説明しておくと、キーボードやマウスの補助として片手で操作できるツールのこと。

昔ながらのデバイスとしては、テンキーパッドを思い浮かべると分かりやすいだろう。数字のキーが搭載された計算機のようなキーボードで、表計算ソフトなどに素早く数値を入力できる。

これを発展して、1つのキーに「やりたいこと」や「起動したいアプリ」を登録したり、ダイヤル操作で数値を増減したりできるデバイスを総称して「左手デバイス」と呼ぶ。

ちなみに、「左手」と付いているが右手で操作してもかまわない。

今回紹介するLogicoolの「MX CREATIVE CONSOLE」は、このジャンルでは後発なだけに工夫を凝らした仕様になっている。

大きな特徴がキーパッドとダイヤルパッドが分離している点で、2つを左手で操作してもいいし、左右に分けて使ってもいい。本体間はワイヤレスなので配置は自由だ。

「絵文字」のボタンと大きなダイヤルでPCやアプリを直感的に操作できるMX CREATIVE CONSOLE。各ボタンは小さなモニターになっていて、任意のアイコンや文字が表示できる仕組み。キーパッド(左)はUSB-Type-C、ダイヤルパッド(右)はBluetoothでPCと接続する

左手デバイスはユーザーによって好みが左右するデバイスでもあり、本体形状やボタン配置、操作部の質感や触感がフィーリングに合わないと、高い確率で「お蔵入り」する。

とくにボタンとダイヤルの配置は使いやすさに直結し、これが分離しているMX CREATIVE CONSOLEなら「使いやすい配置」が探しやすい。スタンドも付属しているため、見た目以上に多彩なレイアウトが試せる。

写真編集と動画編集の環境で使ってみたが、軽い作業ならスタンドに立てたキーパッドの手前にダイヤルパッドを置く配置がコンパクトで操作しやすかった。右手はマウスとキーボードを操作するというスタイルだ。

じっくりと色調整するときは、左手でキーパッドとキーボード、右手でダイヤルパッドとマウスを操作する配置が作業しやすい。大きなダイヤルは選んだ機能の「スライダー操作」に対応するので、右手で回すほうが精密な調整がしやすいためだ。

MX CREATIVE CONSOLEにはスタンドも付属している。個人的にはキーパッドをスタンドに立てて、左手の親指でダイヤルパッドが操作できるように少し右にずらすレイアウトが使いやすかった

左手デバイスは「ボタンでアプリや機能を選ぶ」だけでなく、ダイヤルによるスライダー調整のしやすさもメリットのひとつ。

マウスで左右に動かして明るさを補正するより、ダイヤルを回したほうが調整の手応えを感じやすい。それはすなわち仕上がりにも関わる要素でもあるので、左手デバイスのレイアウトの自由度はとても大切だ。

Adobeユーザーとその予備軍に最適なデバイス

MX CREATIVE CONSOLEに興味を抱いたみなさんはAdobeユーザーだろうか?

もしAdobe LightroomやAdobe Photoshop、Adobe Premiere ProなどのAdobe Creative Cloudシリーズを使っているのなら、それらに対応しているMX CREATIVE CONSOLEは最高の左手デバイスだ。

アプリごとにたくさんのアクションが用意されていて、簡単にボタンの設定が行える。

3か月のメンバーシップ(2万3,340円相当)が付いているので、Adobe製のアプリに興味があるのならMX CREATIVE CONSOLEで使いはじめるのもよいだろう。メンバーシップユーザーなら、期限が3か月プラスできる点も魅力だ。

MX CREATIVE CONSOLEの使い方は非常に直感的だ。

ディスプレイキーには機能を割り当てたボタンが「絵文字」で表示されていて、それを押すことでアプリを起動したり、機能を実行したりできるようになる。

アプリを起動すると、ボタン表示は使用するアプリに特化した内容に変化するため、シームレスに作業を続けることが可能。メニューやパネルから機能を選ぶ必要がなく、必要な機能に直結した「物理ボタン」を押すというワンアクションで作業できるので、アプリの操作性が一転する。

ボタンに表示される「絵文字」は、起動したアプリにより内容が自動で入れ替わる。ボタンには機能名や処理内容が表示されているので、初心者でも必要な機能が見付けやすい

ちなみに、左手デバイスは絶対に「ディスプレイ表示できるタイプ」がいい。

安価な製品も多いけれど、それらのほとんどはボタンやダイヤルが用意されているだけで、どのボタンになんの機能が割り当てられているのか一見して分からない。

それならアプリのショートカットキーを覚えたほうが経済的だし、はるかに効率的だろう。

キーパッドには絵文字のボタンが9個しか搭載されていないが、本体下部の「ページングボタン」でページを切り替えれば、最大15ページ、135の機能が登録できる。

すべてのボタンにアイコンや名称が表示されるため、操作に迷うことも少ないだろう。

ページングボタンを押すとボタンが入れ替わる。最大135個のボタンを作ることが可能

下の映像は、実際にAdobe Lightroom Classicを使って作業しているシーン。

キーパッドで「Lightroom Classic」のボタンを押してアプリを起動し、筆者のRAW現像ワークフローでもある明暗、彩度、色の順に補正を施した例になる。

ボタンを押してダイヤルを回すという操作は写真編集ととても相性がよく、必要な処理がすぐに選べるし、マウスドラッグによるスライダー操作よりも繊細な色が作りやすい。

補正に使う機能をボタンに割り当てておけば、ボタン+ホイールで各スライダーを調整して次々と補正が進められる。ホイールを回して色を変える操作はとても心地よく、いつまでも作業していたくなる

左手デバイスは作業をスピーディーに行うだけでなく、ゆっくり、じっくりと作業するスタイルにも向いている。

マウス操作では難しい微妙なニュアンスを再現したりもできるので、色調補正の初心者にこそ使ってもらいたいデバイスだ。

ドラッグ&ドロップでボタンの入れ替えが可能

MX CREATIVE CONSOLEをカスタマイズするには、「Logi Option+」というアプリが必要になる。これは初期設定にも使用するアプリで、MX CREATIVE CONSOLEの心臓部といってもいい。

MX CREATIVE CONSOLEはPCにインストールされているアプリを検出して基本的なプロファイル(ディスプレイキーやダイヤルの設定)を作成できるが、使いやすくするには自分なりのカスタマイズが必要だ。

具体的には、「デスクトップ操作時のプロファイル」と「アプリを起動したときのプロファイル」を作っていくことになる。

Logi Option+はデスクトップや各アプリで使えるアクション(機能の一覧)がたくさん用意されているので、使いたい項目をボタンの位置にドラッグ&ドロップすればOK。これで、キーパッドのデザインが即座に変更される。

ボタンに機能を割り当てると、リアルタイムにディスプレイキーの表示が変わる。映像はボタンで起動するアプリを指定している例

ダイヤルパッドにある2つのダイヤルと4つのボタンもカスタマイズできるが、基本的にはデフォルト設定のままで不都合はないだろう。

Lightroom Classicで操作する場合を例にすると、上部にある2つのボタンは「取り消し」と「やり直し」、左下のボタンは「ライブラリ」と「現像」モジュールの切り替え、右上のローラーはズームが割り当てられている。

各ボタンはディスプレイ表示できないタイプなので、カスタマイズするなら「使用頻度の高い必須の機能」にしておくべきだ。

ダイヤルパッドの設定画面。ボタンだけでなく、ダイヤルやローラーにも使いたい機能を割り当てることができる

アプリ間で基本的な操作が揃えられる

MX CREATIVE CONSOLEで便利だった使い方が、異なるアプリ間で作業環境を揃えるというもの。

たとえば、Lightroom ClassicやPhotoshop、Premiere Proで編集する場合、写真や映像の色調を整える基本的な補正を行う必要がある。

やるべき処理は「明るさ」「鮮やかさ」「色」の補正になるが、各アプリで使う機能も場所も異なっているため慣れていても煩わしい作業だ。

そんな場合、キーパッドやAction Ring(後述参照)をカスタマイズして、「同じ場所にあるボタンで同じ処理」が行えるようにしておけば、写真編集と動画編集の違いはあっても色調補正に関しては操作が統一できる。

とくにLightroomとPremiere Proの色調補正は搭載機能が似ているので、キーパッドで操作性を揃えておけば、Lightroom Classicの感覚でPremiere Proが扱えるようになるだろう。

左がLightroom Classicの色調補正、右がPremiere Proの色調補正用に作ったプロファイル。たとえば左上のボタンを押すと露光量が調整できるなど、同じ位置のボタンを押すことで同じ補正が施せるようにしている

現在はAdobe製アプリ以外は対応しにくい状態だが、プラグインが充実してくれば、たとえば異なる動画編集ソフト間で作業を統一するという使い方もできるようになるかもしれない。

ちなみに、プラグインとはアクション(ボタンに割り当てる命令)が登録された設定ファイルのこと。アプリごとに用意されていて、プラグインをインストールすることでLightroom ClassicやPhotoshopの各機能にアクセスできるようになる。

プラグインが用意されていないアプリの場合は、ショートカットキーを使いディスプレイキーをカスタマイズすることが可能だ。アイコンの画像や色、表示する文字も自由に作れるので、よく使うアプリがある場合は自分で設定を作るのもよいだろう。

ただし、この場合はショートカットキーが割り当てられていない機能にアクセスできないというデメリットがある。

ボタンにショートカットキーを割り当てた例。プラグインのないアプリの場合は、この方法でプロファイルを作ることができる

MX CREATIVE CONSOLEはあくまでも「プラグイン」が前提のデバイスといえる。したがって、プラグインが用意されていないアプリは「使えなくもない」程度に考えよう。

写真と動画関連の編集ソフトとしては、記事執筆時点(2024年10月末)でLightroom Classic、Photoshop、Premiere Pro、After Effects、Illustrator、Auditionのプラグインが用意されていて、それ以外のアプリは今のところ対応待ちの状態だ。

順次プラグインを増やしていくとのことなので、目的のアプリが未対応の場合も将来的には使えるようになるかもしれない。

プロファイルやプラグインが入手できる「マーケットプレイス」。使いたいアプリのプラグインをインストールすることで、アクションがボタンやダイヤルに割り当てられるようになる

Action Ringで+αの利便性を!

MX CREATIVE CONSOLEをさらに効率よく使う機能が「Action Ring」。

これはPC画面上に表示される仮想的なボタンで、デフォルト設定ではダイヤルパッド右下のボタンを押すとマウスカーソルの位置に表示される。

ダイヤルパッドのボタンを押してAction Ringを表示すると、マウスカーソルの位置に8つのアイコンが展開。アイコンには機能が割り振られていて、クリックやドラッグなどで調整が施せる

Action Ringで使える機能はアプリごとに設定でき、Lightroom Classicの現像モジュールなら「露光量」「コントラスト」「ハイライト」「シャドウ」「黒レベル」「白レベル」「色温度」「色かぶり補正」の8種類が登録されている。

調整したいアイコンにマウスカーソルを重ねてダイヤルを回すか、アイコンを左右にドラッグ、またはマウスのホイールを回せば、該当の機能が調整されるという仕組みだ。

たとえば、色調補正で自分なりのワークフローが確立しているのなら、その作業順に必要な機能をAction Ringに登録すればいい。これにより、マウスカーソルをアイコンに重ねてダイヤルを回すだけで、基本的な補正が施せるようになる。

RAW現像や写真管理のルーチンワークを登録しておけば、キーパッドのボタンを押すよりも早くて簡単だろう。

Lightroom Classic でAction Ringを使った色調補正の例。右手のマウス操作でAction Ringのアイコンにカーソルを重ねると、ダイヤルを回すことで露光量や色温度などが補正できる

動画編集に関しても少し触れておくと、キーボード+マウスを使う環境の比ではないくらいに編集が快適になる。

そもそも動画編集は、再生ヘッドを移動しながら次々と編集点を作っていく作業が多いため、ダイヤル操作と相性がとてもいい。

キーパッドに「編集点を追加」と「前方」および「後方リップル削除」の3機能を割り当てておくだけで、サクサクとカット編集が行えるようになる。

動画編集で手間がかかるのがカット編集。マウス操作の場合はシークバーをドラッグしてカットする再生位置を探し、ツールを切り替えてカット、不要な部分を選択して削除……というように時間がかかる。すべての処理をボタンに割り振っておけば、ダイヤルを回して位置を探し、ボタンを押すだけで次々と映像を切り刻めるようになる

ほかにも、オーディオトラックミキサーやエフェクトパネルなど、頻繁にアクセスするパネルをボタンに登録しておけば、画面のあちこちに散らばっているタブを探してパネルを表示する煩わしさもない。

使いたいパネルのボタンを押せば即座にアクセスできるのだから、これは本当にラクだ。

とくに動画編集は作業の段階ごとにアクセスする機能が大きく異なるので、ページを分けてボタンをセットしておくと快適。

たとえば、初期段階のカット編集用、その後の色調整用、後半のオーディオ処理用、という感じでボタンのセットを組んでおけば、分かりやすく、そして素早く作業が行えるだろう。

Premiere Proの編集で使っていたページ設定の例。各段階で必須の機能を9個選び出し、ページを行き来することなく早く作業できるようにしている

取り回しに不便を感じた有線接続

MX CREATIVE CONSOLEを使っているうちに、残念に感じたのがキーパッドだけ有線接続という点。

筆者はスタンドに立てて使うことが多かったが、そのさいケーブルが上から飛び出すため不格好に見えてしまう。せめてスタンド側にUSB端子を付けてもらえればと思うし、そもそも無線接続にするべきではないだろうか。

今どきはマウスもキーボードも無線接続が当たり前で、キーパッドだけが有線接続というのは取り回しにも不便を感じた。

スタイリッシュなデバイスなのに、USBケーブルが生えていると野暮ったく見えてしまう。キーボードとの位置関係によっては作業しにくい場面もあった

また、スダンドやキーパッドはもっと重さがあってもいいと思う。
どちらも軽量なため、立てて操作するとズレやすく、そのたびに位置を戻さなければならない。

さらに水平に置いて操作するときはUSBケーブルの太さと硬さが災いし、PCとの位置関係によってはクセの付いたケーブルが邪魔に感じやすかった。

長さも含めてUSBケーブルがネックになりやすいので、使用する環境に合わせて細くてしなやかなケーブルを別途用意したほうがよいだろう。

本体の操作性では、ダイヤルパッドのローラーに段階的なクリック感がほしいところ。

ローラーはズーム関連機能に割り当てることが多いのだが、軽めのトルク感のため少し触れるだけで表示が変更されやすく、これが結構煩わしい。

ほかの機能を割り当てるにしても少しの回転で敏感に反応してしまうため、扱いには慣れが必要だ。

ダイヤルパッド右上のローラーが意外と曲者。回転が滑らか過ぎるため、意図せず操作してしまうことがある

本体の問題ではないが、Logi Option+でディスプレイキーを設定するさい、名称の文字列を改行する方法が分かりにくかった。

英数字の場合は単語(半角スペース)を基準に自動的に改行されるようだが、長い日本語の場合ははみ出してしまう。日本語で複数行の文字を入れたい場合、改行したい位置に半角スペースを入れるとその位置を目安に自動改行できるようだ。

英字/日本語どちらにしても自由な位置で改行できるわけではないので、ボタンのデザインにこだわりたい方はなんらかの工夫が必要かもしれない。

Logi Option+の設定画面。長い日本語の名称を入れるときは、区切りとして半角スペースを入れて、テキストボックスの幅を狭くすると意図する箇所で改行されやすくなる

左手デバイスは普段使いにもあると便利

左手デバイスはヘビーユーザー向けという印象があるかもしれないが、普段のPC操作も快適になるので初心者にもおススメできる。

メールやブラウザなどのよく使うアプリや、頻繁にアクセスするWebサイトをボタン化したり、音楽の再生や音量、モニターの明るさなどを割り当てたり。

同じ作業を行うにしても、「ボタン」と「ダイヤル」というアナログの操作感は使っていて心地がよい。

レビューでは触れられなかったが、500文字までのテキスト貼り付けボタンも用意されていて、メールの定型文章入力にも便利だ。筆者は文章を書く仕事も多いので、原稿のフォーマットを設定しておき、ボタンを押して書きはじめの体裁を整えるという使い方をしていた。

ほかにもスクリーンショットを撮るボタンや、キャプチャした画像や動画のフォルダーを表示するボタンなどなど、いつの間にかMX CREATIVE CONSOLEに頼ることが多くなり、写真や動画編集以外でも大活躍。

デスクトップ操作を快適にするためのボタンセット。ほかにもデスクトップに散らばっていたショートカットをボタン化したので、PCの画面をスッキリとさせることができた

そして、ニッチだけど個人的に役立ったのがストップウォッチ機能だ。

キーパッドのボタンに時間が表示されていて、押すと計測スタート、再度押すとストップ、長押しでゼロクリア、という操作ができる。

同様にBPM(曲のテンポ)を測定するボタンも作れて、ビートに合わせてボタンを押すとリアルタイムにテンポの確認が可能。これらは動画用のBGMを作るさいに役立った。音楽アプリの画面でマウスをポチポチとクリックして測定するよりもすこぶる快適だ。

ほかにも時間や日付表示などがあるので、ボタンの空きスペースを埋めておくのによいかも。

キーボードやマウスなどの周辺機器で信頼性の高いLogicool製ということもあって、MX CREATIVE CONSOLEは登場以来かなりの人気製品になっている。

Adobeの写真/動画編集アプリユーザーやその予備軍なら、真っ先に検討したい左手デバイスといえるだろう。