不動産の専門家が「タワーマンション」への批判を「買えない人による負け犬の遠吠え」だと断言する訳
5億円超えも…「億ション」はもう話題にもならない
SNSやネット記事で、「資産価値が上がり続ける」という言説と「数十年すると廃墟になる」という言説が両立しているタワーマンション。数億円することが当たり前になっている今、購入を検討している人からするとどちらの言説が正しいのか気になるところだろう。
本記事では不動産・金融専業ライターの七海碧氏が、タワーマンションの安全面や今後、タワーマンションの資産価値がどのように推移するかを予想し、解説する。
近年、都市部の象徴として急速に増加しているタワーマンション。価格はみるみる上がっていき、短期間のうちに1億円の物件が2億円になったなんて話も聞く。
かつては1億円を超えると「億ションだ」と、もてはやされていたが、現在、1億円を超えるタワマンは普通であり、それだけでは話題にもならない。人気が集まる湾岸エリアの築浅タワマンだと70平方メートル超の部屋は2億円を優に超える。
最近では、コンクリートの強度問題で建築が一時ストップした中央区の湾岸タワマン、「ザ 豊海タワー」の第1期2次販売の価格が発表された。最上階の部屋は約150平方メートルで驚きの5億円超。
このようなタワマンの存在は、さまざまな場面で議論を巻き起こしている。「眺望は3日で飽きる」、「見栄っ張りが住む場所」などと揶揄される一方、購入希望者は多くいるので人気があるのは疑いのない事実だろう。
X(旧Twitter)やニュース配信サイトのコメント欄を見ると、タワマンへの批判がこれでもかというくらいに出てくる。
「バカと煙は高いところへのぼる」
「忘れ物をするとまた戻るのが大変だ」
「大地震でマンションが折れる」
正直なところ、住んだことのない人の感想レベルの内容が多く、あまり的を射ていないコメントばかりだ。
例えば、忘れ物をするのが面倒なのは、タワマンじゃない15階建てのビルでも同じではないだろうか。エレベーターの性能などを加味すると、非タワマンの15階とタワマンの30階の場合の戻る時間の差はせいぜい10秒程度、もしかしたら同じかもしれない。「その10秒が1年間では……」なんて、時間的な損失を嘆くなら、むしろ好立地にあるタワマンのほうがさまざまな場面で時間短縮できている。
大地震でマンションが折れる、というのも根拠に乏しい批判だ。もし、建築基準の厳しいタワマンが折れるような大地震がくるのなら、普通のマンションも戸建ても甚大な被害を受けているに違いない。多くの批判は、タワマンを主語にしているが、タワマン固有の事象じゃないのだ。
「タワマン貶し」は買えない人の負け惜しみ
将来的には廃墟になる、なんて批判もあったが、湾岸タワマン人気の加熱は続き、値段も上がっているので、そのような反論は少なくなってきた。
一方で、「資産性だけを追い求めるのは、心が寂しい証拠」なんて新しいタイプの批判もある。要は、マイホームは自分が最も長くいる空間だから、「自分の住みたい」を優先すべきで、資産性第一で選ぶなんてけしからん、的な内容だ。
言いたいことも分からなくはないが、おそらくタワマンに住んでいる人のほとんどは資産性を考えながらも、気に入って住んでいるのではないかと思う。
資産価値が維持される、あるいは上がっていくマイホームは、何よりも効率的で地に足のついた資産運用だ。毎月の返済によって、自分自身の資産は着実に積み上がっているのだから。実際、数年前のファミリー向けの広さのタワマンは、価格が2倍以上になっているケースも珍しくないだろう。
マイホームなので含み益をすぐに使えるわけではないのだが、この気分の良さ、心理的な余裕は、心地よい暮らしの一部となっている。ほとんどの人にとって、すぐに買い手が見つかる数千万円あるいは1億以上の資産を保有しているのは、万が一の際の心のよりどころになるだろう。
冷静に考えてみてほしい。郊外で自分の好みにアレンジをした自宅が20〜30年後に価値を保ち続けることができるのか? タワマンはゴーストタウンになるなんて批判もあるが、郊外と都心のどちらが先に人口減少のあおりを受けるのかは、議論するまでもないだろう。
郊外で空き家が増えれば、資産価値の減少どころか、買い手がつかない可能性は高い。働き続けて定年間際に返済を終えた住宅ローンも虚しく、家の価値が失われて、売却できなくなってしまうということだ。
老後、万が一経済的困窮に陥ったとき、「家を売って1億円超を手に入れられる人生」と「家が売れなくなって生活に困り果てる人生」、どちらがいいだろうか。
資産性を求めて家を購入するのは、かなり合理的な判断であると思う。住んだことのない人たちは豪華なエントランスなんてムダだと批判をするが、玄関口が綺麗で嫌な気持ちにはならないだろう。
あまり考えたくない話だが、離婚したとしても資産の処分に困らない。湾岸タワマンを数年前に買っていたら、買い手はすぐ決まるし、含み益も出ている状態だ。
「家計が急変して、支払いが困難に……」なんて記事を目にすることもある。買った時期や広さにもよるが、返済が苦しくて売却しても、1,000万円以上の現金が手元に残るので、最初から安いマンションを買って住み続けているより、よっぽど手元の資金は潤う。ファミリータイプの部屋で価格が2倍になっていれば、5,000万円超の現金が残る可能性もある。むしろ、無理してタワマンを買っておいたおかげで、手元のキャッシュに余裕ができたので喜ぶべきではないだろうか。
タワマンの批判を紐解くと、渦の中心は買えなかった人の嘆きが大きそうだ。そんな彼らの戯言は気にしないかのごとく、湾岸エリアには大きなタワマンが悠然とそびえたち、嫌でも視界に入ってくる圧倒的な存在感がある。そして、今ではいずれも彼らの手の届かない価格帯だ。「買わない」ではなく、「買えない」なのだ。
「タワマンは人の住む場所じゃない」
そうやってタワマンを下げることで、自分の心を安定させようとするのは、買えない人たちにとって最も合理的なのかもしれない。
取材・文:七海 碧