〈闇バイト広域強盗〉「これ以上やったら死ぬぞ」仲間の声も無視してバールで女性を殴り続けた永田陸人に無期懲役の判決、“親孝行”を誓うもボートにはまり借金まみれ
フィリピンの収容所に収監中の指示役らによる広域強盗事件で実行役のリーダーを務め、強盗致死罪などに問われた永田陸人被告(23)。その裁判員裁判が11月7日、東京地裁立川支部で行なわれ、菅原暁裁判長は「拷問とも言うべき残忍な犯行だ」と、求刑通り無期懲役を言い渡した。「闇バイト」の端緒ともいえる象徴的な事件で、末端を担う実行役の愚行があらためて浮き彫りになった。
〈画像〉元ミスキャン美大生「かけ子」として懲役2年の実刑判決を受けた広域強盗団の“お嬢様”、熊井被告
「やらないならお前をぶっ殺す」
永田被告は昨年1月、東京都狛江市の住宅に仲間らとともに侵入、当時90歳の女性を暴行して死なせた強盗致死罪を含め、2022年11月から2023年1月にかけて東京、神奈川、千葉、広島の4都県の6事件に関与したとして起訴されていた。
永田被告はこれまでの公判で、狛江市の事件について、仲間に持って来させたバールで女性を何度も殴らせたうえ、「これ以上やったら死ぬぞ」と問いかけてきた仲間に「やらないなら俺がお前をぶっ殺す」とけしかけたうえ、自らもバールで女性を殴ったことを証言。
さらに金品のありかを聞き出すため、「家を燃やすぞ」と脅して女性の腹を殴っていた。こうした残虐行為を自ら振り返って「正直、言葉にならないです。本当にごめんなさいとしか言えないです」「極刑でも償えないと思います。死刑が一番ふさわしい」と何度も涙を流していた。
判決にあたり菅原裁判長は、現場で仲間らを指揮した永田被告に対し、「被告の責任は際立って重い」としたうえで「償いとして何ができるのか。刑に服している間、ずっと考えてほしい」と呼びかけた。
一連の広域強盗事件は、フィリピンの収容所から漫画の主人公の名前や「キム」などと名乗る指示役が秘匿性の高い通信アプリを使って実行役を遠隔操作していたことが判明。
指示役とされる渡辺優樹(40)、今村磨人(40)両被告も強盗致死罪などで起訴されている。
「キム」の信頼を得て実行犯リーダーに
京都市山科区出身の永田被告は中学時代から非行に走ったが、教師の勧めで介護施設でボランティアをしたことをきっかけに介護プログラムを学ぶ府立高校に進学。
しかし、この高校は中退し、石川県で土木作業員をしていたころにボートレースにのめり込むようになり、金銭感覚がマヒしていく。大勝ちした快感が忘れられずに「タネ銭」を消費者金融や闇金から借りるようになり、雪だるま式に借金が増えていった。
その頃、SNSで「闇バイト」と検索、凶悪犯罪への道に迷い込むことになったという。やがて指示役「キム」の信頼を得て実行犯のリーダー格として現場を差配するようになり、ついには人を殺めてしまった。
永田被告は山科区の集合住宅で母と弟の3人家族で育った。昨年1月の取材で、同じ団地の70代の住人はこう振り返った。
「永田さんは子供たちがまだ小さくて保育園くらいのときに3人で引っ越してきたんです。お父さんらしき人は一度も見たことがないです。子供の頃からとても可愛くてお利口で挨拶もよくしてくれました。元気な子で、すぐ横にある公園で団地の子たちとよく遊んでましたよ。やんちゃって感じでもなくて気さくないい子だったのに、なんでこんなことしちゃったんですかね」
永田被告の母親とママ友だったという40代の女性は、こう顔を曇らせた。
「永田さんの家は母子家庭で、母親と陸人くんと一つ下の弟の3人で暮らしてました。今は母親と弟が2人で住んでます。
家族仲はとてもよかったですよ、母親が持病で昔から体が弱いみたいで、息子たちが無理させないよう気をつかってましたから。
ウチの子とは学年は違うものの保育園、小学校、中学校と同じだったのでよく顔は合わせてました。子供の頃の陸人くんは、大人しく人見知りの弟とは対照的に、活発で友達も多いタイプでした、団地の公園でよく遊んでて、会ったら元気に挨拶してきて可愛かったですよ」
高校中退後は顔を見かけなくなったが、たまに帰省しては挨拶を欠かさなかったという。女性はこう続けた。
「お母さんからは、金沢で建設系の仕事をしてると聞きました。『遠くで真面目に働いてくれてすごくうれしい』と喜んでいたのを今でも覚えてます。2年前のお正月には、陸人くんが実家に帰ってきたので『久しぶりだね、元気してた?』と声をかけると、『お久しぶりです、元気してます』と変わらずちゃんと挨拶してくれました。
『頑張って働いてるんだってね、親孝行するんだよ』と言う私に『わかってます! 親孝行しますよ!』と返事をしてくれたので、本当に立派に育ったなあと思ってたんですよ。
事件のニュースでまだ名前が出てなかったとき、顔は陸人くんぽいけど彼はいい子だしな、と信じなかったほどです。母親は体も弱くて働いてないし弟はまだ専門学生、母親と弟を支えるために罪を犯してしまったのかなとも考えました…。ただこれが贅沢や自分のためだったなら同情の余地はないですね」
取材中、実家の玄関ドアが開き、弟らしき人物が外へ出て、声をかけるも振り向くことなく無反応で団地の外へと歩いて行く。兄の名前を出して呼びかけると、青年は上着のフードを深くかぶり足早に立ち去っていった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班