いきなり「無保険」になって全国民が大パニック…?マイナ保険証「2025年問題」のヤバすぎる全容
前編記事『マイナ保険証のせいで「死亡事例」まで…12月から起こる「医療機関パニック」最悪のシナリオ』より続く。
マイナカードの更新に伴う「悪夢」
国は、「マイナカード」を普及させるために2020年に5000円給付の「マイナポイント第一弾」を始め、その後、2022年1月から23年9月まで「マイナポイント第二弾」で、最大2万円相当のポイントを付与した。
結果、国民の約75%が「マイナカード」をつくり、約8割が「マイナ保険証」の利用登録をした。
この時、大量の人が、カードを作るために自治体の窓口に押しかけてパニック状態になったが、マイナカードは5年ごとに自治体の窓口で更新しないと使えなくなるので、2025年から28年にかけて、また大量の人たちが役所の窓口に押しかけてくることが予想得されているからだ。
全国保険医団連合会作成の表は、「マイナカード」の電子証明書の更新時点で、カードを持っている人全員が自治体の窓口で更新した場合に、自治体が対応しなくてはならなくなる更新必要件数。2025年度には、なんと2023年度の約12倍の人が、自治体の窓口に更新手続きのために来る可能性がある。
これは、自治体にとってまさに悪夢だろう。
そのために手続きの遅れなどのトラブルが多発することが予想されるが、その時に「裏保険証」とも言える「資格確認書」を対象者全員に配っておけば、更新で時間がかかったり、手続きミスが発生して「保険」が使えなかったりする事態は避けることができる。
更新時にはポイントはもらえないだろうから、そのまま更新しない人も大量に出てくることが予想されるが、「裏保険証」である「資格確認書」を全員に発行しておけば、最低でも「無保険」という状況は避けられる。
「裏保険証」は、自治体にとっては、コストとリスクを同時に下げる一石二鳥のツールとなるのだ。
介護施設でも混乱が
「裏保険証」とも言える「資格確認書」を、期待を込めて見守っているのは、自治体ばかりではない。
たとえば、介護施設だ。個人情報の塊である「マイナ保険証」は厳重な管理が必要となるが、ほとんどの介護施設は、それに割く人も時間もない。
こうした施設にとっては、「保険証」が廃止されることは恐怖だったが、「裏保険証」として「資格確認書」を預かることができれば、扱いは従来の「保険証」と同じなので、手間がかからずに助かる。
すでに介護施設の中には「資格確認書」しか預からないと入居者に公言しているところもあり、10月28日から「マイナ保険証」が解除できるようになったことを期に、「マイナ保険証」の解除が入居条件の1つとなる施設も出てくることだろう。
だがここでひとつ厄介なのが「マイナ保険証」は、登録する時は簡単だが、登録を解除するのは難しいことだ。加入している健康保険組合の窓口に行って書面で解約申込書を提出しなければならず、「マイナポータル」などで簡単に手続きではない。
しかも厚生労働省は、「マイナ保険証」の登録のシステムは作っても、解除のシステムを作っておらず、今年に入って泥縄式にシステム改修に着手している有り様だ。自治体では、「マイナ保険証」を返納されても解除できない状況が続いていて、こうした人はかえって「資格確認書」を手に入れることができず、介護施設も困り果てた状況になっていた。
だが、「裏保険証」があれば、こうした問題は、一気に解決する。
自民党大敗の影響
「保険証」が廃止されても、これからは「保険証」という名前を持たない「裏保険証」が出てくるなどということを書いたら、せっかく自治体が知恵を絞って考え出した「裏保険証」が、政府によって潰されるのではないかと不安を抱く方もおられるだろう。
実際のところ、今回の衆議院選挙で、その心配は遠のいたと言える。なぜなら、「保険証廃止」を強引に進めてきた自民党が、今回の衆議院選挙で大敗したからだ。
野党では日本維新の会や国民民主党は健康保険証廃止を容認しているが、公約にはマイナ保険証への対応に関する具体的な記載はない。
「立憲民主党」をはじめとするその他の野党は、「保険証廃止」には反対。特に、野党第一党となった「立憲民主党」は、党の公約として社会保障の中に、「国民の不安払拭など一定の条件が整うまでは、現在の紙の健康保険証を存続します」と明記している。
しかも、立憲民主党の野田佳彦代表は、2024年10月27日に衆院選の開票特番『Live選挙サンデー 超速報SP』(フジテレビ系)で、「まずは紙の保険証を使えるようにする」と公言している。
しかも、「保険証廃止」に反対しているのは、野党だけではない。
岩手県議会や札幌市、静岡市などの政令指定都市も反対の決議をしていて、渋谷区をはじめとして178の自治体が、「保険証存続」のための意見書を国に提出している。その数は、今後ますます増えそうだ(7月10日・中央社会保障推進協議会調べ/参考・自治体意見書採択状況)。
衆議院選挙で大敗した自民党にとって、来年の参議院は、天下分け目の関ヶ原。なんとしても味方を増やさなくてはならない中で、仮に「保険証」は廃止したとしても、「裏保険証」にまで圧力をかけるということはできないだろう。
ちなみに、就任直後の石破総理や林官房長官が、「保険証廃止」の延期に理解を示したのは、地元からの陳情に配慮したからにすぎないと筆者はみている。
国の無謀な計画のせいで
「デジタル化」とは本来、誰にとっても便利であるべきもののはずだ。だが、この国がいう「デジタル化」が、いかに不便で多くの犠牲を伴ってきたかは、これまで本コラムで何度も書いてきた。
国は、医療DXの名のもとに、すべての人に「マイナ保険証」を持たせようとしただけでなく、すべての医療機関に「オンライン資格確認」を義務付けた。
そのために、多くの診療所などが休業や廃業に追い込まれ「無医村」が増えていることについても〈導入間近「マイナ保険証」で「地方都市の医療」が崩壊してしまう…現役医師が実名で怒りの告発〉で書いた。
この「オンライン資格確認の義務化」に対し、医師・歯科医師など1415人が、義務化に反対する訴訟を国に対して起こし、その判決が11月下旬に出ることになっている。
「医療活動の自由」に対しての権利侵害を争点に、オンライン資格確認の違憲・違法性、憲法を争う裁判だが、ここで国が負ける公算は大きい。
国のお花畑のような「デジタル構想」の実現に、医師も患者も自治体も振り回され、死者まで出した今回の「マイナ保険証」のドタバタ劇も、この判決と「裏保険証」の普及で、そろそろ着地点が見えてきそうだ。
ただ、残念なのは、この「マイナ保険証」の大騒ぎで、ただでさえ遅れている日本のデジタル化が、さらに10年は遅れそうなことだ。
住基カードの二の舞
ところでみなさんは、「住基カード」の大騒ぎを覚えているだろうか。
2002年3月に「住民の利便性の向上と行政の合理化」の名のもとに出された「住基カード」は、住民にはほとんどメリットがないまま1兆円をドブに捨て、多くの自治体から訴訟を受け、普及率5%という散々な状況でトラブルだけを撒き散らして消滅した。しかも、誰も責任を取らないまま尻窄みで2015年12月に公的個人認証(電子証明書)の新規発行・更新を終了した。
多くの自治体が国を訴えた「住基ネット」の裁判から10年経ち、やっと多くの人の中から「国のデジタル化への不信感」が忘れ去られようとしている中で、再び起きたこの騒動。
結果は、「裏保険証」の普及で終わりそうだが、そのために再燃した「国のデジタル化への不信感」は、この国のデジタル化をさらに遅らせそうだ。
国際経営開発研究所(IMD)が世界64カ国・地域を対象に2017年から公表している「世界デジタル競争ランキング2023」で日本は32位。2018年には22位だった順位が年を追うごとに下がり続けている。
「マイナンバーカード」は、こうした状況を打開するためのツールのはずだった。ところが、多くの人が「デジタルの便利さ」を実感することなく「デジタル化に対する不安やためらい」を増幅させてしまった。
特に、「マイナカード」を普及させたいがために、厚生労働省の審議会も無視し、医療の現場も知らず、独断で「保険証」廃止を決めた河野太郎元デジタル大臣とデジタル庁の罪は大きい。
けれど、住基ネットの時と同様に、誰もその責任を取らない。日本のデジタル化は「不便」を撒きちらしただけで、海外から見たらますますガラバゴス化していくのだろう。
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