近年の演歌の世界は、若い歌手が続々とデビューし、シーンは新旧の世代が入り混じっての活況が続いている。そんな中、北海道からまた新星がデビューする。

札幌出身の小山雄大は、2003年生まれの現在21歳。2歳の頃に氷川きよしをテレビで見て歌い始めたという早熟ぶりで、歌うべくして生まれた存在と言えるかもしれない。4歳の頃からは民謡を習い始め、小学2年生からは三味線も弾き始めるなど、本格的に民謡の道へ進んだ。

北海道を代表する民謡のひとつである「道南口説節」の全国大会で、2009年は幼年の部、2011年は少年一部、2015年には少年二部で優勝。さらに、「日本民謡ジュニアフェスティバル」全国大会でも、2012年には第二部で、2015年には第三部で優勝。その他、幾つもの民謡の大会において優勝し、特に日本民謡協会の全国大会では、小学生、中学生共に日本一になるなど、民謡の世界では若くして将来を期待される存在となった。

その活躍の舞台はテレビへと広がり、2014年にテレビ東京『カラオケバトル』、2015年には『NHK「のど自慢」』、2017年にはフジテレビ『ミライ☆モンスター』に出演。特に、中学1年生だった2016年には『NHK「のど自慢」』のチャンピオン大会で氷川きよしの「獅子」を歌ってグランドチャンピオンを獲得。民謡を歌いながらも演歌が大好きで、マイクの持ち方から歌う仕草まですべて真似していたというほど憧れていた氷川きよしの歌を歌って優勝できたことが本当に嬉しかったという。

そして、この優勝をきっかけに、作曲家の弦哲也の目に留まることとなり、プロの演歌歌手への道を歩み始める。弦哲也はミリオンセラーとなった川中美幸「ふたり酒」や石川さゆり「天城越え」など多くのヒット曲を世に送り出した作曲家で、日本作曲家協会の会長やJASRACの会長を歴任するなど、まさに大御所中の大御所。そんな大家に将来の可能性を見出されたというだけで、その実力が分かるというものだろう。

中学生時代は2カ月に1回、札幌から弦の元へ通ってレッスンを受け、中学を卒業すると東京の高校に進学。もちろんデビューを目指しての選択だったが、実は母子家庭であり、母親と共に上京してきたということもあって、覚悟を決めての行動だったことは確かだろう。当然のように現実は甘くなく、所属事務所がなかなか決まらず、高校の3年間はアルバイト生活、さらに下積み期間には、所属事務所の先輩である三山ひろしに同行し、ステージングや歌手としての心構えを学んだという。かなり地道にデビューへの道を模索してきたといえるが、ここまで歌への道一つに定めてきたという例は、近年では少ないのではないだろうか。実は、所属するキングレコードでも新人演歌歌手をデビューさせるのは、2013年の水城なつみ以来実に11年ぶり。それだけに、本人はもちろん、関係者にとっても、かなり強い思いの入ったデビューということになるだろう。



そのデビュー曲「道南恋しや」は、師匠である弦哲也の作曲。明るく、力強く、爽やかに。しかし、雄大なる北海道を思わせるスケール感は、まさに小山の出自そのものを曲にしたかのようだ。作詞は、弦哲也作品に言葉をつけることが多いさわだすずこが担当。今は上京している小山の出自を汲んでか、道南を舞台に望郷の気持ちを言葉に乗せている。カップリングの「椿咲く島」は、作詞・作曲共に弦哲也の手によるもの。こちらは長崎県の五島をイメージして作られたマイナー調の楽曲になっている。

小山の歌は民謡出身ということもあって、軽やかに高音に抜けていく艶やかな声が印象的だ。演歌好きを自認するだけあって、コブシの付け方や声の調子のコントロールは心得たもの。実に安定感のある歌いっぷりで、幼少の頃から歌い続けてきた実力を感じ取れる。手品が特技だというところにもかけたのだろうか、キャッチフレーズとなった“マジックボイス”は、まさに小山雄大という人を表したものといえる。ここにキャリアと経験が積み重なっていったらより深い表現になるのだろうが、今は若さならではの軽やかさを楽しみたい。こればかりは今この時にしか出せないものだからだ。

体は小柄だが、「雄大」という名前の通り、スケールは大きい。今ようやくスタートラインに立った“マジックボイス”がどう成長していくのか、楽しみに見守っていきたい。

文◎池上尚志

「道南恋しや」


【定価】¥1,500(税抜価格¥1,364)
【品番】KICM-31134
配信▶ https://king-records.lnk.to/Dounan_KoishiyaFA

1.「道南恋しや」
作詩:さわだすずこ / 作曲:弦哲也 / 編曲:猪股義周
2.「椿咲く島」
作詩・作曲:弦哲也 / 編曲:猪股義周
3.〜6. 各曲の一般用カラオケ オリジナルカラオケ収録