現代の高速インターネットは光を利用して、光ファイバーケーブルを通じて大量のデータを迅速かつ確実に送信しますが、データ処理が必要な時に光信号を電気信号に変換する必要があり、これがボトルネックになるという問題を抱えています。これを解決するために、光で光を直接制御する「全光スイッチ」を用いる手法が模索されています。

Cavity Floquet engineering | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-52014-0

All-optical switch device paves way for faster fiber-optic communication

https://phys.org/news/2024-10-optical-device-paves-faster-fiber.html

「全光スイッチ」は、電気変換を必要とせずに光を使用して他の光信号を制御することができるというデバイスです。この全光スイッチを利用することで、光通信における時間とエネルギーの両方を節約することが可能となります。

ミシガン大学の研究チームは、極薄半導体で覆われた光共振器を通し、らせん状にねじれた円偏光の光をパルス照射することで、超高速に動作する全光スイッチを実現しました。



ミシガン大学の開発した全光スイッチは、制御レーザーのオンオフを切り替えることで同じ偏光の光信号を切り替える標準的な全光スイッチとして機能します。また、一方の光入力が時計回りに回転し、もう一方が半時計回りに回転している際に出力信号を生成し、両方の入力が同じ方向に回転している場合は出力信号を生成しないといった、論理回路として機能させることも可能です。

ミシガン大学の物理学博士課程の学生であり、全光スイッチ開発論文の筆頭著者でもあるリンシャオ・ゾウ氏は、「スイッチはあらゆる情報処理ユニットの最も基本的な構成要素です。全光スイッチは全光コンピューティング、あるいは光ニューラルネットワークの構築に向けた第一歩となります」と語りました。

論文の共著者であるミシガン大学のスティーブン・フォレスト氏は、「極めて低い電力消費が光コンピューティング成功の鍵です。私たちのチームの研究はまさにこの問題に取り組んでおり、珍しい二次元材料を使用して、ビット当たり非常に低いエネルギーでデータの切り替えに成功しています」と言及しています。



研究チームは全光スイッチを実現するために、らせん状のレーザーを「光を捉えて何度も往復させる鏡の組み合わせ」である「光学キャビティ」に一定間隔でパルス照射することで、レーザー強度を2桁も増強させることに成功。

また、1分子分の厚さのセレン化タングステン(WSe2)層を光学キャビティ内に埋め込むことで、強い振動光が半導体内の利用可能な電子バンドを拡大します。これはシュタルク効果と呼ばれる非線形の光学効果で、これにより光信号のフルエンス、つまり単位面積当たりに伝達または反射されるエネルギー量が変化するそうです。

シュタルク効果は光信号を変調するだけでなく、電子バンドに磁場と同様の影響を与える擬似磁場も生成します。擬似磁場の有効強度は210テスラと、地球上で最も強い磁石の強度である100テスラよりもはるかに強力です。この非常に強い力はスピンが光のらせん方向に揃った電子だけに影響するため、異なるスピン方向の電子バンドを一時的に分割し、揃った電子バンドをすべて同じ方向に向けることが可能となります。



また、異なるバンドの電子のスピン方向が短時間均一になることで、時間反転対称性と呼ばれる状態も破られます。擬似磁場では、逆方向に回転する電子のエネルギーが異なるため、時間反転対称性が崩れ、異なるスピンのエネルギーをレーザーで制御できるようになるそうです。

ミシガン大学で物理学および電気・コンピューター工学の教授を務めるフイ・デン氏は、「我々の研究結果は、時間反転対称性を制御することが物質の異様な状態を作り出すための必須条件であるという基礎科学と、このような巨大な磁場を活用することを可能にする技術の両方において、多くの新たな可能性を開くものです」と語りました。