「給与のデジタル払い」解禁から1年たち様子をみていましたが、そろそろ利用してみようかと思います。なにか注意点はあるのでしょうか?
給与のデジタル払いとは?
給与のデジタル払いとは、従業員に対して支払う給与を銀行口座へ振り込むのではなく、電子マネーやQR・バーコード決済といったキャッシュレス決済サービス(資金移動業者)へ送金する方法です。給与のデジタル払いは、2023年4月1日に施行された改正労働基準法施行規則によって解禁されました。
そもそも労働基準法24条によって、賃金の支払いは労働者に「通貨で」「全額」「毎月一回以上、一定の期日を定めて」支払わなければならないと定められています。そのため、給与の支払方法として一般的な口座振込は例外扱いとなるのです。
給与のデジタル払いは給与の支払手段として新たに追加される形となり、銀行口座の開設が困難な外国人労働者の雇用や給与支払いをスムーズに行えることを期待できるでしょう。
なお、日本トレンドリサーチ(運営会社:株式会社NEXER)が給与を受け取っていると回答した男女1000人を対象に行った「給与に関するアンケート」(調査期間:2021年4月)によると、給与のデジタル払いに「賛成」と回答した人は22.1%、「反対」と回答した人40.9%、「どちらとも言えない」と回答した人は37.0%でした。調査を通して、給与のデジタル払いに反対する人の割合が高いことが分かります。
指定できるのは厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者のみ
給与のデジタル払いが認められるのは、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者に限られます。ただし、2024年8月9日現在で指定を受けた資金移動業者は1社のみなので、注意が必要です。
指定業者を受けるための要件は以下のとおりで、審査に数ヶ月の時間を要するとされています。
●破産などによって資金移動業者が残高の払い戻しが困難となった際に、労働者へ負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有している
●デジタル払い用口座残高の上限が100万円を超えないようにする、または超えた場合は速やかに100万円以下とするための措置を講じている
●残高全額を保証する仕組みを有している
●労働者の意に反する不正為替取引などの損失を補償する仕組みを有している
●最後の口座残高変動日から最低10年間は口座残高が有効である
●ATMなどを利用して1円単位の受け取りができる
●少なくとも毎月最低1回は手数料なしで残高を払い戻せる
●給与のデジタル払い業務の実施状況および財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有している
●給与のデジタル払い業務を適正かつ確実に行える技術的能力、十分な社会的信用を有している
不正取引や指定資金移動業者破産時の補償対象
心当たりのない出金などの不正取引が起きたなど、口座所有者に過失が認められない場合の損失は全額補償対象です。ただし、損失発生の翌日から30日以内など、一定の期間内に指定資金移動業者への通知を必要とする場合があるため、速やかに手続きを進めてください。
また、不正取引以外に指定資金移動業者が破産した際には、口座残高へ弁済(保証機関と締結した保証契約に基づく)が行われます。
受取額は1日の払出上限額以下
注意点として、賃金を受け取る口座には受入上限額が設定されています。上限に達した際には、デジタル払いの給与を受け取れません。労働者が指定した別の銀行口座を指定したり、口座残高を減らしたりするなどの対応をしなければなりません。
給与のデジタル払いが認められた業者は1社のみ。今後の動向に注目しよう
給与のデジタル払いは、企業にとって振込手数料の削減や外国人労働者の確保などが期待できる方法でしょう。しかし、政府がキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化を推進する状況ではあるものの、給与のデジタル払いが認められた資金移動業者は1社のみです。
現段階では懸念点が多数みられますし、給与のデジタル払い賛成者よりも反対者が多くいる状況です。給与のデジタル払いが認められる資金移動業者がどのくらい増えていくのか、今後制度がどのように変わっていくのかなど、動向を随時チェックしてみてください。
出典
厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
デジタル庁 e-Gov 法令検索 労働基準法
株式会社NEXER 日本トレンドリサーチ 給与に関するアンケート(PR TIMES)
厚生労働省 賃金を「デジタル払い」で受け取る場合に必要な手続き
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー