「短命説」が消えない石破内閣。だが筆者は「日経平均は最高値突破の条件が整った」と言う。その理由とは何か(写真:ブルームバーグ)

前回の記事「9月末は日本株の今年最後の買い場になりそうだ」(9月30日配信)がリリースされた日の株式市場は、自民党総裁選挙の結果を受けて急落した。それまでは「高市早苗首相」を材料にして、日経平均株価は4万円をつけるのではないかという動きを見せていたが、同月27日に石破茂氏の勝利が決まると、30日には一時3万7000円台まで急落し、為替は1ドル=141円台まで円高が進んだ。

その後の2週間で日経平均は3万9605円まで上昇、3万9000円台を固めてきたが、今後の展開はどうなるだろうか。前回は「9月30日は絶好の買い場になりそうだ」としたが、今のところは成功したかにみえる。もちろん、その結果は年末にならなければわからない。ただ、その成功の基盤はより固くなっているようにみえる。その理由を説明しよう。

「お金と株式の需給関係」は好転、企業の好業績も不変

確かに、日本銀行の「ゼロ金利政策」はすでに解除され、異次元緩和は正常化へと転換している。だが10月11日に日銀が発表した、異次元緩和の結果あるいはその象徴とも言うべきマネーストックM3「(現金通貨+預金通貨+準通貨+譲渡性預金(CD)」はどうだったか。

簡単に言えばM3は市中に出回っているカネの量を表ものだが、月中平均残高をみてみると、確かに本年4月に1612.8兆円と過去最高になってから拡大は止まっている。だが最新分(9月)まで1600兆円台の高水準を続けており、引き続き「お金ジャブジャブ」の状態は変わっていない。

その中で企業の自己(自社)株買いは2023年度に総額10兆円を超えて過去最高となり、2024年度に入ってもその勢いは衰えていない。つまり世の中では、お金の量が過去最高水準であるにもかかわらず株式の量は減っているのだ。この需給関係が続く限り株価は、「物理的」に上がる傾向となる。

また、1ドル=160円台でいったんピークを打ったかもしれないが、円安の影響もあり企業業績は順調で、同じく10月11日現在の日経平均予想EPS(1株当たり利益)は2511円46銭と、過去最高になっている。このような状態で株価は、短期的な波乱はあっても長期的に下落することはありえない。株価の基本は最終的には業績によるからだ。

ただこれらの流れに取り残されているのが東証グロース市場250指数である。長期の低迷状態が続いており、これについては「明確な上昇波が出るまで待つ」としか言いようがないが、東京証券取引所もこのままでいいとは思っていないだろう。

チャートの形が改善、米国株の強さも際だつ

やはり前回指摘した日経平均の「移動平均との総合乖離」(株価と25日・75日・200日移動平均線乖離率との合計)については、すでにプラス転換していたが、現在は2桁乖離と力強くなっている。また25日移動平均線は10月3日から、75日移動平均線も10月4日から上向きに変わっており、チャートの形は極めてよくなっている。

一方、利下げ継続を材料に上がっていた米国株も、雇用統計や消費者物価の予想以上の強さで、年内あと2回開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)においては「各回0.5%ずつ、合計1%の利下げ説」が後退し、場合によっては「0.25%が1回だけ、または利下げなし」もありうる情勢だ。

それでも、11日のNYダウ30種平均株価とS&P500種指数は再び史上最高値を更新し、出遅れていたナスダック総合指数も最高値まであと300ポイントほどで、史上最高値更新は時間の問題となっている。

さて、筆者の強気の基本は「デフレ脱却インフレ相場」にあるので、物色の中心は内需関連銘柄になる。前回挙げた「防衛関連」「防災関連」を引き続き中心にして、今までの「デフレ脱却関連銘柄」が「石破銘柄」となる。

また前回は、日銀の利上げに反対だった高市早苗氏の総裁の可能性が高まると同時に売られていたメガバンクの反発に期待したいという趣旨のことも書いたが、何やら援軍が現れる可能性も出てきた。あのウォーレン・バフェット氏が関係するファンドが買って来るという噂だ。

これはもちろん一部の観測にすぎないものの、今週(14〜18日)のアメリカの金融株の決算次第では、日本の銀行株の人気が再燃する可能性もある。実際、ひと足早く先週末に決算を終えたJPモルガン・チェースとウェルズ・ファーゴの2024年7〜9月期決算は、両銘柄とも市場予想以上の内容だった。これからの日本のメガバンクの収益環境は、アメリカよりもよいと考えられるので、バフェット氏が買おうと買うまいと、見直し買いが入ると考える。

「煮詰まる」日経平均、いよいよ最高値を更新へ

もう片方の相場の柱であるAI・半導体関連株は、その将来性に異論はない。だが株価が人気化し、かなり先取りしてしまったこともあり、しばらくは逆張りに徹すべきだと考えている。

今回、AI技術の中核を担う「機械学習」の基礎と、その後「ディープラーニング」モデルの確立につながった、「連想記憶」と呼ばれる手法を開発した2人の学者が「ノーベル物理学賞」を受賞した。

これは、昨年の「生理学・医学賞」に、新型コロナウイルスの「mRNAワクチン」の実用化に貢献した2人の研究者が選ばれたことを思い出させる。

最も注目される材料の基本理論が表彰されることはもちろん素晴らしいことだと思うが、株式市場はそのタイムラグを買う市場だ。受賞者には限りない敬意と祝福を述べたいが、AI関連はこれから株価が2倍3倍になる業界ではないと考える。もちろん株価が大きく下がるとも思っていない。ハイテク株が大きく下ったら、日経平均の新値抜け期待など雲散霧消する。

さて今後の日経平均はどうなるか。7月11日の4万2224円から8営業日連続安を含む急落で3万7000円台になったあと「いったん反発」して同月末には3万9000円台に戻ったが、あの8月5日の4451円安で3万1000円台をつけて底を打った。現在は「いったん反発」した3万9000円台での強力な戻り売りを消化して、それを抜けようとしている。

つまり、日経平均は十分煮詰まっており、何度も跳ね返された3万9000円の水準を明確に超えつつある。そして、下落局面での「いったん反発」の3万9000円の地点は、今後、戻る局面では重要なターニングポイントになる。このターニングポイントから7月の最高値である4万2000円台までは「複雑な地形」はない。「すべり降りた跡」があるだけで、上昇への障害はなさそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)