「マニキュアで指紋を消せ」用意周到すぎる犯行でも、《逮捕》...地面師グループの主犯たちが気づかなかった《なりすまし役》の致命的すぎる性格

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第24回

『地面師なりすまし役の男が《告白》「単なる報酬目当てだった」...1回あたり《数十万円》で犯罪に加担する男の《内心》』より続く

マニキュアで指紋を消して

一瞬で億単位の詐欺を働く地面師グループは、犯行にあたり用意周到に手順を踏み、準備を怠らない。取引の際、指紋を残さない方法もある。

「取引に臨む際、(渡邊たち関係者は全員)指にマニキュアを塗っていた……」

内田の論告求刑では、検事がそう述べていた。指のマニキュアなどは、われわれのあいだでは半ば常識だ、と先の地面師はこう説明してくれた。

「それは、関係書類に指紋を残さないためです。不動産取引をするのにまさか手袋するわけにはいかないでしょ。それで、両手の10本の指の腹すべてに透明のマニキュアを塗っておくわけです。すると書類に指紋が残らない。ただ、逆に警察はまったく指紋のついていない不動産の書類を見ると、地面師たちの犯行を疑いますけどね」

地面師事件では、偽造した免許証や偽造パスポートを使ってなりすまし役を仕立て、その次に仲間内のブローカーと不動産売買をした格好を装う。そこからカモにする買い手を見つけ、土地や建物を転売する形をとるのが常套手段だ。

浜田山の駐車場詐欺のケースでも内田マイクは、仲間の福田尚人が経営する「ジェイ・パートナーズ」なるコンサルタント会社にくだんの駐車場を売却した体裁をとり、と同時に横浜市内の不動産業者に話を持ち掛けた。福田も逮捕され、すでに一審判決で懲役5年の実刑判決が下っている。

仲間のブローカーとの不動産売買を挟む理由

なぜ、そんな面倒な手続きを踏むのか。そこについて、ある都内の中堅不動産業者が解説してくれた。

「この取引は表向き間に入った福田に手数料や転売の利益を落とさせることを装っているが、実際の目的はそこではありません。福田のジェイ社とニセの地主との土地の売買契約書を作成する。それをもとに買い手に信用させる。それともう一つ、あいだに一枚噛ませて、ばれたとき関係者を逃がすことによって事件をうやむやにできる」

この福田尚人という人物も、昨今の地面師事件にしばしば出てくる。福田をよく知る元山口組幹部はこう話した。

「福田はものになりそうな物件を見つけては、われわれのところにタネ銭を無心に来ます。菱(山口組のこと。代紋の山菱からそう呼ばれる)だけやのうて、関東の住吉なんかにも話が行くと聞いとる」

福田はその筋の世界にけっこう評判がいいようだ。こうも言った。

「福田は単なる詐欺師という感じでもなく、カネには綺麗ですわ。不動産ブローカーのなかには、カネを借りたまま、儲けたら逃げるような奴もおるけど、福田だけはけっこう持ってきよるしね。だから、われわれとも長続きするんと違うかな」

用意周到な犯行計画に「思わぬ誤算」

福田自身、元暴力団組員でもある。地面師は暴力団を金主にして活動資金を得ているケースが多い。それは言い換えれば、彼らの資金を運用する役割を担っていることにもなる。ときに暴力団の末端組員が犯行に加担する場合もあるが、それはむしろ稀なケースかもしれない。地面師たちの活動資金を用意する暴力団の幹部たちは、あくまで闇金融業者的な役割にとどまる。地面師詐欺に加わることもなければ、その犯行の実態なども敢えて聞かない。

一方、地面師として生き残っていく連中は、何度逮捕されても、その背景について口を割らない。それが信用力にもなり、次の仕事をしやすくなる。

ところが、このときばかりは用意周到に犯行を計画するはずの内田たちにとって、ある誤算が生じた。それがなりすまし役である渡邊の残した思わぬ証拠だ。

渡邊はとても几帳面な性格だった。実は一連の事件に加わった渡邊は、普段のとおりに日常の出来事を日記につけていたのである。犯行直前の2011年6月30日の日記帳には、次のような記載があった。

〈八重森から(本当の地主A)名義で、自分の顔写真が表示された運転免許証、印鑑、偽造の印鑑登録証明書などを受け取った〉

捜査する警察にとっては、これが動かぬ証拠となる。日記が内田や八重森との関係性を立証する物証となり、これが地面師たちの命取りになった。

思いどおりに東京の都心や高級住宅地を蹂躙してきた大物地面師はそうして縄を打たれた。だが、それでおとなしく引っこんだわけでもない。

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