ドイツ人が「片づけ」に異常なまでにこだわる理由…「人生の半分は整理整頓」ということわざまであるお国柄

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日本に比べて約1.5倍高い労働生産性、年間266時間短い労働時間、約40%多い平均賃金、GDPは日本を抜き世界第3位……。限られた時間で最高の効率を発揮し、結果を出すドイツのビジネスパーソンは、「片づけ」「整理整頓」をきわめて重要視するという。『ドイツ人のすごい働き方』の著者で、商社駐在員としてドイツ在住17年の西村栄基氏が、そんな彼らから教わった「片づけのコツ」を伝授する。

「人生の半分は整理整頓」ということわざも

帰宅時間の17時が近づくと、同僚たちは一斉に自分のデスクへと向かい、ドイツのオフィスは生き生きとした雰囲気になります。

文房具を片付ける音、書類を整理する音、シュレッダーがフル稼働する音がしたかと思うと、17時には全員がいなくなり、静寂が訪れます。

特に目を引くのは、すべてのデスクが、驚くほど整然として、ほぼ何も置かれていない新品のような状態になっていることです。

この片付けへの異常とも思えるこだわりは、ドイツ人の生き方の基本原則といえます。

「人生の半分は整理整頓(Ordnung ist das halbe Leben.)」

ということわざがあるほどです。

書類を整理するファイルは、分類別にラベルが貼られて整然と並べられていますし、各自の机の上は、作業中でも必要最低限のモノしか置いていません。そして、帰宅時にはすべてが所定の場所に戻されて、何もなくなるのです。

それは、オフィス空間だけでなく、自宅でも同じです。

休日にドイツ人の友人宅を訪れると、どの部屋も完璧に整頓されているのがよくわかります。というのも、はじめて訪れるゲストには、ほぼ例外なく家中の部屋を巡るツアーをしてくれるからです。

玄関、リビング、キッチンはもちろん、書斎や寝室、子ども部屋、地下の作業場など、ありとあらゆる場所です。

はじめて訪れたお宅で、夫婦の寝室まで見せられたときには戸惑ったものです。これにはゲストに隠し事をせず受け入れていることを示す、という文化的な意味もあります。

リバウンドを起こさないシンプルな原則

ある日、同僚のマーチンに、ドイツでなぜ片付けがこれほど重要視されるのか、尋ねてみました。

「私たちドイツ人にとって、整理整頓は生活の基本なんだよね。小さい頃から、親にそのようにしつけられてきて育っているんだよ」

そして、彼はこう付け加えました。

「机の上は頭の中を表しているんだ。仕事を終えて、帰るときに机を片付けることで、頭の中もリセットしているのさ」

彼らの片付けの原則はとてもシンプルです。

「モノを置く場所を決めて、使ったら、元の場所に戻す」

たったこれだけです。つまり、「モノの住所を決めてあげる」のです。

しかし、これを徹底するのは、言うほど簡単ではありません。

基本的に、モノは増えていくものです。

Amazonで衝動的にポチッて届いた段ボール、街で見つけて気に入ってしまった雑貨類、季節ごとに購入する衣類、大切な手紙、友人からもらった海外のお土産……。

こうして増えたモノを、ドイツ人は直ちに整理します。必要なモノと、不必要なモノに分けて、後者はすぐに捨てる。また、必要なモノは置く場所を決める。

そして、同じようなモノを買った場合には、古いモノは捨てる。

こうした基本的なことを徹底するのが、ドイツ流の片付けなのです。

幼い頃からの教育が一生の習慣になる

なぜ、ドイツ人には、このような片付け習慣が身についているのでしょうか?

それはマーチンが言うように、幼い頃からの家庭内教育に由来します。ドイツでは、家庭内においても整理整頓のためのルールが厳密に定められています。

「窓拭きは週に1回、決まった時間をかけて行う」

といった具体的な家事のルールが家族全員に共有されており、属人的要素が排され、日々安定して清潔が保たれているのです。そして、このルールは子どもたちも例外ではありません。家庭内ルール下の一員として、整理整頓の重要性を教えられます。

「整理整頓を覚えなさい。そして好きになりなさい。そうすれば時間と手間を節約してくれるでしょう(Lerne Ordnung, liebe sie. Sie erspart dir Zeit und Mh.)」

こんなことわざもあるくらいです。

といっても、一方的に片付けを強制することはありません。

「なぜ家には片付けのルールがあるのか?」「なぜ整理整頓は大切なのか?」について徹底的に子どもたちと議論します。子どもたちが納得したうえで片付けを身につけるので、一生の習慣となり、職場でも実践するようになるのです。

「5S」をどこでも実践しているドイツ人

日本でもドイツばりに片付け習慣が徹底されている場所はあります。ものづくりの現場では、有名な5Sの原則に基づいて、整理整頓がなされていますね。

・整理(Seiri) 不要なモノを取り除き、必要なモノのみを保持する

・整頓(Seiton) モノを適切な場所に配置し、簡単に取り出せるようにする

・清掃(Seiso) 職場を清潔に保ち、汚れや異物を取り除く

・清潔(Seiketsu) 常に整理、整頓、清掃を行い、職場を清潔な状態に保つ

・しつけ(Shitsuke) 規律を守り、これらの習慣を維持する

私から見ると、これをあらゆる場所で毎日実践し続けているのがドイツ人です。

言うまでもなく、仕事場の整理整頓は、探しものをするムダな時間を削減します。

ライターのZippo社が2014年に実施した調査では、日本人は平均して1ヶ月に76分間、モノを探しているそうです。それは人生80年とすれば、52日間も探しものに費やしていることになり、ばかになりません。

また、整理整頓された環境が集中力を高め、ストレスを減らすことも、さまざまな研究から明らかになっています。

限られた業務時間内で探しものをするムダを排し、整理された環境でストレスフリーに働く。生産性の高さの秘訣のひとつに、整理整頓の習慣があることは間違いありません。

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