N-BOXジョイのフロントフェイス(写真:本田技研工業)

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2024年9月20日に発売されたスズキの新型軽乗用車「スペーシア ギア」と、2024年9月27日に発売されたホンダの新型軽乗用車「N-BOXジョイ」(写真:本田技研工業/スズキ)

激しいシェア争いが続く軽スーパーハイトワゴンのジャンルに、SUVスタイルの最新2タイプが市場投入された。2024年9月20日には、スズキ「スペーシア」の派生機種として新型「スペーシア ギア」が登場。2024年9月27日には、ホンダ「N-BOX」の新グレードとして「N-BOXジョイ」がそれぞれ発売されたのだ。

いずれも、近年人気の高いアウトドアをイメージさせる装備などを加味したモデルで、直接のライバル関係となることは間違いなし。しかも、発売日は1週間違いとかなり近い。まさに、ガチンコ勝負は必至となりそうな2機種だが、各モデルの商品性や魅力などには、どんな違いがあるのだろうか。それぞれを比較することで、浮き彫りにしてみたい。

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9月にアウトドアを意識した新型2機種が登場

新型2タイプは、どちらもホンダとスズキを代表する人気機種で、つねに新車販売台数で首位争いを繰り広げているN-BOXやスペーシアの派生タイプだ。

スペーシア ギアは、2018年に2代目スペーシアをベースとした先代モデルが登場。今回発売された新型は、2023年11月に出た3代目スペーシア(スタンダードとカスタム)をベースとし、各部をリニューアルしたモデルチェンジ版だ。

一方、N-BOXジョイは、2023年10月に登場した3代目N-BOX(スタンダードとカスタム)をベースとし、今回初設定した新グレード。いずれも、内外装にアウトドアの雰囲気を演出するほか、車中泊や野外レジャーなどでの使い勝手を考慮した装備などをプラスしていることが特徴だ。


N-BOXジョイのフロントフェイス(写真:本田技研工業)

外観の特徴だが、まずN-BOXジョイは、角を丸くしたスリット入りのフロントグリルや、ブラックの樹脂製ロアカバー部とボディカラー部をミックスしたフロントバンパーなどを採用。ちょっと愛嬌もある丸目のLEDヘッドライトにも、アルミ蒸着を施すなどで、アウトドア用ギアの道具感などを演出したフロントフェイスが印象的だ。

また、ボディサイドのドアロアーガーニッシュやリアバンパーなどにも専用デザインを採用。加えて、前後14インチホイールも当グレードのオリジナルとし、NAエンジン車はハーフキャップ仕様、ターボ車にはメッキリングも追加した仕様を設定する。

ボディカラーは、2トーンカラー5色とモノトーン2色の全7タイプを設定。とくにルーフ部がすべてブラックとなる2トーン仕様では、主にアースカラー系のボディ色を採用。N-BOXシリーズ初採用となるデザートベージュ・パール&ブラックやボタニカルグリーン・パール&ブラックなどは、アウトドア風味をより強調する色調で、このモデルのイメージを顕著に表したカラーだといえる。

新型スペーシア ギアのエクステリアについて


スペーシア ギアの外観(写真:スズキ)

一方、新型となったスペーシア ギアの外観。とくに印象的なのはフロントフェイスで、メッキブロックのフロントグリルを採用することで、先代モデル以上に力強い雰囲気を醸し出している。また、前後バンパーには、凹凸が連続するデザインのスキッドプレートを採用し、SUVらしさを強調。サイド・アンダーガーニッシュには、複数の多角形ブロックを結合したグラフィックを施すことで、よりワイルドな雰囲気も加味する。

さらにオレンジの「GEAR」ロゴを配したサイドドア・ガーニッシュにより、遊びゴコロも演出。プラスのネジをモチーフとした14インチホイールは、こちらも専用デザインだ。ほかにもルーフキャリアなどの装備が楽にできるルーフレールも標準装備する(N-BOXジョイは未設定)。

ボディカラーは、2トーンカラー6色とモノトーン3色の全9タイプを設定。2トーン仕様のボディには、N-BOXジョイと同様にアースカラーを多用し、ガンメタリックのルーフ色とのマッチングで、ギア感とアウトドアの雰囲気を両立させている。


N-BOXジョイのサイドシルエット(写真:三木宏章)

両モデルのラインナップは、いずれもNA(自然吸気)エンジン車とターボエンジン車を用意。駆動方式は、全タイプに2WD(FF)と4WDを設定する点も同じだ。

また、両モデルのボディサイズは、N-BOXジョイが全長3395mm×全幅1475mm×全高2WD(FF)1790mm/4WD1815mm。対するスペーシア ギアは、全長3395mm×全幅1475mm×全高1800mm。全長や全幅は同じで、全高はN-BOXジョイの2WD(FF)のほうがやや低く、4WDのほうが多少高くなる。だが、2モデルの車格は概ね同じと考えていいだろう。

室内空間や収納を比較


N-BOXジョイのインテリア(写真:本田技研工業)

両モデルの個性は、室内のシート表皮などにも現れている。とくにN-BOXジョイでは、チェック柄ファブリックを全タイプに採用する点がトピックだ。各シートのメイン部(座面、背もたれ)、フロントシートアームレスト、リアシート背面、スライドボード上面に適用。また、カラーリングには、汚れの目立ちにくいベージュに、補色関係にあるオレンジやブルーの色糸もミックスすることで、ポップな印象と落ち着いた色彩を両立する。クルマ用シート表皮には黒系やグレー系の多いなか、かなり思い切った色調や柄の採用だ。さらに、撥水素材を用いることで、飲み物などをこぼしても簡単に拭き取ることが可能。アウトドア・ユースでの使い勝手も考慮した素材選びを行っている。


スペーシア ギアのインテリア(写真:スズキ)

対するスペーシア ギアのシート表皮は、こちらも撥水加工のファブリックを採用。色調はオーソドックスなグレー系だが、山の稜線や歯車、タイヤパターンなどをイメージした意匠を採用。立体的なエンボス加工による凹凸感などと相まって、遊びゴコロと機能性を演出する。

また、運転席と助手席のシートバック・アッパーポケットには、人気のサコッシュバッグをイメージしたメッシュタイプを採用。運転席側には、山を登る「スペーシア ギア」をあしらったイラストタグも配置するなど、各部に外遊びをイメージさせる数々のギミックも施している。

両モデルの室内サイズは、N-BOXジョイで長さ2125mm×幅1350mm×高さ1400mm。対するスペーシア ギアは長さ2170mm×幅1345mm×高さ1415mm。スペック上では、長さや高さはスペーシア ギア、幅ではN-BOXジョイのほうがやや余裕ある感じだ。

また、両モデルは、セカンドシートの背もたれを前へ倒すことで、フラットな荷室を作ることも可能。自転車など大柄な荷物の積載をはじめ、車中泊やアウトドアで足を伸ばして横になれるリビングなどとして使うことができる。


セカンドシートを収納したN-BOXのラゲージスペース(写真:本田技研工業)

とくにN-BOXジョイでは、N-BOXシリーズの特徴であるダイブダウン機能を備えるため、よりフラットな荷室とすることが可能だ。ダイブダウンとは、セカンドシートの背もたれを座面と一緒にフロアへ収納できる機能のこと。通常は後席や荷室の下にある燃料タンクを前席下へ配置する「センタータンクレイアウト」という技術により可能とする。

荷室をリビングに見立てたN-BOXジョイ


N-BOXジョイは、セカンドシートを収納するとフルフラットになり、リビングとしても使える点が魅力(写真:本田技研工業)

N-BOXジョイでは、この機能をアップデートし、よりアウトドアなどでリラックスできる工夫を施していることもポイントだ。まず、フロア後端を、ほかのN-BOXシリーズ(スタンダード、カスタム)と比べ80mm高く設定。従来モデルでは、荷室の角度がやや後端へ傾くのに対し、N-BOXジョイでは、より平行に近い仕様としている。これにより、たとえば、大人2名がフロントシート背面に寄りかかり、ノンビリと足を伸ばしやすい設定を実現する。また、セカンドシート背面にはプレートも追加し、人が座ったり、横になったりした際に、背面内にあるシートフレームによる凹凸を感じない工夫も施している。

ちなみに、ホンダでは、N-BOXジョイの荷室を「ふらっとテラス」と呼ぶ。これは、荷室をフラットにすれば、テールゲートを開けて大自然などをゆったりと眺められるテラスのように使うことができるという意味だ。前述のチェック柄ファブリックが、荷室をフラットにした際に目立つようになっているのも、こうした快適スペースの雰囲気を演出するためだ。N-BOXジョイは、これらの点からも、ほかのN-BOXシリーズと比べ、よりアウトドアでの使い勝手を優先した仕様だといえる。


スペーシア ギアもセカンドシートの背もたれを倒せば、自転車などを積載できるスペースが広がる(写真:スズキ)

なお、スペーシア ギアのセカンドシートも、前述のとおり、背もたれを前に倒すことは可能。だが、座面と背もたれをN-BOXシリーズのようにフロアへ収納することはできない。そのため、荷室は、前方がかなり高く、後端へ行くほど低くなる。荷室をくつろげる空間として使える点では、N-BOXジョイのほうが上だといえるだろう。

ただし、スペーシア ギアのセカンドシートには、N-BOXジョイやほかのN-BOXシリーズにはない機能もある。「マルチユースフラップ」がそれだ。シート座面の前方に設けた可動式のフラップのことで、スペーシアのスタンダードやカスタムに新採用した機能を、スペーシア ギアにも投入する。特徴は、フラップの位置や角度を調整することで、3つのモードを選択できることだ。足を伸ばして座ることができる「オットマンモード」、走行中に乗員の姿勢安定をサポートする「レッグサポートモード」、走行中にセカンドシートに載せた荷物の落下を予防する「荷物ストッパーモード」を設定できる。


荷物ストッパーモードにしたマルチユースフラップ(写真:スズキ)

ちなみに、スズキの販売店によれば、3モード中で「とくに、ユーザーから好評なのは荷物ストッパーモード」だという。買い物など、日常の足としても使う軽スーパーハイトワゴンの場合、セカンドシートを倒さずに、そのまま座面に荷物を置くシーンは多い。マルチユースフラップの荷物ストッパーモードは、そうした際に、たとえば、ブレーキにより荷物が後席のフロアに落ちてしまうことを予防できる機能だ。先に装備されたスタンダードやカスタムでも好評なだけに、同様の機能を持つスペーシア ギアは、アウトドアに限らず、日常使いでの高い利便性を誇る点も魅力といえるだろう。

装備を比較

軽スーパーハイトワゴンでは、もはや定番といえるリアの電動スライドドアも、両モデル共に装備する。N-BOXジョイでは、ターボ車の場合、助手席側と運転席側の両側に標準装備。NAエンジン車では、助手席側のみ標準装備で、運転席側はオプション設定だ。一方、スペーシア ギアでは、ターボ車とNAエンジン車共に両側へ標準装備する。これにより、利便性の高い装備を、よりリーズナブルに使える点では、スペーシア ギアのほうが上といえるだろう。


スペーシア ギアのステアリングヒーターのイメージ(写真:スズキ)

ほかにも、スペーシア ギアでは、寒い日も手を温めてくれるステアリングヒーターを標準装備する。対するN-BOXジョイでは、運転席と助手席にシートヒーターを設定する。また、収納関係では、N-BOXジョイが、荷室後端に「フロアアンダーボックス」を用意するのに対し、スペーシア ギアでは助手席下に「シートアンダーボックス」を設定。N-BOXジョイのフロアアンダーボックスは、折りたたみ式のアウトドアチェアやテーブルなどを収納することを想定。より大容量のシートアンダーボックスを備えるスペーシア ギアでは、濡れたり、泥で汚れたりした衣服などの収納も可能だ。なお、どちらのボックスも、脱着がとても簡単にできるため、ユーザーや状況などに応じ、多様な使い方をすることができる。

パワートレイン・燃費を比較

両モデルのパワートレインは、いずれも658cc・水冷直列3気筒エンジンを採用。スペックは、N-BOXジョイのターボ車が最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク104N・m(10.6kgf-m)/2600rpm。NAエンジン車は最高出力43kW(58PS)/7300rpm、最大トルク65N・m(6.6kgf-m)/4800rpmだ。

対するスペーシア ギアでは、ターボ車が最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98N・m(10.0kgf-m)/3000rpmで、N-BOXジョイとほぼ互角。だが、NAエンジン車は最高出力36kW(49PS)/6500rpm、最大トルク58N・m(5.9kgf-m)/5000rpmだから、N-BOXジョイのNAエンジン車と比べるとやや非力だ。

ただし、スペーシア ギアでは、ターボ車とNAエンジン車の両方にマイルドハイブリッドシステムを採用している。このシステムは、発進時や加速時などに、電動モーターがエンジンをアシストすることで、スムーズな走りと高い燃費性能を両立することが特徴。一般的なハイブリッドのように、モーターのみで走るEVモードなどはないが、そのぶん、構造をシンプルにでき、走行用のモーターやバッテリーを小型にできるメリットがある。とくに、部品搭載スペースの少ない軽自動車に向いているシステムだ。

スペーシア ギアでは、このマイルドハイブリッドシステムの効果が出ているためか、とくに燃費性能が良好だ。いずれもWLTCモード値で、ターボ車では、N-BOXジョイが18.4〜20.2km/Lなのに対し、スペーシア ギアは19.8〜21.9km/L。NAエンジン車では、N-BOXジョイが19.3〜21.3km/Lなのに対し、スペーシア ギアは22.4〜23.9km/L。エンジンのタイプを問わず、スペーシア ギアのほうが上回っている。燃料タンク容量は、N-BOXジョイで25〜27L、スペーシア ギアで27Lとほぼ同じ。あくまで、スペック上の計算だが、1回の満タンで走行可能な距離がより長いのは、スペーシア ギアのほうだといえる。

運転支援・先進安全装備を比較


スペーシア ギアの電動パーキングブレーキ(写真:スズキ)

両モデルでは、さらにスイッチ操作でパーキングブレーキをオン/オフできる「電動パーキングブレーキ」を装備。発進時にアクセルペダルを踏めば、自動的に解除されるため、解除忘れなどでパーキングブレーキを引きずったまま走ることがないのも便利な点だ。また、停車時にブレーキペダルを踏み続けなくても停止状態を保持する「オートブレーキホールド」も採用。ストップ&ゴーが続く渋滞路などでの疲労軽減にも貢献する。

加えて、駐車時の支援機能を持つセンターモニターなどもオプション設定。ホンダがマルチビューカメラシステム、スズキが全方位モニター用カメラと呼ぶ機能だ。これらにより、両モデルでは、バック駐車時にクルマをまるで上空から見下ろしたような映像を見たり、前進する際に前方の死角を映し出す映像などを見ることも可能。状況に応じた映像により、多様なユーザーの運転をサポートしてくれる。

両モデルは、先進安全装備もかなりの充実ぶりだ。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制機能など、近年の新型車では、もはや軽自動車でも当たり前といえる数々の機能を有する。また、高速道路などで設定速度での走行や、適切な車間距離を保ちながら先行車を自動で追従する「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」も、両モデル共に標準設定。いずれも、渋滞などで前車が停止したときは、自車も停止する渋滞追従機能付きだ。また、スペーシア ギアのACCは、カーブを認識すると速度の抑制を行う機能なども採用。高速道路などのACC作動時も、乗員により安心感を与える装備が加わっている。

さらにスペーシア ギアでは、メーターやナビ画面などの情報を、運転席前方のフロントウインドウ付近に映し出す「ヘッドアップディスプレイ」も採用。運転に役立つ情報を、前方の視線の先に焦点を合わせやすいように表示することで、視線の移動を減らし安全運転をサポートする。

価格差はわずか、まさにライバルの2台


アウトドアテイストなスタイリングが魅力的なN-BOXジョイ(写真:三木宏章)

両モデルの価格(税込み)は、N-BOXジョイがターボ車204万4900円〜226万500円、NAエンジン車184万4700円〜206万300円。スペーシア ギアは、ターボ車203万7200円〜215万7100円、NAエンジン車195万2500円〜207万2400円。ターボ車ではスペーシア ギアが比較的安く、NAエンジン車ではN-BOXジョイがやや安い印象だ。ただし、実際は、どんなオプションを選ぶかなどで購入金額が変わってくるので、注意したい。

いずれにしろ、両モデルは、価格帯的にかなり近いことは確かだ。そうなると、内外装デザインの好みや、どんな装備を重視するかなどが、選ぶ際のポイントになるだろう。たとえば、よりワイルドな顔付きがいいならスペーシア ギア、ちょっと愛嬌もあるフェイスデザインであればN-BOXジョイといった感じだ。


スペーシア ギアのリアビュー(写真:スズキ)


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また、アウトドアでセカンドシートを倒し、荷室をくつろぎのスペースとして使うのであれば、N-BOXジョイがいいだろう。反対に、セカンドシートに載せた荷物の落下防止など、マルチユースフラップによる普段使いの高い利便性も欲しいならスペーシア ギア。両モデルは、商品性も肉薄しているため、あとは各ユーザー個々の嗜好や使い方などが、どちらを購入するかの判断基準になるといえる。

ともあれ、近年のSUVブームやアウトドア人気にマッチさせたこれら2モデルが、今後、市場からどのような反響を受けるのかが興味深い。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)