よく考えてほしいのだが、自身の任期が最長4年と決まっているトップが、「長期の未来への腹落ち」をさせることが可能だろうか?(写真:塩大福/PIXTA)

「宗教」と「優れた企業経営」には実は共通点があり、「現代の強い企業」は、いい意味で「宗教化」していく

それらの主題をもとに、世界の宗教事情に精通したジャーナリストの池上彰氏と、『両利きの経営』の解説者で早稲田大学教授の入山章栄氏が語り合った『宗教を学べば経営がわかる』が発売された。

同書を再編集しながら、「宗教」と「優れた企業経営」を理解するうえで最重要理論のひとつ「センスメイキング理論」に触れつつ、「日本の社長は任期が短すぎることの問題点」と「独裁になるのでは?という懸念についての解決策」を入山氏が解説する。

「トップの任期の短さ」が足かせに

前回の記事(「いい意味の"宗教化"」が日本企業に足りなすぎだ)で述べたとおり、日本企業の多くはいい意味での「宗教化」が足りない

センスメイキング(宗教化)が浸透しないため、企業は「遠い未来へ」の腹落ちができず、結果、リスクがとれず、イノベーションが創出されないという状況に陥っている。

では、日本企業が「いい意味で宗教化」するうえで、カギは何か?

私からひとつ重要な論点を挙げたい。

これは特に大手・中堅の伝統的な企業(特に上場企業)に向けてのものだが、これらの企業の最大の課題は、経営トップの在任期間が任期制になっており、しかも短いことだ。

たとえば大手上場企業の中には、社長の任期が2年2期あるいは3年2期などと決まっているところが多い。

しかし、よく考えてほしいのだが、自身の任期が最長4年と決まっているトップが、「長期の未来への腹落ち」をさせることが可能だろうか?

どう見ても、自分の任期内のことしか考えられないので、「センスメイキング」は不可能なのだ。教祖の在位が4年で終わると決まっている教団では、信者は腹落ちできないのである。

実際、私の周りでイノベーションを引き起こしている日本企業は、トップの任期が長い

だからトップが「遠い未来の視点」を持つことができ、社内外に自分の描く遠い未来を浸透させ、「腹落ち」させ、結果として社員が「知の探索」を行い、やがてイノベーションを生んでいくのだ。

経営者から社員まで全員「腹落ち」している会社は強い

たとえば大阪に本社を置くロート製薬は、イノベーションを起こしながら今もどんどん成長している。


もともとは目薬など医薬品中心の企業だったが、少し前からはスキンケア分野に参入して、「機能性スキンケア製品」というイノベーションを起こしている。

女性の方なら、「オバジ」「メラノCC」「肌ラボ」などの製品をご存じだろう。あれらはロート製薬の製品だ。

実は私は同社の社外取締役なのでよくわかるのだが、なぜロート製薬がこれだけのイノベーションを生み出せるかというと、経営者から社員までが同社のやるべきこと、作るべき未来に腹落ちし、「知の探索」を絶え間なく続けていることが大きい。

いい意味で「宗教化」しているからこそ、イノベーションを生み出せているのだ。

一方、このような反論があるかもしれない。

「でも、トップの任期を無制限にすると、やがて独裁化するのではないか」という懸念だ。

その通りだ。

だからこそ、コーポレートガバナンス(企業統治)改革が重要になるのである。

「やがて独裁化する」懸念の解決法

昨今注目のコーポレートガバナンスだが、私の理解では、その最大の要諦は「業績を上げられず、『知の探索』もできないトップを、社外取締役が解任すること」である。


社外取締役の最大の仕事は、社長・CEOの選解任だ。だからこそ社外取締役は、数だけでなく、質が重要なのだ。

「知の探索」ができる社長なら、どんどん応援し、長期で政権を任せる

他方、業績がどうしても上がらず、「知の探索」もセンスメイキングもできないなら、その社長を思い切って解任する。

この胆力が、社外取締役に求められているのだ。

この意味で、本連載では「企業の宗教化」が重要と述べているが、ただ宗教団体の真似をすればいいのではない

ガバナンスを徹底化することで、現代的な「規律のとれた宗教」を目指すべきなのである。

(入山 章栄 : 早稲田大学ビジネススクール教授)