お菓子を食べる石破総理

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 自民党総裁選と首班指名が終わり、石破茂氏が新総理に選出された。今総裁選については既にさまざまな分析がなされているが、テレビの視聴率やSNSの世界を見ると、変わらぬ「シルバー・デモクラシー」ぶりが浮かんでいる。

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新総裁決定の瞬間が最高視聴率

 テレビマンは毎日必ず番組の視聴率に目を通す。平均視聴率を見るだけではなく、1分単位で視聴率が推移する折れ線グラフを視聴者の年代ごとに細かく見て、その変化から視聴者の動向を分析する。

 総裁選の投票日、9月27日はNHKが投票から開票までを生放送で伝えていた。14時06分頃に一回目の投票が終わり、14時38分頃から決選投票が始まり、15時22分頃に石破新総裁が決定した。この間、視聴率はどのように推移したのだろうか。当初、個人視聴率は2〜3%台で推移をしている。新総裁が決まる15時22分が近づくと大きく視聴率は伸び、最高で5.7%に。そして決定後はどんどん下がり、5分後には4%台に、20分後には3%台となっていた。視聴率グラフは山のような形を描き、頂点が新総裁決定の瞬間である。

お菓子を食べる石破総理

 スポーツ中継などでも最も劇的なタイミングが視聴率の山にはなるのだが、ムーブメントが大きいほど、ヒーローインタビューなども含めて視聴者の減りが緩やかになる。今回の総裁選生中継の山の形をみると、頂点の後の視聴率の落ち方が激しい。

 さらにどの年代が開票中継を見ているのか、視聴率を視聴者年代別にみていくと明らかになることがある。視聴率上昇に寄与しているのはM3と呼ばれる50歳以上の男性が主なのだ。彼らはボリュームの大きいゾーンだけに、全体の視聴率を押し上げてはいるものの、40代以下の層は放送を通じ、男女ともひたすらフラットな線に近い。つまりその世代は総裁選の行方に興味があるというよりも、なんとなくテレビをつけているだけの人がいるという状況にみえる。

当日夜の看板ニュース番組でも若者には響かず

 投開票が終わると石破氏は、テレビ局を行脚し、生出演をした。地上波の毎分視聴率を見ていくと、テレビ朝日の「報道ステーション」、テレビ東京の「WBS」、日本テレビの「news zero」といずれの看板ニュース番組でも、視聴のメイン層は50歳以上の男性だった。例えば、「news zero」では、民放が本来強いはずの35歳から49歳の男性の視聴率も、石破氏の出演直後は上昇をしたものの、すぐに“下げ”に転じてしまう。「報道ステーション」では女性の50歳以上も多かったが、逆に35歳から49歳の男女は反応が少なかった。さらに「WBS」でも50才以上の男性と女性は急上昇しているが、3〜40代以下は多少上がった程度だ。ちなみに、この出演では、日経平均が下落していることを問われ、「日銀との密な連携」「貯蓄から投資への流れをもっと加速していかなければならない」などと発言し、株価への不安を打ち消そうとした。しかしこの説明に市場は説得力を感じなかったのか、週明けには株価が一時2000円を超えて暴落した。

 夜のニュース番組は、昼間仕事をしている、いわゆる働き盛りの50才以下にとっては、その日の出来事や日頃気になっていることを落ち着いてみられる重要コンテンツである。大きな関心事のニュースがある際にはきわめて相性が良いが、今回の視聴率の推移をみると、残念ながらそうした層にとって、石破氏の総裁就任が大きな関心事とはなっていないことが裏付けられる。

 9名の候補者を並べ、1カ月以上に亘ってテレビをジャックし、その流れのまま総選挙へなだれ込むというのが自民党のシナリオだったが、視聴率から見て取れるのは、その効果が出たのは、主に高齢男性に対してであったことである。

「テレネット政治」が残した課題は?

 現代政治は、テレビとSNSを存分に駆使する「テレネット政治」と言われる。

 総裁選を通じ、ネット、とりわけ若い有権者向けへのアピールの場であるSNSはどうだったのか。

 候補者9名のInstagramを見ると、ソフトな内容が目に付いた。各候補とも、選挙運動の様子を写真や動画でアップするのが主。中には、「鉄道模型」を見せたり(石破総理)、「たわし頭」と言われるヘアスタイルをセットする動画を上げたり(加藤勝信氏)と、面白おかしいコンテンツも投下された。

 SNSでの政策や選挙発信戦略に詳しい専門家、鍛地あさ子氏は手厳しい。

「各候補ともウケを狙うような軽い動画や人物紹介が主流だった。しかしSNSは本来、政策をわかりやすく伝えたり、若者と候補者を本当の意味でつなぐ民主主義を変える道具になると思っています。政治家は若者にウケることを狙うのではなく、自らの政策をわかりやすく伝えることにも有益にSNSを活用してほしい」

 本質的な発信がなされなければ、結局は若者の政治不信は拭えず、高齢者ばかりが関心を持つ投票行動は変わらない。その結果、高齢者の主張ばかりが反映されていくことになれば、まさに「シルバー・デモクラシー」である。政治家が若者を置き去りにしている実態は、まさに日本にとっての危機である。

多角一丸(たかく・いちまる)
元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト

デイリー新潮編集部