目や皮膚の健康に関わるビタミンAの前駆体であるβ-カロテンの含有量を大幅に増やした「ゴールデンレタス」を作り出すことに、スペインのバレンシア工科大学やスペイン国立研究評議会(CSIC)の研究チームが成功しました。

Boosting pro‐vitamin A content and bioaccessibility in leaves by combining engineered biosynthesis and storage pathways with high‐light treatments - Morelli - 2024 - The Plant Journal - Wiley Online Library

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.16964



Noticia UPV: A team from the IBMCP (UPV-CSIC) has developed a technique that multiplies the beta-carotene content in plant leaves. | Universitat Politècnica de València

https://www.upv.es/noticias-upv/noticia-14794-superlechugas-en.html

Scientists Made a Golden Lettuce That Comes With a Vitamin Boost : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/scientists-made-a-golden-lettuce-that-comes-with-a-vitamin-boost

ビタミンAは目や皮膚の粘膜を健康に保つ役割を持つ必須栄養素であり、不足すると夜盲症などの視覚障害や感染症リスクの増加といった問題を引き起こします。βカロテンはそんなビタミンAの前駆体であり、通常はニンジンやホウレンソウなどに豊富に含まれています。しかし、2023年の研究では特に低所得層においてビタミンA欠乏症が深刻であり、世界中で数億人の発育に悪影響を及ぼしていることがわかりました。

飢餓や栄養失調に対処する取り組みの中で注目されているのが、食品に含まれる微量栄養素の量を増やす「biofortification(生物学的栄養強化)」というアプローチです。すでに生物学的栄養強化により、βカロテンを豊富に含む「ゴールデンライス」やイモ類などは開発されていますが、葉物野菜でβカロテン含有量を増やすことは困難だったとのこと。

葉物野菜でβカロテン含有量を増やすのが難しい理由は、光合成を行う葉緑体においてβカロテンを含むカロテノイドが光合成に関与しているためです。CSICの分子生物学者であるマヌエル・ロドリゲス・コンセプシオン氏は、「葉が正常に機能するためには、葉緑体の光合成複合体に含まれるβカロテンのようなカロテノイドが必要です。葉緑体の中でβカロテンが生成される量が多すぎたり少なすぎたりすると、葉緑体は機能しなくなって葉は枯れてしまいます」と述べています。



そこで研究チームは、バイオテクノロジー技術と高強度の光照射を組み合わせることで、光合成などの重要なプロセスに影響を与えずにβカロテンの産生と蓄積を増加させる研究に取り組みました。

1つ目のアプローチは、バイオテクノロジーを用いて生合成酵素をコードするように操作し、通常はβカロテンの産生を行わない細胞質基質(サイトゾル)と呼ばれる領域でβカロテンを産生できるようにするものでした。これによって産生された余分なβカロテンの一部も、細胞質基質に蓄えられたとのことです。

そして2つ目のアプローチは、一部の葉緑体を光合成を行わないカロテノイド過剰蓄積体に変換するというものでした。このアプローチにより、通常はβカロテンを蓄積しないplastoglobule(プラストグロビュル)という顆粒(かりゅう)に、高レベルのβカロテンが蓄積するようになりました。

2つのアプローチを組み合わせ、さらに通常時(50W)の10倍に相当する500Wもの高強度の光にさらしながら3日間育てることで、通常時と比較して体内に吸収されやすいβカロテンの量は30倍に増加したとのことです。論文の筆頭著者である分子生物学者のルカ・モレリ氏は、「分子技術や強力な光処理によってプラストグロビュルの形成と発達を促すと、βカロテンの蓄積量が増加するだけでなく、生物学的アクセス性(バイオアクセシビリティ)も向上します。すなわち、食物マトリックスから抽出され、消化器官で吸収されやすくなるのです」と述べています。

研究チームは上記の方法をNicotiana benthamiana(ベンサミアナタバコ)というモデル植物で実験した後、食用のロメインレタスに適用しました。処理を行ったレタスを高強度の光で育てた結果、大幅にβカロテン含有量の増加が確認され、その影響で葉は黄色っぽくなりました。その色合いから、このレタスは「ゴールデンレタス」と名付けられました。



コンセプシオン氏は、「私たちの研究は、バイオテクノロジー技術と高照度処理を組み合わせることで、通常βカロテンが存在しない細胞の区画で、βカロテンを産生・蓄積することに成功しました」と述べました。

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