店頭に並ぶ中古車のイメージ。一般的な中古車は、車種やグレード、走行距離などによって中古車相場が形成されている(写真:yamahide/ PIXTA)

中古車と言っても「1人のオーナーが複数年所有したクルマ」や「複数オーナーが乗り継いだクルマ」、さらに「ディーラーなどで展示車や試乗車として短期間だけ運用されたクルマ」など、その素性はさまざまであり、一度でも使用されれば中古車という括りにまとめられる。

中古車の使われ方や状態などは千差万別で、そこで価格差が生まれる。とはいえ、車種やグレード、年式や走行距離によって、ある程度の価格情報が形成されており、これがいわゆる「相場」というモノになる。よく中古車相場と言われるものだ。

とくに市場に流通量の多い人気車種や大衆車などはサンプル数が多くなり、より確固たる中古車相場が形成され、どの店舗でも近い年式、グレード、走行距離の車両は、似たような価格で店頭に並べられることになる。

なぜ相場よりも安いクルマが存在するのか?

中古車は、通常であれば、車種やグレード、走行距離、状態などにより、どの店舗でも似たような販売価格になる。しかし、中にはこの相場から大きく外れた価格を掲示している店舗が存在することがある。これは一体どういうことなのだろうか。

相場よりも高い中古車は、走行距離が極端に短かったり、未使用に近い状態だったり、人気のアフターパーツが豊富に装着されているなどの付加価値が備わっていることが多く、納得できる人が多いと思うが、気になるのは相場よりも安い中古車だろう。一般的な相場よりも安いとお得に感じる反面、「なにかトラブルを抱えているのでは?」「修理などにお金がかかるのでは?」と考えてしまう読者も多いだろう。

昔は客寄せの“おとり広告”もあったが……


店頭に並ぶ中古車のイメージ。中古車を探していると、相場よりも安い価格で販売されている車両を目にすることもある(写真:yamahide/ PIXTA)

昭和の時代であれば、相場よりも大幅に安い中古車を中古車情報誌や広告などに掲載しておいて、それを目当てに来店した客に「その車両は売れてしまいまして……。別にこの車両ならご案内できます」というような“おとり広告”と呼ばれる手法も存在していた。

また“総額〇〇万円”という情報を見て店舗に出向いたところ、「購入するには別途オプションの装着が必須」であるとか「この点検・保証パックに入らないと売ることができない」などといって、当初の総額表示をはるかに超える金額を提示されるというケースも存在していた。

しかし、おとり広告はれっきとした景品表示法違反になり、2023年10月1日からは中古車の支払総額表示が義務化されたので、大手の中古車情報誌や情報サイトに掲載されている店舗のほとんどがこういった悪質な手法は使っていないと考えていいだろう。

もちろん、走行距離を少なく改ざんする“メーターの巻き戻し”を行う、また修復歴や水没歴を隠して販売するといった悪質な手段を使って相場より安い価格で販売している可能性もあるが、しっかり看板を掲げている中古車販売店であれば、そのようなトラブルに巻き込まれることもほぼゼロと言える。

では、「なぜ相場よりも大幅に安い中古車が存在するのか」という点だが、中古車販売店も商売であるから当然、利益と経費が発生する。そこに相場よりも安く中古車を販売できる理由が隠されているのだ。

中古車にかかる経費は大小さまざまだが、最も大きなものが車両を仕入れるためにかかる費用だ。ほかにも仕入れた車両の商品化に必要なクリーニングや点検整備、店舗運営にかかる費用や人件費などもあり、車両を販売する場合は、それらの費用に利益を乗せて、相場にあった金額で店頭に並べることになる。

そして、中古車販売店は、専門業者だけが利用できる「業者オークション」と呼ばれる場所でクルマを仕入れるのが一般的だ。この業者オークションで中古車を仕入れると、落札金額のほかに消費税はもちろんのこと、手数料やオークション会場から店舗までの運搬費など細々とした費用も発生してしまう。車両本体価格のほか、さまざまな費用が上乗せされるのだ。

つまり、これらの費用を極限まで圧縮することができれば、販売価格も下げることができるのだが、それを現実する方法のひとつが“下取車”である。

お得感の高い下取車とは?


下取りとは、クルマを購入する際に、現在乗っているクルマを購入した店舗に買い取ってもらうサービス(写真:Luce / PIXTA)

下取車とは、クルマを購入する際に、カーディーラーや中古車販売店に現在乗っているクルマを買い取ってもらうシステムのことだ。ユーザーから直接クルマを買い取る下取車であれば、業者オークションに関わる費用は一切かからないし、そのユーザーが既存客であれば、車両の状態もある程度把握できているため、商品化にかかる費用なども逆算できる。そうなれば、そこに一般的な利益をプラスしても、ほかの販売店の同等の車両よりも安い価格で店頭に並べることができるというワケだ。


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もちろん、中古車業者の中には、安く仕入れた下取車に対して、通常よりも利益を上乗せして、一般的な相場に近い販売価格まで引き上げてしまう業者がいる可能性もある。ただし、中古車業は、店頭在庫を抱えるより、在庫を回転させてナンボということもある。他店よりも安い金額で店頭に並べることができれば目玉商品になり、回転率を上げるという副産物的な効果も生まれるため、ほとんどの店舗が魅力的な価格で店頭に並べるという選択をするだろう。

このように、稀に登場する相場よりも安い中古車の多くは、店頭に並ぶまでのコストをカットした結果であることがほとんどで、ユーザーが危惧しがちな悪質店とは一線を画すものと言える。もし、どうしても気になるのであれば、安い理由を店舗に聞いてみて怪しいと感じたら購入を避ければいいだけなのだ。実際に店頭で安い理由を確認すると、下取車であったり、業者オークションを介さずに直接買い取りした車両だったりすることが多いのだ!

(小鮒 康一 : フリー(ライ)ター)