FDA承認済みの電気式耳鳴り治療装置「Lenire」の査読済み論文が公開される
舌を電気により刺激することで耳鳴りの改善を行う装置「Lenire」が開発され、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けました。FDAの認可の決め手となった論文が、査読を受けて公開されました。
Combining sound with tongue stimulation for the treatment of tinnitus: a multi-site single-arm controlled pivotal trial | Nature Communications
Neuromod’s Tinnitus Treatment Device Validated by Clinical Trial Results | The Hearing Review
https://hearingreview.com/hearing-products/tinnitus-devices/neuromods-tinnitus-treatment-device-validated-by-clinical-trial-results
「耳鳴り」は人口の10〜15%が罹患(りかん)していると推定されていて、このうち2〜8%は重度の症状を患っているとされています。罹患者の数にもかかわらず治療の選択肢が限られていることが課題であり、これまでは特定の音を聞かせるなどの治療法が試みられてきました。
耳鳴りの治療法の1つとして有効性が検証されているのが、末梢(まっしょう)神経に刺激を加えるという方法です。複数の動物実験やヒトを対象にした臨床試験では、三叉神経などの末梢神経に電気刺激を加える方法に音の治療を組み合わせると、耳鳴りの症状を改善できることが確かめられています。そのうち、耳鳴りの原因と考えられる聴覚皮質等に最も効果的に作用するのは「舌への電気刺激」であることが実証されているそうです。
Neuromod Devicesが開発したLenireは、音に加えて舌に電気的な刺激を加えることで耳鳴りを治療するというデバイスです。
Lenireは、ステンレス製の電極を備えた機器を口の中に入れ、舌に押し当てて使用します。
機器は刺激の強さを調整できるコントローラーにつながっています。
もう1つ、コントローラーと特別にペアリングされたヘッドフォンもあります。
舌を刺激しつつ、音を聞かせることで耳鳴りの治療を試みます。
Neuromod DevicesはFDAの承認を得るために2回の試験を実施していて、これらの試験で得られた知見を生かして、FDAの指導の下で最終段階として3回目の大規模臨床試験を行いました。
3回目の試験では初めて「音だけの刺激」と「音と電気による刺激」の比較が行われ、これらの結果を元に、最初の2回の試験の結果と対照するなどの試みが行われました。
試験では、耳鳴りに十分に悩まされていると見なされた参加者112人が集められ、第1段階では音のみの治療を6週間行い、第2段階では音のみの刺激に舌の刺激を加えたバイモーダル治療が6週間実施されました。
舌の電気刺激の強度は各参加者ごとに調整され、「知覚しにくい」から「明確に知覚できる」までの範囲のうち、各参加者が知覚できる最小限の電気刺激になるよう設定されました。この強度がキャリブレーションされた設定として保存され、参加者は舌への電気刺激をデフォルトのレベルから上下に6段階の範囲で調整可能でした。
一連の治療を各参加者に行ってもらった上で、最終週に参加者に対するアンケートを実施し、治療の満足度や、他の耳鳴り患者にLenire治療を勧めるかどうかなどを質問しました。
試験の結果、音と電気刺激のバイモーダル治療が音による刺激のみと比較して有意な改善性が見られたことがわかりました。さらに、参加者の62.9%がLenireデバイスを使用することで利益を得たと答え、88.6%が他の耳鳴り患者に治療を勧めると回答したこともわかっています。また、深刻な有害事象は報告されませんでした。
論文では「デバイス関連の有害事象によって研究を中止した参加者はおらず、デバイスの欠陥も報告されていません。興味深いことに、利益を感じたと回答した参加者よりも、治療を勧めるという患者の割合が高かったことは、Lenireデバイスの高い受容性を示しており、参加者は必ずしも治療の効果を保証されなくても、他者に勧める意欲があったことが示されています。この高い満足度と受容性は、患者が今回の試験で治療手順を正しく守った割合とも一致しています」と記されています。
この3回目の試験を経て、LenireはFDAの承認を得ることに成功しました。すでにEU加盟国の基準を満たすCEマークを取得しており、アメリカに加えてヨーロッパ圏の一部のクリニックで治療法として選択できるとのことです。